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【レビュー】映画『ブラザー富都(プドゥ)のふたり』

今回映画館で観たのは、マレーシア映画のこちら

ストーリー

マレーシア・クアラルンプールの最下層の地区、富都(プドゥ) 。ID(身分証明書)を与えられていないアバンとアディの兄弟は、移民局や警察の目を掻い潜って暮らしていた。
低賃金でも真面目に働く兄のアバンは、まともな職につかず、裏社会に足を突っ込む弟アディに「善良になれ」と諭す。
ある日、恐れていた事態が起きる。ひょんな事で殺人を犯してしまうアディ。アバンは熟慮の末、弟の代わりに自首し牢に繋がれる。
アディは、兄に弁護士をつけようと必死に働き始める。しかし、アディの願いは叶わず、アバンは有罪判決を受け、この世を去る。


感想

アバンは、「善良に生きる」ことを命を賭けてアディに教えた。
そんなアバンでも、牢屋の中で精神的に追い詰められると、自分の運命を嘆き、やり場のない思いを吐露するのだ。(ろうあの彼が声にならない声を発するこのシーンは圧巻)
出自で人生は決められてしまうのか、社会は助けてくれないのか、不条理さに胸が締め付けられる。

(実は、二人は血の繋がっていない兄弟。アバンは両親と死別しているが、アディには実父が存在しており、実父に証明してもらえればID発行のチャンスがある。そんな背景もあり、アバンは自分よりも可能性のあるアディをかばったのだ)


仲良くお互いの頭でゆで卵を割る姿がこの兄弟の関係性を表す象徴的なシーン。どんな時でも弟を見放さないで守る兄、反発しながらも兄の幸せを願う弟。

面会で「最後のゆで卵だ」と言われて、アディは兄の刑の執行を知る。
「次は、来世は、僕が兄さんを守るから」アディの言葉に、私も号泣。

そして起きた奇跡。
あれだけ拒んでいた父親に会いに行くアディの姿で幕を閉じる。

思わず目を背けたくなるシーンが続いて、見ない方がよかったかもと思いつつ、やっぱり見る価値はあった。
そして、ここ何日か映画について考えている。

劣悪な環境で暮らす貧困層。無関心な富裕層。
その間をつなぐ、社会福祉団体の職員。
物語に登場する職員のジアエンは、IDを持たない人アバンとアディのために奔走していた。
しかし、事件に巻き込まれてしまって、関わらない方が良かったにと周りに思われてしまうだろう。(医者である兄に、気をつけろと忠告されるという伏線もあった)
こうやって、また社会はこのID未所持問題に蓋をしてしまうのだろうか。


光った翻訳

個人的に気になった名訳を紹介。ただし、元の言語を知らないので意味的に的確かはわかりませんが、あくまでストーリーの中でいいね!と思った和訳を紹介。

「しがない議員」

ID取得のために、力になってほしいと働き変えられても、何も動かない地元議員。
自分のことを「しがない議員だから」と言っていた。
何もできない、する気もない、職業が議員なだけだ、といった意味がこの「しがない」に見事に含蓄されているなと思った。

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