エンツォ・トラヴェルソ『全体主義』

 イタリア出身の歴史学者、エンツォ・トラヴェルソが執筆した一般書に属する、政治世界において度々出回る語彙”全体主義”について、その語彙の登場から意味の変遷その現在までを記述したもの。

 全体主義という語彙を巡る様々な論考と視点を網羅的に記述したこの一冊から見出し得るのは、全体主義という言葉が如何に複数の政治勢力及びその代弁者が都合良く、様々な理屈をつけながらも、曖昧な意味のまま現実政治を批評する時に使用してきた、その履歴である。
しかし、一纏めに扱われる全体主義(全体主義国家)の語彙に該当するとされてきたソビエト連邦、ナチスドイツ、ファシズム下のイタリアにも明確な差異が存在し、それぞれの分析の余地がありながら、しかし総称として"全体主義”の語彙はそのまま流通を続ける。
その論理上の不誠実さ、政治的ご都合主義を明らかにしながら、全体主義と称された国家の詳細を記述していくその筆致は精密かつ誠実なものであり、現在においてもこの著述に描かれるのと同様に流通する”全体主義”の語彙について、再考しようと思う人は一度読んでみる価値があると言える。

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