【企業経営理論#15】企業の社会的責任
企業の社会的責任
前回までで、第1章 経営学の基礎が終了し、
今回から、第2章 企業と経営戦略に入ります。
第2章の初回は、” 企業の社会的責任 ”についてです。
企業活動とは
そもそも企業とは何を目的とした組織なのでしょうか?
簡潔に言うと、企業の最終目的は、利益を上げることです。
そのために、「企業が収益を獲得し、事業を継続していくために行う、あらゆる活動」のことを企業活動といいます。
企業活動の種類
企業活動は、大きく以下の3つに分類できます。
調達活動
事業に必要な原材料や部品、サービスなどを調達する活動。
サプライヤー(供給者)との交渉、契約、品質管理、在庫管理など。
生産活動
調達した原材料や部品を用いて、製品やサービスを生産する活動。
製造、加工、アセンブリ、サービス提供 など。
販売活動
生産した製品やサービスを顧客に販売する活動。
マーケティング、販売促進、流通、顧客サポート など。
これらの活動に加え、
研究開発:新しい製品やサービス、技術を開発する活動。
人事:従業員の採用、育成、評価、配置などを行う活動。
財務:資金調達、資金運用、財務分析などを行う活動。
広報:企業の情報を発信し、社会とのコミュニケーションを図る活動。
なども重要な企業活動です。
企業活動と経営資源
企業は、 経営資源を活用して企業活動を行います。
経営資源とは、企業が事業活動を行うために必要な資源のことで、
ヒト、 モノ、 カネ、 情報 の4つに分類されます。
ヒト: 従業員の能力、スキル、知識、経験、モチベーションなど
モノ: 設備、機械、工場、土地、建物、在庫、原材料など
カネ: 資金、資本、資産、負債、収益など
情報: 顧客データ、市場データ、技術情報、競合情報など
企業は、これらの経営資源を効率的かつ効果的に活用することで、収益を獲得し、事業目標を達成することができます。
企業は企業活動を通じて、社会の中で様々な役割を担っており、その活動は経済、社会、環境に大きな影響を与えます。
しかし、現代社会においては、利益を追求するだけでなく、社会への貢献や 環境問題への対応など、企業の社会的責任(CSR)を果たすことも求められています。
企業活動とCSR
企業活動は、社会や環境に大きな影響を与えます。
そのため、企業はCSR(Corporate Social Responsibility)を意識し、責任ある行動をとることが求められます。
CSRとは、企業が利益を追求するだけでなく、社会の一員としての責任を果たし、社会全体のwell-beingに貢献するための取り組みを指します。
現代社会において、企業は経済活動を通じて社会に貢献するだけでなく、環境問題や社会問題にも積極的に取り組み、持続可能な社会の実現に貢献することが求められています。
具体的には、環境保護、社会貢献、人権尊重、コンプライアンス遵守など、様々な活動が含まれます。
CSRの広がり
CSRは、1950年代にアメリカで生まれた概念ですが、近年では世界的に広がりを見せています。
1990年代:環境問題への関心の高まりやグローバル化の進展などを背景に、CSRが注目されるようになった。
2000年代:ISO26000(社会的責任に関する国際規格)が発行されるなど、CSRの国際的な枠組みが整備された。
2010年代:SDGs(持続可能な開発目標)が採択され、企業はCSRを通じてSDGsの達成に貢献することが求められるようになった。
CSRの7つの原則(ISO26000)
ISO26000では、CSRの7つの原則が定められています。
説明責任:組織は、その意思決定及び活動の影響について説明責任を負う。
透明性:組織は、意思決定及び活動に関する情報を明確、正確かつタイムリーに開示する。
倫理的な行動:組織は、倫理的な価値観及び行動規範に従って行動する。
ステークホルダーの利害の尊重:組織は、すべてのステークホルダーの利害を尊重する。
法の支配の尊重:組織は、活動するすべての場所で法の支配を尊重する。
国際行動規範の尊重:組織は。国際行動規範を尊重する。
人権の尊重:組織は。人権を尊重し、擁護する。
CSRの中核主題(ISO26000)
ISO26000では、CSRの7つの中核主題が定められています。
組織統治:組織の意思決定プロセス、リーダーシップ、説明責任など
人権:差別撤廃、児童労働の禁止、強制労働の禁止、結社の自由、団体交渉権など
労働慣行:雇用、労働安全衛生、労働時間、賃金、社会保障、人材育成など
環境:環境負荷の低減、気候変動への対応、資源の有効活用、生物多様性の保全など
公正な事業慣行:腐敗防止、競争法の遵守、知的財産権の尊重、公正な取引など
消費者課題:消費者の安全、プライバシー保護、消費者教育、苦情処理など
コミュニティへの参画及びコミュニティの発展:地域貢献、社会福祉活動、教育支援、文化振興など
CSRピラミッド
CSRピラミッドは、アメリカの経営学者アーチ・キャロルが1991年に提唱した、企業の社会的責任 (CSR) を4つの階層に分類したモデルです。
ピラミッドは下から順に、
1) 経済的責任
2) 法的責任
3) 倫理的責任
4) 慈善的(フィランソロピー)責任
となっています。
これらの4つの構成要素は、相互排他的なものではなく、対立関係にあるものでもありません。
経済的責任を土台に、低次の責任が満たされれば、さらに高次の責任を果たす、とされるものです。
企業活動とコーポレートガバナンス
コーポレートガバナンス(企業統治)とは、企業が健全で透明性の高い経営を行うための仕組みです。
企業は、株主をはじめ、従業員、顧客、取引先、地域社会など、様々なステークホルダーとの関係の中で事業活動を行っています。
コーポレートガバナンスは、これらのステークホルダー(株主、従業員、顧客、取引先、地域社会など)の利益を守り、公正かつ効率的な意思決定を行うことを目的としています。
コーポレートガバナンスを強化することで、企業はステークホルダーからの信頼を獲得し、持続的な成長を実現することができます。
日本におけるコーポレートガバナンスの問題点
日本のコーポレートガバナンスは、近年改善が見られるものの、依然としていくつかの問題点を抱えています。
1. 社外取締役の役割
社外取締役制度は導入されているものの、経営陣との関係が密接すぎたり、専門知識や経験が不足していたりする場合があり、形骸化している。
多様なバックグラウンドを持つ社外取締役が不足しており、多様な視点からの意見が得られにくい。
2. 取締役会の機能
監視対象者が自分よりも上級管理者である場合などに、
取締役会が、経営陣の監督という役割を十分に果たせていない場合がある。
3. 株主との関係
物言う株主(アクティビスト)からの圧力に対して、企業と株主との間で、 建設的な対話が不足している場合がある。
4. 企業文化
伝統的な日本型経営の影響もあり、変化に対する抵抗感が強い企業文化が、コーポレートガバナンス改革の阻害要因となる可能性がある。
また、経営陣と取締役が重複している場合、独立した立場からの指摘ができないという問題もある。
改善に向けた取り組み(コーポレートガバナンス・コード)
2015年に導入された「コーポレートガバナンス・コード」は、上場企業に対して、コーポレートガバナンスに関する原則を示したもので、コーポレートガバナンス改革を促進する役割を果たしています。
5つの基本原則
1)株主の権利・平等性の確保
2)株主以外のステークホルダーとの適切な協働
3)適切な情報開示と透明性の確保
4)取締役会等の責務
5)株主との対話
企業は、コーポレートガバナンスを継続的に強化することで、ステークホルダーからの 信頼を獲得し、持続的な成長を実現していく必要があります。
まとめ
今回は、企業の社会的責任についてまとめました。
現代社会においては、企業は利益を追求するだけでなく、 CSRやコーポレートガバナンスを重視し、 社会や環境に配慮した責任ある行動をとることが求められています。
次回は、企業理念とビジョンについてです。
復習問題
問題1:穴埋め問題
企業の最終目的は、( ① )を上げること。
企業活動は、大きく調達活動、( ② )活動、( ③ )活動の3つに分類できる。
企業は、( ④ )を活用して企業活動を行う。
経営資源は、ヒト、( ⑤ )、( ⑥ )、情報の4つに分類される。
CSRとは、企業が利益を追求するだけでなく、( ⑦ )の一員としての責任を果たし、社会全体のwell-beingに貢献するための取り組みを指す。
ISO26000では、CSRの( ⑧ )つの原則が定められています。
コーポレートガバナンスとは、企業が( ⑨ )経営を行うための仕組みです。
問題2:正誤問題
企業活動は、社会や環境に影響を与えない。( ○ / × )
CSRは、近年世界的に広がりを見せている。( ○ / × )
ISO26000は、CSRに関する日本の国内規格である。( ○ / × )
CSRピラミッドでは、経済的責任が最上位に位置づけられている。( ○ / × )
コーポレートガバナンスは、株主の利益のみを追求する。( ○ / × )
問題3:組み合わせ問題
次のCSRの7つの原則と、具体的な内容を正しく結び付けてください。
問題4:記述問題
企業活動の種類を3つ挙げ、それぞれについて具体的に説明してください。
CSRの7つの中核主題をすべて挙げてください。
CSRピラミッドの4つの階層を、下から順に説明してください。
問題5:多肢選択問題
以下のうち、経営資源に含まれるものをすべて選びなさい。
a. ヒト b. モノ c. カネ d. 時間 e. 情報
問題6:多肢選択問題
以下のうち、CSRの7つの原則に含まれるものをすべて選びなさい。
a. 説明責任 b. 利益の最大化 c. 倫理的な行動 d. コミュニティへの参画 e. 人権の尊重
問題7:多肢選択問題
以下のうち、CSRピラミッドの4つの階層に含まれるものをすべて選びなさい。
a. 経済的責任 b. 法的責任 c. 政治的責任 d. 倫理的責任 e. 慈善的責任
問題8:記述問題
ある食品メーカーが、CSR活動の一環として、どのような取り組みを行うことができるでしょうか? 具体的な例を挙げて説明してください。
問題9:記述問題
コーポレートガバナンスを強化することで、企業はどのようなメリットを得ることができるでしょうか? 具体的な例を挙げて説明してください。
解答
問題1
① 利益
② 生産 ③ 販売
④ 経営資源
⑤ モノ ⑥ カネ
⑦ 社会
⑧ 7
⑨ 健全で透明性の高い
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