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連続小説 MIA⑺ | Memories in Australia

「おい、酔っ払ってるのか?」駆け寄って声をかけた。近づいてみるとブラジル人兄弟の弟テオは、口から血を流している。返事がはっきりしない。「あんた一人なのか?ミゲルはどうした?」起き上がるように、肩を貸す。相手が僕だとわかると、テオは肩に腕を回してきた。吐く息から酒の匂いがする。「兄ちゃんは、ミゲルはここには居ない」とにかく部屋へ戻ったほうがいいだろう。状況が飲み込めないまま、エレベーターホールへと向かう。ホテルのロビーには、どこからか聞こえてくる無機質なモーター音があるばかりで、静けさが広がっていた。エレベーターの中でも、テオは何も話そうとしなかった。部屋へ入った途端、テオは自分のベッドに横になり、静かに寝息を立て始める。テオの傷が気にならないこともなかったが、大したこともなさそうなので放っておいた。僕はその日、明け方近くまでスコッチを飲んで起きていたが、ついにミゲルが帰ってくることはなかった。
翌朝、暑くて目が覚める。時計は正午近くになっていた。テオとミゲルの二人は既に部屋におらず、外出しているようだった。グウッと腹が鳴る。昨日買ったパスタを茹でるために、共同のキッチンへと向かう。何組かのバックパッカーが調理をしていて、それなりに混雑していた。三口のコンロのうちひとつが開き、そこで水を張った鍋を火にかけた。食堂には誰かが置いていった皿が何枚かあり、それを借りた。トマト缶を開け、茹でたスパゲッティを和える。上から粉チーズを掛ければ出来上がりだ。部屋へ持って上がるのも面倒だったので、キッチンで食べてしまうことにした。昨晩から読んでいる小説の続きが気になっていた。部屋のクーラーは効きが悪い。本を持ったまま、うろうろしていると室内プールを見つけた。中を覗くと、プールサイドに小さなバーカウンターがある。僕は、ここで本を読むことにした。ワン・パイントグラスのビールを注文し、できる限り少しずつ口に運んだ。何のために外国で生活をしているのか、自分で選んだ進路ながら、晶馬はいまだに目的を見つけられないでいた。バーカウンターに一枚の絵があった。画家の名前は知らないけれど、街角のカフェを描いたとても有名な絵だった。この絵の中で僕が存在するとすればどの役割になるのだろう。店の中か、あるいは店外か。いや。そもそも、画面の中に登場することすら、出来ないのかもしれない。

つづく(※平日の正午ごろに連載を更新します)

"Hey, are you drunk?" I ran up to him and called out. As I approached, I saw that my Brazilian brother, Theo, was bleeding from the mouth. His reply was unclear. “Are you alone? What happened to Miguel?" I lend him my shoulder to help him get up. When Theo realizes it's me, he puts his arm around my shoulder. I can smell the liquor on his breath. I'd better go back to my room anyway. Unable to grasp the situation, I head for the elevator hall. There was silence in the hotel lobby, just the sound of an inorganic motor coming from somewhere. Even in the elevator, Theo made no attempt to speak. Once in his room, Theo lies down on his own bed and begins to sleep quietly. I didn't mind Theo's wound, but it didn't seem to be anything serious, so I let it go. I stayed up drinking scotch until nearly dawn that day, but Miguel never finally returned.
The next morning, I wake up hot. The clock was nearly noon. Theo and Miguel were already not in their room and seemed to be out. My stomach growled. I head to the communal kitchen to boil the pasta I bought yesterday. There were several groups of backpackers cooking, and it was reasonably crowded. One of the three stoves was open, and there I put a pot of water on the fire. There were some plates in the dining room that someone had left behind, and we borrowed them. He opened a can of tomatoes and added boiled spaghetti. Sprinkle cheese powder on top and it is ready to eat. It was too much trouble to take the dish to my room, so I decided to eat it in the kitchen. I was anxious to read the rest of the novel I had been reading since last night. The air conditioner in the room was not working well. Wandering around with the book in my hand, I found an indoor swimming pool. I looked inside and found a small bar counter by the pool. I decided to read my book here. I ordered a one-pint glass of beer and sipped as little as I could. He wondered what he was living in a foreign country for, a career path he had chosen for myself, but Shoma still hadn't found his purpose. There was a picture on the bar counter. He doesn't know the artist's name, but it was a very famous painting depicting a street corner café. He wondered what role, if any, He would play in this painting. Inside or outside the store? No, I am not. In the first place, I may not even be able to appear in the picture.

To be continued (*The series will be updated around noon on weekdays.)


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𝗡𝗮𝗼𝗵𝗶𝗿𝗼 𝗞𝗼𝘀𝗮 | 小佐 直寛
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