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連続小説 MIA⑵ | Memories in Australia

無目的的にオーストラリアの東海岸を北上し、ケアンズからエアーズロックへと向かう旅の計画を立てた。その道中は長くなる。現金で持っている大金の半分を、市中銀行へ預けることにした。国内大手のANZ(オーストラリア・ニュージーランド銀行)の口座は入国したとき口座を開設していた。ATMは小さなパブにも設置してあるし、ANZに預けておけば国内のどこででも金を出すことができるだろう。1,500ドル(当時の為替で約14万円)を封筒へ入れ、仕事のない平日に市中銀行に預けにいくことにした。銀行へ入ると、店内はテーマパークの入場規制のようにロープで区切られ、多数のひとびとが列をなしていた。外国の給料日は知らないが、日本で言う五十日のような日に当たってしまったのかもしれない。窓口に到達するまでにどのくらいの時間がかかるのか見当もつかない。外国のATMは店の外壁に面して設置されていることが多く、公共の面前で大金を扱うことにすこし躊躇をしたものの、店外のATMへと向かうことにする。僕は封筒に入れた大金を握りしめて踵を返した。ATMで入金をしたのは初めてだった。画面に表示される文字に戸惑いながらも手続きを進めた。Depositという言葉は知っていたから、ボタンを押すと、難なくキャッシュディスペンサーは口を開いた。お金を投入すると口が閉まった。ATMの画面上、たしかに入金されたことを示す「*$ 1,500.00*」の表示がされた。それは、なんとも誇らしい気持ちだった。この金は、僕が外国で働いて、じぶんで稼いで貯めたカネだ。数ヶ月前に、シドニー国際空港に着いた時の所持金が日本円でわずか二万円程度だったことを思うと、当面の旅の資金はできたことを祝福したい気持ちになった。我ながらよくやっている。ホッとして周囲を見ると、うしろに数名の利用客が並んでいた。操作に手間取ってしまったことに、申し訳なく思い、そそくさとその場を立ち去った。祝杯のエールビールを飲むために行きつけのパブへと向かう。片言の英語でも、飽きずに相手をしてくれる初老のオーナーに会いに行こう。ついに、この場所を離れる時が来たのだ、と。これまでの出来事に乾杯をしよう。飲み物の代金を支払うために財布を開く。僕の背中はここで凍りつく。そこにあるべきはずの銀行のキャッシュカードがないのだった。

つづく(※平日の正午ごろに連載を更新します)

 Aimlessly, I planned a trip north up the east coast of Australia, from Cairns to Ayers Rock. The journey would be a long one. I decided to deposit half of the large sum of money I had in cash in a city bank. I opened an account with ANZ (Australia and New Zealand Bank), a major domestic bank, when I arrived in Japan, and ATMs were available even in small pubs. I decided to deposit the money in a commercial bank on a weekday when I did not have time to do so.When I entered the bank, the interior was roped off like an entrance control system at a theme park, and many people were standing in line. I don't know about payday in other countries, but it may have fallen on a day like the "GO-TO-BI" in Japan. I had no idea how long it would take to reach the teller window. I was a little hesitant to handle a large sum of money in public, but I decided to go to the ATM outside the store. I turned on my heel, clutching the large sum of money in the envelope, and made a deposit at the ATM for the first time. I knew the word "deposit," so I pressed the button and the cash dispenser opened without difficulty. The ATM screen showed "*$ 1,500.00*", indicating that the money had indeed been deposited. It was a very proud feeling. This money was the money I had earned and saved by myself while working in a foreign country. Considering that I had only 20,000 Japanese yen in my pocket when I arrived at the Sydney International Airport a few months ago, I felt like congratulating myself for having enough money for my trip for the time being. I was doing well. Relieved, I looked around and saw a few passengers lined up behind me. I felt sorry for having taken so long to operate the machine and quickly left the place. I headed to my favorite pub for a celebratory ale. Let's go and meet the elderly owner who never tires of dealing with me, even in my one-word English. At last, the time has come for me to leave this place. Let's make a toast to all that has happened so far. I open my wallet to pay for the drinks. My back freezes here. My bank card is not there, as it should be.

To be continued(*I will update this series at noon on Weekday.)

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𝗡𝗮𝗼𝗵𝗶𝗿𝗼 𝗞𝗼𝘀𝗮 | 小佐 直寛
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