【企業経営理論#19】製品=市場マトリクス
製品=市場マトリクス
製品=市場マトリックス(Product-Market Matrix)はアンゾフの成長マトリックスとも呼ばれ、企業が企業戦略(成長戦略)を策定する際に役立つフレームワークです。
1957年に、アメリカの経営学者 イゴール・アンゾフ によって提唱されました。
概要
製品=市場マトリクス(アンゾフの成長マトリックス)は、
企業の成長を2つの軸で捉えます。
製品:既存製品 vs 新規製品
市場:既存市場 vs 新規市場
この2つの軸を組み合わせることで、4つの成長戦略が導き出されます。
4つの成長戦略
市場浸透 (Market Penetration)
既存製品 を 既存市場 にさらに浸透させる戦略。
顧客基盤の拡大、販売チャネルの増加、プロモーション強化などによって、既存市場でのシェア拡大を目指す。
リスクが比較的低く、実行しやすい戦略ですが、市場が飽和状態に達すると成長が鈍化する可能性がある。
例:顧客ロイヤリティプログラム、広告キャンペーン、価格割引、販売促進キャンペーン、など
新製品開発 (Product Development)
既存市場に新しい製品を投入する戦略。
新製品開発、製品ラインの拡張、既存製品の改良などによって、顧客に新たな価値を提供し、市場シェアを拡大する。
新製品開発には、時間とコストがかかり、市場に受け入れられないリスクもある。
例:新機能の追加、新モデルの開発、ブランド拡張、技術革新、など
新市場開拓 (Market Development)
既存製品を新しい市場に投入する戦略。
新規顧客セグメントへの参入、新規地域への進出、新たな販売チャネルの開拓などによって、市場を拡大する。
新規市場の開拓には、市場調査やマーケティング戦略の変更などが必要となり、リスクも伴う。
例:海外進出、オンライン販売、フランチャイズ展開、B2BからB2Cへの変革、など
多角化 (Diversification)
新しい製品を新しい市場に投入する戦略。
新規事業の立ち上げ、企業買収、合弁事業などによって、事業ポートフォリオ⁽¹⁾を拡大する。
成長可能性が高い戦略だが、リスクも最も高く、新規事業の立ち上げには、多大な投資と経営資源が必要となります。
例:異業種への参入、新規技術の開発、M&A、スタートアップの買収、など
1)ポートフォリオ・・・もともとは金融業界で使用されていた言葉で、資産の組み合わせを意味します。
投資家が株式や債券などを組み合わせて保有することで、リスクを分散し、安定的な収益を得ようとするように、企業も複数の事業を組み合わせることで、リスクを分散し、安定的な成長を目指します。
これが、事業ポートフォリオの考え方です。
製品=市場マトリックスの活用
製品=市場マトリックスは、企業が自社の成長戦略を検討する際に、以下の点で役立ちます。
成長機会の特定:4つの成長戦略を検討することで、自社にとって最適な成長機会を特定する。
リスクの評価:各戦略のリスクを理解することで、リスクを最小限 に抑えながら、成長を追求する。
経営資源の配分:各戦略に必要な経営資源を明確にすることで、経営資源を効率的に配分する。
意思決定:経営陣が成長戦略について議論し、意思決定を行うためのフレームワークとして活用できる。
製品=市場マトリックスの限界(デメリット)
製品=市場マトリックスは、シンプルで分かりやすいフレームワークですが、限界もあります。
単純化:製品と市場という2つの軸のみで分析するため、現実の複雑なビジネス環境を十分に反映できない可能性がある。
静的な分析:製品=市場マトリクスは、ある時点における企業の状況を分析する静的な分析であるため、市場や競合の動的な変化を捉えるのが難しい。
相互依存性の無視:フレームワーク上は、4つの戦略(市場浸透、新製品開発、新市場開拓、多角化)は相互に排他的なものとして扱われるが、実際にはこれらの戦略は組み合わせて実行される場合も多い。
定量的な分析の難しさ:製品・市場マトリックスは、定性的な分析フレームワークであり、数値化が難しい場合がある。
まとめ
今回は、製品=市場マトリクスについてまとめました。
製品=市場マトリックスは、企業の成長戦略を検討するためのフレームワークとして活用されています。
しかし、その限界を理解し、他の分析手法と併用することで、より効果的な 戦略策定が可能になります。
次回は、BCGマトリクスについてです。
復習問題
問題1:穴埋め問題
製品=市場マトリクスは、企業の成長を( ① )と( ② )の2軸で捉える。
既存製品を既存市場にさらに浸透させる戦略は、( ③ )と呼ばれます。
既存市場に新しい製品を投入する戦略は、( ④ )と呼ばれます。
既存製品を新しい市場に投入する戦略は、( ⑤ )と呼ばれます。
新しい製品を新しい市場に投入する戦略は、( ⑥ )と呼ばれます。
問題2:正誤問題
製品=市場マトリクスは、企業の内部環境を分析するためのフレームワークである。( ○ / × )
市場浸透戦略は、リスクが比較的低く、実行しやすい戦略である。( ○ / × )
新製品開発は、時間とコストがかかり、市場に受け入れられないリスクもある。( ○ / × )
新市場開拓では、市場調査やマーケティング戦略の変更などは必要ない。( ○ / × )
多角化は、成長可能性が高い戦略だが、リスクも低い。( ○ / × )
問題3:組み合わせ問題
次の4つの成長戦略と、具体的な例を正しく結び付けてください。
問題4:記述問題
製品=市場マトリクスの2つの軸を説明してください。
4つの成長戦略について、それぞれ詳しく説明してください。
製品=市場マトリクスを活用するメリットを3つ挙げてください。
製品=市場マトリクスの限界を3つ挙げてください。
問題5:多肢選択問題
以下のうち、市場浸透戦略の例として適切なものをすべて選びなさい。
a. 顧客ロイヤリティプログラム b. 広告キャンペーン c. 新製品開発 d. 海外進出 e. 異業種への参入
問題6:多肢選択問題
以下のうち、新製品開発戦略の例として適切なものをすべて選びなさい。
a. 価格割引 b. 新機能の追加 c. 新規顧客セグメントへの参入 d. 新技術の開発 e. M&A
問題7:多肢選択問題
以下のうち、新市場開拓戦略の例として適切なものをすべて選びなさい。
a. 販売促進キャンペーン b. ブランド拡張 c. オンライン販売 d. フランチャイズ展開 e. 新規事業の立ち上げ
問題8:多肢選択問題
以下のうち、多角化戦略の例として適切なものをすべて選びなさい。
a. 顧客基盤の拡大 b. 技術革新 c. 異業種への参入 d. 新規技術の開発 e. スタートアップの買収
問題9:記述問題
ある飲食店が、製品=市場マトリクスを活用して成長戦略を検討する際に、どのような点に注意すべきでしょうか? 具体的な例を挙げて説明してください。
問題10:記述問題
あるアパレルメーカーが、製品=市場マトリクスを活用して、海外市場に進出する際の得られるメリットとリスクを検討してください。
解答
問題1
① 製品 ② 市場
③ 市場浸透
④ 新製品開発
⑤ 新市場開拓
⑥ 多角化
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