本は読まなくてもいい。
ボクの職業は、作家だ。
ボクのベストセラー作品に『本は読まなくていい』という本がある。
この本がベストセラーになった背景は本は読まなくていいという内容にも関わらず本なので人々は読んでしまい、この本は国家から危険図書認定を受けるぐらい、まるであたかも現実逃避のモルヒネとして消費されてしまったからだ。
本は読まなくていいを読んでハマってしまった人々を本は読まなくていい症候群者と呼ばれていて、24時間家事も仕事もしない廃人たちを街中のあちこちに作るようになった。
終いには、いかがわしい連中が本は読まなくていい屋という慰安所を作り、オンナ、ギャンブル、ホンハヨマナクテイイとまで言われるようになったという。
「本は読まなくていいの作者ですね」
とうとうボクはベストセラー作家にも関わらず、
「はい、そうだよ、その通り」
見かねた国家の役人から逮捕された。
「しかしまあ…」
「なんですか?」
「驚いたよ」
「なにが?」
「キミの自宅の書斎…」
「はいよ」
「本だらけだね」
「はい」
「こんなに…こんなに…本を愛しているにも関わらずどうしてキミはわざわざ本は読まなくていいなんていう悪魔のようなベストセラー本を書いたんだい?」
「…」
ボクは答えずにうなだれて逮捕されて連行された。
答えられるわけがない。
答えが分かるぐらいなら、こんなに本を読まないわい。
さて…死刑だろうと死ぬまで刑務所の中だろうと、どんな手段を使ってでも、本を読んでやる。本を読んでやる。本を読んでやる。
本を読めば、きっと本を読まなくていい理由がいつか答えが見つかると感じるからだ。
「きひぃ!」
ボクは連行される車の中で嗤った。
ボクの頭の中は本がない今この車の中で本を読む方法を無限に考えている途中だったからだ。
(この車の中ごと本屋にしてやる!)
刹那、ボクと役人が乗客する車は爆発してしまった。
本は読まなくていい。完。
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