舞埋マイワールド 第10話

今日も沢山の他人という私の世界が舞い埋もれている。

―昼―

<駅周辺>

マネルちゃん「はあ~」しょぼーん

不意打ち君「どうしたんだ元気ないじゃんマネルちゃん。もしかしてまた元気ない人の真似でもしてるのか? だとしたら相変わらず怖いことしてるな」

マネルちゃん「違うんだ、凄く落ち込むことがあって」

不意打ち君「他人に依存せずに自主的に落ち込んでるのか。珍しいことしてるな」

マネルちゃん「うん。実は今日ある人から愛情を理由に殴られたんだ」

不意打ち君「あ~いるよなそういうクズ。理不尽なことをされて、それで落ち込んでたのか」

マネルちゃん「そうだけど、そうじゃないよ。殴られて痛くて気分が落ち込んだけど、私も見習って真似をして殴ったら怒られたの。それで凄く落ち込んでるんだ」

不意打ち君「はっ!?」

マネルちゃん「ん?」

不意打ち君「どういう意味だよ……」

マネルちゃん「うーんとっ、だから、その。……ある人から愛情拳をお腹に叩き込まれたから、私も真似してお礼に感謝拳をその人の顔面に喰らわせたの。そしたら逆切れされた。でも直ぐに悟って、謝罪拳と感謝拳でお腹をちゃんと二回殴り直したんだよ。それなのにまた逆切れされちゃったの。だから私は感謝と謝罪の気持ちを込めて殴ったことを説明したんだけど、相手は理解してくれなかった。本当に理不尽だよ」

不意打ち君「……」

不意打ち君(……マジかよ)

マネルちゃん「そんな訳で私は今凄く落ち込んでるの。愛情を込めて殴ることを良しとする相手なら、感謝を込めて殴られるのも良いはずでしょ。それなのに怒られた、自分だって似た様なことをしてるのに。あの人は変な人だよ」

不意打ち君「愛情で殴った相手もヤバいけど、お前もだいぶヤバいぞ」

マネルちゃん「相手が怒ったから、そうかもね。やっぱり拳を振るう理由は自分や誰かを危険から守るだけで十分なんだよ。それ以外の理由は必要ないよ。今回の件でそう感じた」

不意打ち君「はあー」

マネルちゃん「不意打ち君は何で相手が逆切れしたか解る? 私には理解できないよ」

不意打ち君「まあおおよその見当は。じゃあ改めて聞くけど、愛を理由に殴ってくる奴らが、感謝を理由に殴られたら怒ると思うか?」

不意打ち君「普通に考えたら、怒らないでしょ」

不意打ち君「俺もそう思う。それで殴られた相手が激怒するのは、ただ単に暴力を振りかざしたいだけのクズだって意味だ。だからマネルちゃんに殴られて逆切れしたんだよ。痛いのが嫌で怒ったんだよ。つまり他人を傷つけたいだけのゴミだってことが露呈したんだ。結局は愛情なんて端からなかったんだよ。分かったか?」

マネルちゃん「うーん、微妙な回答だね」

不意打ち君「オイ!」

マネルちゃん「でも話したら気分が楽になったよ。話を聞いてくれてありがとう不意打ち君」

不意打ち君「これ以上他人のバカな言動は真似するなよ」

マネルちゃん「うん。真似する相手が馬鹿じゃなければ、私は馬鹿なことしないよ。だから大丈夫だよ、心配しないでね」

不意打ち君「何が大丈夫なんだよマネルちゃん。やっぱり危険だよ……お前は」

マネルちゃん「そうかもね、じゃあね不意打ち君」

不意打ち君「はあー、じゃあな」

今日も沢山の私という他人の世界が舞い埋もれている。

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