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立ち直るために腕を切る

 なんの用事もない日曜日さいっこーー。休日のわりには早起きをして、時間泥棒のスマホもなるべくぶん投げといて、お昼までに洗濯も給油も買い物も済ませたったった。ドライブスルー洗車のことをスプラッシュマウンテンって呼んでた友達を思い出しながら拭いた車はぴかぴかだ。すてきな感性。遊び心のもちかた次第だよね人生って。しらんけど。

 さて、今回はわたしの自傷癖について。派手な描写や画像は入りませんが、苦手なひとは読むのやめといてくださいね。見出しのねこちゃんは堪能しといてね。はすはす。

 別の記事に書いたとおり、わたしは「この身体は親にもらったもの」という意識が変に強い子どもだった(「ピアスを開けたら視界が開けた21の秋」参照)。なのに腕は切れる。はてな。

 そしてわたしは血が苦手だ。字面だけでじゃっかんヒュンッとするくらい。
 初めて採血を受けた高校生のとき、気を紛らわせようとしてくれていた看護師さんとの会話がとまった途端に「ちょぼぼぼぼ……」と血が採血の容器の内側にあたる音が聞こえた。
 ひえっ。むり。おわた。
 その瞬間とてつもない眠気に襲われて、頭ががくんと落ちた。あとで聞くと、迷走神経反射というらしい。こわっ。ほんで、寝たんじゃなくて気絶らしい。こわっっ。それ以来、採血を受ける際には必ず横になった状態でお願いするようにしている。なのに腕は切れる。ほんとにはてな。

 自傷をするようになったのは中学1年生の終わりごろ。そこから十数年経つなかで、行為自体はそのままでも、意味合いは変わっていっている。

 始めたきっかけは覚えていない。わかるひとにはわかる?貝印のピンクのカミソリで。どう考えても用途外の使い方してすみません。そのときの率直な感想は、なんだこんなもんか。だった。浅かったほでかゆくてぴりぴりするだけ。それでもなぜか繰り返すようになった。制服のポケットに入れっぱなしにして、授業中の眠気ざましに机の下でぴっぴぴっぴとやっていた。ほんで寝てた。だめじゃん。

 中学生や高校生のときのわたしは、いわゆる優等生というか、大人に気に入られるのが上手というか、「あの子は大丈夫」と放っておかれるタイプの子どもだった。気にかけてもらえたり、構ってもらえたりするのはいつだって弱くて人前でぴーぴー泣ける子。なんだかそれが悔しくて寂しくて、時々試すように腕をまくってみていた。わたしを見てほしい。わたしだって踏ん張ってるのに。そんな思いが、腕を切るという行為に表れていたように思う。

 一方で、絶対に家族には知られたくなかった。元気でかわいい娘でいたいから。悲しませたくないから。でも、ある日うっかり母の目の前で腕まくりをしてしまった。「今度したくなったら、刃物じゃなくて赤ペンにするといいよ。気持ちが落ち着くのは一緒だからね」とだけ声を掛けてくれたけど、どれだけショックだっただろう。ごめんやで。
 その心苦しさから、「親を悲しませてまで行う戒めの行為」みたいな、ばちあたりな自分を責める、的な意味合いも含まれるようになった。筋金入りのドMメンタル。

 大学生になってから一時期はすっぱりやめられていた。傷跡はあっても白く目立たないので、バイトの制服も半袖のまま着ていたくらい、わたしの生活から遠ざかっていった。いいぞその調子だ~~、と思っていたのもつかの間。

 社会に出て働きだしてからまた頻度が増えてしまった。ただ、10代のときとは意味合いが変わっている。誰かに傷を見せたいとも、何かに気づいてほしいとも思わない。
 知らない土地で、初めての仕事で、わからないことばかり。安心して話せる先輩も、悩みを相談できる友達もいない。社会人2年目くらいまで圧倒的アウェイな人生。そんななか、心を押し潰している不安や不満やあらゆるネガティブな黒いものを、傷というかたちで可視化するような感覚だった。

 当たり前だけど、傷はばっちくて痛い。傷そのものだけじゃなくて、腕全体が腫れあがって熱をもつ。何をしていてもじんじんするし、袖があたっているだけで痛む。傷を気にかけながら過ごす。すると次第に塞がっていく。かさぶたになるとかゆくなる。それを越えると、白いもこもこした線になる。
 今のわたしにとっては、自分でつけた傷だけど、つらかったね、頑張ってるよね、ちゃんと治るからね、と心ごといたわって、育てているような。自分をかわいがるために、心の傷を見えるものにする行為になった気がする。

 ちなみに、年中なにかしら羽織っていても怪しまれないように、職場では寒がりというキャラクターを徹底的に貫いている。それでもさすがに近年の猛暑を長袖で乗り切るのはきついので、すけすけ素材やあみあみ素材のカーディガンを羽織るようにしている。「エアコンの冷風が直接当たるのが苦手で……」みたいな、デリケートちゃんアピールをしつつ。

 そんなこんなで。実際の知り合いには絶対しない話を思うぞんぶん書けて満足。10代のときに比べて、傷が治るまでの時間が明らかに長くなっているところ、そして、きれいに治りきらず、いつまでも赤い線になって残るようになってしまっているところに年齢を感じているという余談も添えて。自分を大事にするための確たる手段を手に入れるまでは、もうちょっと付き合うことになるのかな。


 

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