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ISO9001の次期改定のインプットについて考える②~品質不正を通じて考える、倫理及び誠実さと組織文化、人々の側面と関係性の管理~


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 ISO9001の内部監査およびQMSのCPDコースのセミナー、QMS/EMS/OHSMSの審査員、ISO認証取得のコンサルタントとしている舩石篤史と申します。今回、私がこれまでに行った各種セミナーおよび審査経験、ならびに業務で得られた知見からたどり着いたISOの本質的な理解についてのお伝えします。

 本連載は個人の方に限り、無料でご閲覧いただけます。ただし、法人における教材等への引用・活用は「メンバーシップ:法人用」をご購入されている法人に限り許可します。それ以外の無断引用・使用は禁止します。

 ISO9001は現時点で2026年の改定が予定されており、この原稿を書いている時点でDIS2の段階になります。規格要求事項として適用されるのは2026年からの3年間が移行期間となります。認証だけ考えるのであればその時点から対応すればよいのですが、実際にはそうはいかないでしょう。

 ISO9001の次期改定のインプットとして下記が上げられています。これ前提にしながらHLSの範囲内で要求事項が決められていきます。
①     顧客体験
②     人々の側面
③     関係性の管理
④     人口動態の変化
⑤     変化のマネジメント
⑥     統合
⑦     ナレッジマネジメント
⑧     革新
⑨     情報の側面
⑩     循環型経済
⑪     新しいテクノロジー
⑫     倫理及び誠実さ
⑬     組織文化
⑭     事業継続計画

 さて、上記の内容を鑑みての私の考えとISOに携わる人々がすべきことについて論じ、そうはならないと考える理由を論じていきたいと思います。今回は各種不正を通じての「倫理及び誠実さ」、「組織文化」、「関係性の管理」、「人々の側面」です。

 今回の論じる内容はテクノファにて「品質不正を防ぐ審査・監査のポイント」としてセミナーを行っています。より充実した内容にて講義を行っています。なお、今回の原稿はかなり難しいです。疑問等があればテクノファでのセミナーに来ていただくか、「法人用:プレミアム」プランに契約してからの質問をしてください。

 「ISO9001の本質的な理解のガイド」によって、経営とISO9001を結びつける事ができました。経営とは「顧客満足を通じた利益の獲得」と「顧客満足と組織防衛」の両軸で作られていることを示しました。


 この考え方を基本とし、ISO9001の箇条と経営を下記フロー図に落とし込無事に加え、その他MSであるISO14001/ISO45001/ISO22001を組み込みました。


 上記考え方は、個人、企業、国家のマネジメントにいて普遍的な流れであり、多くの対応が可能な考え方になります。

 ISO9001の目的である顧客満足に組織防衛も含めることで、経営とISO9001の統合をし、ISO9001がTQMであることを示しました。その他MSを統合することでTQMからTMへの進化を提言しました。

 さて、ISO9001の認証取得はTQMにおける最低限のことを行っていることを内外に示していると言えます。しかし、昨今発生している各種品質不正においては、ISO9001認証組織が長年に渡り行われているのが実態であり、ISO9001による外部審査および内部監査はなんだったのか、という根本が問われる事態と考えています。

 テクノファのセミナーにて「品質不正を防ぐ審査・監査のポイント」を行っています。品質不正が生じるには下記の2つのトライアングルで考えています。

 品質不正のトライアングルモデルと書いてありますが、環境・労働安全衛生・情報セキュリティを含め、すべての不正においてこの2つのトライアングルで説明ができます。それぞれのトライアングルを元にして論じていきましょう。

 「動機・機会・正当化」のトライアングルモデルは「意図して行う不正」に適用することができます。品質において多く見られます。具体的な動機があり、それを実現するための機会があれば不正をし、それがばれなければ正当化され組織文化となります。そして、この組織文化はOJTによる教育で連綿と続きます、表沙汰になるまで。そして表沙汰になったときは、極めて大きな損失を会社にもたらすことになります。具体的な動機には「納期が差し迫っている」「金銭的利益の獲得」の2大要因があります。「納期」は設計開発、生産等々種類を選ばず、間に合わないために誤魔化すと考えていただいて構いません。「金銭的利益の獲得」は顧客満足を無視して利益を高めようとする考えです。一番わかり易いのがビッグモーターです。なお、私は社員だった時代に生地・縫製メーカーと取引をしていましたが、その世界では物が分からない人間に対して手を抜くのがよく行われていました。騙される方が悪い、という分野でした。なぜならば、生地や縫製は新品ではひと目では分からず、時間が経過して壊れてもこんなものか、で済まされるのと命にかかわらないからです。

 「無責任・無知・無思考」のトライアングルモデルは「意図せずに行う不正」になります。
 環境において多く見られるのが、自社の設備メンテナンスを外注する場合です。外注先に全てを任せ、どのような状態になっているのかも把握していない会社がありました。これは当初はどのようなことを行うのかを把握しているのですが、年月が経過するにつれて担当者が変わり、無知になる。そして外注に任せているということから自分には関係が無いと考える無責任となり、そしてそれがあたりまえになる無意識へと変遷していきます。そしてこれらがOJTを通じて組織文化となっていきます。
 労働安全衛生においては、安全対策が行われていない無責任な設備、やってはいけないことを理解していない無知、普段から行っているからと大丈夫だという無思考、これによって事故が発生することが多くあります。実際の審査で問題と思ったのが、自組織の他工場で死亡事故が発生し、その対策が立案されたのにそれが徹底されていないことでした。

 環境と労働安全衛生については審査を行っていますが、上記は私の働いていた会社や審査をした会社で目にしています。特に珍しいことではありません。

 情報セキュリティにおいてはそれが顕著になります。なぜならば、多くの人が無知であることから安易にリスクの高いサイトにアクセスすることに加え、巧妙かつ狡猾に無思考に陥らせるパターンで悪意を持つ人達が騙してきます。

 審査および監査で弱いなと思うのが、上記のことを鑑みていないことが多いことです。性善説で見る人が多すぎると思ってます。また、サンプリングは審査員や監査員が行うこともできていないと考えています。無論、限られた時間内で審査をするためにそうならざる得ないことも出てくるでしょう。しかし、それだけを鵜呑みにして審査を終えていないでしょうか?そこからの本来あるべき深堀りができているでしょうか。この深堀りはかなり難しいです。なぜなら「性悪説」の考えで見ないといけないからです。そのためには「こういうときはこのようなパターンの可能性がある」ことの認識と力量を審査員と監査員が持っていなければなりません。

 では、なぜこの認識と力量を持っていないのでしょうか?理由は簡単です。そういうことが行われていたときに会社が被る損失を常に考えていないからです。ただし、これは審査員・監査員に限ったことではありません。企業で働く多くの人がこの認識を持つことなく、業務を行っているように思えます。もしくは、行わざる得なかった、というのこともあるでしょう。

 ただし、ISO9001:2015の箇条7,3のcとdで上記の認識を持つことを確実にすることが要求されています。なお、次回改定ではこの認識を持つことが要求される変更がされます。

7.3 認識
組織は,組織の管理下で働く人々が,次の事項に関して認識をもつことを確実にしなければならない。
a) 品質方針
b) 関連する品質目標
c) パフォーマンスの向上によって得られる便益を含む,品質マネジメントシステムの有効性に対する自らの貢献
d) 品質マネジメントシステム要求事項に適合しないことの意味
引用:JIS Q 9001:2015

 ISO9001:2015および各MSの箇条7.3のc)とd)についてどのように確実に行っているのかを審査・監査で確認されているでしょうか。私の感覚ではほとんどされていないと思います。なぜならば、これを審査・監査するのが難しいのと、組織側も何をした良いのかがかなり難しいからです。

 しかし、これまでの連載で各MSの箇条7.3のc)とd)ができないことによる経営への影響は説明をしました。各MSと経営をつなげて考えていれば十分にできるはずです。それができていなかったということは、今までのISOのMS規格を使う場合に経営と結びついていなかったことの証左と考えています。

 さて、箇条7.3のc)とd)は組織文化の要因の一つでありますが、組織文化としてこれだけでは不十分です。なぜならば各自の認識を持つだけで組織が機能をするのではなく、相互にコミュニケーションをとることが必要です。それが新しいインプットである「関係性管理」と考えることができます。これはISO9001:2015および各MSの箇条7.4が該当します。

7.4 コミュニケーション
組織は,次の事項を含む,品質マネジメントシステムに関連する内部及び外部のコミュニケーションを決定しなければならない。
a) コミュニケーションの内容
b) コミュニケーションの実施時期
c) コミュニケーションの対象者
d) コミュニケーションの方法
e) コミュニケーションを行う人
引用:JIS Q 9001:2015


 さて、審査および監査においてこの箇条をどう見ているでしょうか?
 決められた時間、場所、人、によって会議等が行われているかどうか、という適合性の観点でしか見ていないでしょうか?この箇条において適合性の観点だけで見るのは経営的に全く意味がありません。重要なのはそれぞれの会議等によってお互いの事情等が明確となり、問題があれば必要なアクションが行われているかどうかのはずです。

 これはプロセスアプローチにおいて重要な「順番」と「相互に作用する」ことの確認が行われていることに等しく、プロセスがうまくいっていないのであれば解決することが行われていなければなりません。そのために、貴重な時間を削って会議をしているはずです。つまり、プロセスに対して現状を把握して必要に応じて対応をするという有効性の視点が欠かせないはずです。

 ただし、この有効性の視点を阻害するものがあります。それが、2つの不正のトライアングルです。

 「動機・機会・正当化」のトライアングルモデルにおいては正当化が蔓延していることもありますし、動機から機会のつながりが会社全体で行われている場合があります。「無責任・無知・無思考」のトライアングルモデルにおいては、部下からの報告に対して「なんとかしろ」とだけ伝え管理職としての無責任な対応をすると、部下は以後のコミュニケーションを取らず、それが不正のトライアングルの「動機」に繋がります。実際にそのような品質不正が報告されています。これらは「悪しき組織文化」として考えるべきです。

 7.4のコミュニケーションの有効性を行うためには、「倫理及び誠実」は不可欠ですが、実際の会社の運営においては「倫理及び誠実」を抑え込む「悪しき組織文化」が珍しくありません。

 よって、「悪しき組織文化」が何から生まれるのか、を考えるのがより本質的な事柄になります。それが新しいインプットの一つである「人々の側面」につながります

 「人々の側面」とありますが、人も動物の一種であり個々で種々の欲求があるとともに、組織という群れの中における欲求もあります。つまり、人が働くときにおける心理的側面を考慮する必要が出てきます。ただし、この分野においては「行動経済学」として確立がされています。「行動経済学」は、経済学と心理学の要素を組み合わせて、人々がどのように経済的な意思決定を行うかを研究する学問分野です。従来の経済学が「人間は合理的に行動し、自身の利益を最大化しようとする」という仮定に基づいているのに対し、行動経済学は人間が必ずしも合理的に行動しないことを前提とし、実際の行動や選択を探求します。

 つまり、一概に品質不正といっても、その根本は深く考えないといけません。ISO9001の箇条7.3と箇条7.4による「組織文化」と「倫理及び誠実さ」が表に見えてきますが、人がマネジメントシステムを動かしている以上は、「人々の側面」と「関係性の管理」についても考えなければなりません。ただし、一貫して言えるのは、これらのことがらは組織のトップが示す姿勢によって大きく変わることです。なぜならば、部下は上司の顔色と背中を見て仕事をします。トップがあるべき姿を示さない場合、組織が腐っていくのは当然のことと言えるでしょう(上記のビッグモーターが良い例です)。なので、箇条5におけるトップマネジメントを起点とし、箇条7.3と箇条7.4につながっていくと考えるべきです。

 さて、かなり難しく論じました。この内容について問い合わせがある方は、「法人プラン:プレミアム」に加入していただくか、テクノファで行われている私のセミナーにご参加いただければお答えいたします。

「法人用:プレミアム」をご契約でご質問等があるかたは、下記メールアドレスまでご連絡ください。その際、noteへの登録名、会社名、所属、お名前の記述をお願いいたします。
homeobox@splash.dti.ne.jp

以上


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