文乃綴

感想文の書き置き。備忘録。 小説 https://kakuyomu.jp/users/AkitaModame

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最近の記事

2023年憂国忌記念記事『三島由紀夫の墓に行ってきた』

 文学者・三島由紀夫の墓は多磨霊園にある。  多磨霊園というのは、かの有名な東郷平八郎の墓が出来て以来、著名人が埋葬される場所として知られるようになり、文学者であれば三島由紀夫以外にも大岡昇平であるとか(鉢の木会で三島と喧嘩別れになったことを考えれば実に皮肉)その他にも江戸川乱歩や岡本かの子、有島武郎や田山花袋、菊池寛、中島敦、舟橋聖一、堀辰雄、向田邦子、横光利一と多種多様な作家の墓があることで有名であり、恐らく知っている作家の墓をまわるだけでも一日潰れてしまうであろうことは

    • ヴァルター・ベンヤミン『暴力批判論』

       ジョルジュ・ソレル『暴力論』を前提として語る『暴力批判論』他十篇を収めた一冊。ベルリンに居た時代の仕事を纏めたものだが、今回は『暴力批判論』に的を絞って論ずる。  ジョルジュ・ソレル『暴力論』は権力と暴力の二分類を唱え、ゼネストによる革命と神話の構築を訴えたのに対し、タイトルとは裏腹にベンヤミンも革命的暴力には存外に肯定的であり、その過程には議会制民主主義批判もまた同時に混ざる。 ただ問題なのは、ジョルジュ・ソレルがフランス人であり、フランス革命においてロベスピエールが『

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      • エンツォ・トラヴェルソ『ポピュリズムとファシズム 21世紀の全体主義のゆくえ』

         全体主義の研究家、エンツォ・トラヴェルソによるポピュリズム解題の書。アメリカのトランプ現象からフランスのルペン、ドイツにおけるAfD等を包括的に考察する、ポスト・ファシズムとしてのポピュリズムを考察する一冊。 概念とその出典元となる著述家の名前が大量に上がり、その中には日本で翻訳が殆ど進んでいない著述家のものも多数存在し、現在の欧州における急進派分析を行う上で非常に総覧的な、良質な資料となる。 ただ、あくまでポピュリズムと称される一連の運動は議会主義的な、議会を舞台として民

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        • 桑野隆『20世紀ロシア思想史』

           数少ないロシア思想の概略的解説を行う本。流れとしてもソロヴィヨフの神学から始まり後半にモスクワ・タルトゥ学派周辺に至るので流れを追う上ではとても参考になると感じる。 反面、それぞれの思想家の思想解説については短く、種類は多いがロシア思想を突き詰めていこうとする人には不向き。ロシア思想それ自体の翻訳が多くないせいか、原典の明示もあまり多くなく、読者は個別に調査を迫られるだろう。 元々ある程度知名度のある人物の思想については目新しさはないものの、我が国では翻訳に恵まれていないイ

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          エンツォ・トラヴェルソ『全体主義』

           イタリア出身の歴史学者、エンツォ・トラヴェルソが執筆した一般書に属する、政治世界において度々出回る語彙”全体主義”について、その語彙の登場から意味の変遷その現在までを記述したもの。  全体主義という語彙を巡る様々な論考と視点を網羅的に記述したこの一冊から見出し得るのは、全体主義という言葉が如何に複数の政治勢力及びその代弁者が都合良く、様々な理屈をつけながらも、曖昧な意味のまま現実政治を批評する時に使用してきた、その履歴である。 しかし、一纏めに扱われる全体主義(全体主義国

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          エンツォ・トラヴェルソ『全体主義』

          ガラクチノフ、ニカンドロフ『ロシア・ナロードニキのイデオローグ』

           ロシア帝政末期におけるロシアの政治運動その総称としてのナロードニキの思想的根幹とされる人々の思想解題書。 非常に難解なのですが、その難解さというのがロシア思想が背景に持つロシア正教の風土性であったり、或いは当時流行した思想潮流の導入であったりして、ロシア思想の背景(風土)と18世紀における流行の双方を踏んだ上で、ようやくある程度の理解が可能になる。 とくに理解と解読を要するのは『リーチノスチ』であり、また或いは『ナロード』という一つの単語であり、これらはロシア正教とそれを生

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          ガラクチノフ、ニカンドロフ『ロシア・ナロードニキのイデオローグ』

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          2022年憂国忌記念解説記事『三島由紀夫の肉体改造……或いは蟹の話』

           三島由紀夫の晩年の戯曲作品に『癩王のテラス』というものがある。  この作品が世に出たのは一九六九年のことで、三島由紀夫が自決する前年に出た二つの戯曲のうちの一つとなる。(もう一つは『椿説弓張月』である)……『椿説弓張月』が曲亭馬琴の読本の歌舞伎化であることを考えれば、この『癩王のテラス』は三島由紀夫が書いた最後の三島オリジナルの戯曲であると言って間違いない。  三島文学を追いかける人間にとってかなり重要な表現が多数存在しているこの『癩王のテラス』という戯曲は、全体の出来で

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          2022年憂国忌記念解説記事『三島由紀夫の肉体改造……或いは蟹の話』

          2021年憂国忌記念解説記事『三島由紀夫のご先祖様、その系譜について』

          1970年11月25日に壮烈な自決を行った作家・三島由紀夫の血縁が一種錚々たるものであることは、一部読書家の間で有名である。 三島自身は自らの血筋について 「私は血すぢでは百姓とサムラヒの末裔だが、~」 と語っているが、では彼の血筋を辿っていくと誰に行き着くのか? 彼の父の名前は平岡梓と言い、農商務省の官僚である。この農商務省というのは戦前に存在した省庁の一つであり、現在は存在しない。 その父。つまり、三島由紀夫から見て祖父にあたる平岡定太郎は樺太庁の三代目長官であったが、疑

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          2021年憂国忌記念解説記事『三島由紀夫のご先祖様、その系譜について』

          2020年憂国忌記念解説記事『三島由紀夫の同性愛について』

           1970年11月25日。かの有名な三島事件を起こして三島由紀夫は壮絶な死を迎えるわけですが、今年は49年目になります。来年には50年目ですね。ところで、1995年には地下鉄サリン事件が起きており、来年はなんと東京オリンピックの年です。何もないと良いですね!  さて、三島由紀夫のセクシャリティについて、これは概ねバイ・セクシャルであったと考えて良いでしょう。妻を持ち子供も設けておりますが、同時に自身で語っていた通りの同性愛傾向も持っていて、福島次郎が三島との関係について『剣

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          2020年憂国忌記念解説記事『三島由紀夫の同性愛について』

          チャック・パラニューク『サバイバー』

           現代の読書家が映画『ファイト・クラブ』を観て、新版『ファイト・クラブ』を、そして新版『サバイバー』を読めるのは幸福なことだと思う。しかし私はそのような、幸福な読み方をしてこなかった……あまり悲しいこともない。何なら、半笑いかもしれない。 不幸な履歴とはつまり『ララバイ』を過去に読んでいることであり、チャック・パラニュークという作家の本質的な部分は寧ろ『ララバイ』で垣間見ることが可能な部分にこそあるように感じられる。 つまり私はこのチャック・パラニュークという作家のいわば

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          チャック・パラニューク『サバイバー』

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          ポール・オースター『孤独の発明』

           物語は、恐らくオースター本人であろう語り部の父の死から始まる。父の遺品や、終の住処となった家を整理しながら、語り部は時系列を遡り、ついぞ掴み切れなかった父のその肖像を想像し始める。 そうした思索を尽くした末に、前章と言って良い『見えない人間の肖像』は終わる。 次に始まる『記憶の書』においては、語り部であり、恐らくオースターであろう彼が紙に過去の記憶について記述を開始する。 紙上にて、様々な人物や物語が回想される。不遇の音楽家、悲劇の詩人、聖書におけるヨナ、ピノキオの物語

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          ポール・オースター『孤独の発明』

          アトウッド『侍女の物語』斎藤英治

           私はこの作品の中身について言及するにあたり、表現の自由と自らの誠実性と政治的一貫性の担保のために、個人としての最大限の誠実さをもって、一読書家としての誇りをもってこの一冊を評することをここに宣誓するものである。 この作品はいわゆるディストピア小説の系譜に連なる作品であり、根本的にはフーコーの言う”生-権力”について表現を行ったSF小説であると言える。 女性の人権が侵害され、子供を産むことを至上命題とされたこの世界において、主人公であるオブフレッドは幾つもの夜を重ねてそれを

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          アトウッド『侍女の物語』斎藤英治

          エルンスト・ユンガー『ヘリオーポリス』

           第一次世界大戦時に従軍し、勲章を受けた軍人にして文学者エルンスト・ユンガーの、積極的にそう話すことのできる代表作。それが『ヘリオーポリス』である。  この文学者はヴァイマル共和政ドイツにおける右翼革命家(或いは左翼的右翼)と称され、ドイツがナチ党によって支配されることから、その政治的立場の解釈は前知識なしには不可能であろうと思われる。  その上でこのエルンスト・ユンガーなる作家を、様々な前提知識抜きに語るのであれば『不能的冒険家』であろうと私は考える。 彼自身はある種の

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          エルンスト・ユンガー『ヘリオーポリス』

          チャック・パラニューク『ファイト・クラブ』

           この作品は映画『ファイト・クラブ』の原作であり、映画でままある、原作をベースに大規模な翻案を加えたものなのではないかと疑っていたわけだが、その予想は外れていた。寧ろ、かなり忠実に映像化がなされていたことを読んで初めて理解した。  映画自体、とある評論家から「マッチョ・ポルノ」であると評されたが、これは原作も込みで考察すれば四割ほどの的中率であろうと私は考える。 この物語と対比的に語り得るのは『侍女の物語』ではないかと考えられる。しかし私は明確にこちらが、つまり『ファイト・

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          チャック・パラニューク『ファイト・クラブ』

          エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』日高六郎訳

           或る種ユートピア的な夢想的言語としての自由ではなく、近代的な社会の発展が人々に自由を与えるが、その自由には正負の両面が存在するのだというところから話が始まる。  つまり、自由とは物事を自己の意志によって決定「することが出来る」という側面と、物事を自己の意志によって「決定しなければならない」という両面が存在するのである。 そしてここから……商業の発展によって巨大化していく資本の営みが、人間個人にかかる作業と実態としての会社・企業・事業の動作に乖離が生じていく過程をあらわにし

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          エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』日高六郎訳

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          神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』

           前作『グッドラック〜』は戦闘の要素が強烈であったが、その続きのお話を見ると今度は如何にもSF的なお話の中に分け入っていく。読んだこともないのにスタニスワフ・レムの『ソラリス』が想起された。  ジャムと呼ばれる敵性存在と、ジャムの側についた人間。それに対抗するために機械が人間を侵食しながら一体化していく。そして何より、物語としての雪風は終わらない。永久に終わりの見えない戦いは読者と作品内容の奇妙なシンクロ感覚をもたらす。 ……いつ終わるんですかね、これ。本当に終わりが見え

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          神林長平『アンブロークンアロー 戦闘妖精・雪風』

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