エンツォ・トラヴェルソ『ポピュリズムとファシズム 21世紀の全体主義のゆくえ』
全体主義の研究家、エンツォ・トラヴェルソによるポピュリズム解題の書。アメリカのトランプ現象からフランスのルペン、ドイツにおけるAfD等を包括的に考察する、ポスト・ファシズムとしてのポピュリズムを考察する一冊。
概念とその出典元となる著述家の名前が大量に上がり、その中には日本で翻訳が殆ど進んでいない著述家のものも多数存在し、現在の欧州における急進派分析を行う上で非常に総覧的な、良質な資料となる。
ただ、あくまでポピュリズムと称される一連の運動は議会主義的な、議会を舞台として民衆に訴えかける一連の運動であることから、反議会主義或いは議会を持たない独裁国家の現状分析はあまり深いところまで切り込んでいない印象がある。
また、唐突に始まる(著者とは別の人物による)日本ポピュリズムの分析は如何にも杓子定規で、一般的なリベラルな知識人であれば一度は聞いたことがあるような話をし始めるので、ここは全く、殆ど読む価値はないと言っていい。
時期としては宇露戦争以前、コロナ以後に位置する書物であるため、議会を通さないファシズムのアプローチ、残存する独裁の要素について述べられれば良いのだが……どこかのタイミングで出てくる気がするので、これ以上は言わないことにしよう。
なんであれ、先の『全体主義』と並んで、正確にファシズムからポピュリズムに至る、民衆の熱狂的支持を伴う運動の分析としては良書の一言で、聞きかじりの話で批判するよりは、一読して判断をした方が良いだろう、と付記することで話を終えたい。
有料部分には面白かった記述や、参考となる文言を引用し記述する。
ここから先は
2,872字
¥ 300
この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?