【運営管理】顧客分析(POSデータ分析)
POSデータ分析
今回は、" POSデータ分析 "についてです。
POSデータとは?
POS(Point of Sales)データとは、小売店における商品販売時に発生するデータのことです。商品名、価格、数量、販売日時、販売店舗などの情報が記録されており、顧客の購入履歴を詳細に把握できるため、顧客分析の基盤となる重要なデータソースです。
POSデータは小売業における強力な武器であり、顧客理解を深め、売上向上やマーケティング戦略の最適化に繋がります。
POSデータで分析できること
POSデータを用いた顧客分析では、主に以下の項目を分析できます。
1. 売れ筋商品・死に筋商品の把握:
どの商品が、いつ、どこで、どれだけ売れているのかを把握できます。
売上上位の商品(売れ筋商品)と、売上下位の商品(死に筋商品)を特定できます。
売れ筋商品の販売強化や、死に筋商品の在庫調整・販売戦略見直しに繋がります。
2. 顧客セグメンテーション:
顧客を購買行動に基づいてグループ分け(セグメント化)できます。
例えば、頻繁に来店する「優良顧客」、特定のカテゴリー商品を好む「専門顧客」、大口購入する「大口顧客」などを識別できます。
各セグメントに合わせたマーケティング施策の展開が可能になります。
3. 購買傾向の分析(バスケット分析):
顧客が同時に購入する商品の組み合わせを分析できます。
「おむつとビール」「パンと牛乳」など、一見関連性のない商品の同時購入パターンを発見できることもあります。
関連商品の同時陳列や、セット販売などの販売促進に繋がります。
4. 時間帯別・曜日別分析:
売上の多い時間帯や曜日を特定できます。
ピークタイムに合わせた人員配置や、売上の少ない時間帯・曜日の販促施策に繋がります。
5. 店舗別分析:
店舗ごとの売上や顧客属性を比較分析できます。
好調な店舗の成功要因を分析し、他の店舗に展開したり、不調な店舗の課題を特定し改善したりできます。
6. キャンペーン・プロモーション効果測定:
セールやクーポン配布などのキャンペーン実施前後の売上変化を分析できます。
キャンペーンの効果を定量的に評価し、今後のプロモーション戦略の改善に繋がります。
7. 顧客の離反分析:
以前は頻繁に購入していた顧客の来店頻度や購入金額の減少を検知できます。
離反しそうな顧客を特定し、個別のアプローチで再来店を促すことができます。
顧客分析の手法
POSデータを用いた顧客分析には、様々な手法が用いられます。代表的な手法を紹介します。
RFM分析:
Recency(最終購入日)、Frequency(購入頻度)、Monetary(購入金額)の3つの指標で顧客を分類し、優良顧客を特定する手法です。それぞれの指標をスコアリングし、顧客をランク付けします。
Recency(最終購入日): 顧客が最後に商品を購入した日。直近で購入した顧客ほど、良い顧客と評価されます。
Frequency(購入頻度): 顧客が一定期間内に購入した回数。購入頻度が高いほど、良い顧客と評価されます。
Monetary(購入金額): 顧客が一定期間内に購入した合計金額。購入金額が大きいほど、良い顧客と評価されます。
デシル分析:
顧客を購入金額の高い順(または低い順)に10等分(デシル=十分位数)にグループ分けし、各グループの顧客属性や購買傾向、構成比などを分析することで、優良顧客の維持・育成、下位ランクの顧客へのアプローチ方法を検討します。
マーケット・バスケット分析:
顧客が同時に購入する商品の組み合わせを分析する手法です。
支持度(Support)、信頼度(Confidence)、リフト値(Lift)などの指標を用いて、関連性の強い商品組み合わせを発見します。
・支持度
定義: 全ての取引データ(トランザクション)のうち、特定の商品(または商品セット)を含む取引の割合。頻繁に発生する事象の関連性を分析する際に有用です。
計算式:
Support(A=>B) = (AとBを両方含むトランザクション数) / (全トランザクション数)
計算式の意味: 商品Aと商品Bが一緒に(セットで)購入される頻度を表します。支持度が高いほど、その関連ルールがデータ全体に占める割合が大きいことを意味します。
・信頼度
定義: 商品Aを含む取引データのうち、商品Bも一緒に購入された取引の割合。ある商品を購入した顧客の行動を予測する際に有用です。
計算式:
Confidence(A=>B) = (AとBを両方含むトランザクション数) / (Aを含むトランザクション数)
計算式の意味: 商品Aを購入した顧客が、商品Bも一緒に購入する確率(条件付き確率)を表します。信頼度が高いほど、商品Aを購入した際に商品Bも購入される可能性が高いことを意味します。
・リフト値
定義: 商品Aを購入するという条件の下で、商品Bが購入される確率(同時購買率)が、商品Bが単独で購入される確率(単独購買率)の何倍になるかを表す指標。偶然の同時購入ではなく、意味のある関連性を発見する際に有用です。
計算式:
Lift(A=>B) = Confidence(A=>B) / Support(B)
= {(AとBを両方含むトランザクション数) / (Aを含むトランザクション数)} / {(Bを含むトランザクション数) / (全トランザクション数)}
= (AとBを両方含むトランザクション数) * (全トランザクション数) / ((Aを含むトランザクション数) * (Bを含むトランザクション数))
計算式の意味: 商品Aの購入が、商品Bの購入にどれだけ影響を与えるかを表します。
Lift > 1: 商品Aの購入が商品Bの購入を促進する(正の相関)。値が大きいほど、商品Aの購入により商品Bの購入確率が高まります。
Lift = 1: 商品Aの購入と商品Bの購入は独立している(相関なし)。
Lift < 1: 商品Aの購入が商品Bの購入を抑制する(負の相関)。
クラスター分析:
顧客を、互いに似た性質を持つものを集めて「クラスター」と呼ばれるグループを作り、対象を分類する手法です。
類似した購買行動や属性を持つ顧客をグループ化することで、より詳細な顧客理解に繋がります。
PI値分析
POSデータ分析においてレシート1枚(来店客数)あたりの購買金額や購買個数を分析する手法です。「Purchase Index」の略称で、客単価と密接に関連する重要な指標として、小売業で広く利用されています。
PI値 (Purchase Index) は、レシート1枚あたりの購買金額、または購買個数を表す指標です。
金額PI: レシート1枚あたりの購買金額
数量PI: レシート1枚あたりの購買個数
計算式:
金額PI = 期間中の総売上金額 ÷ 期間中のレシート枚数
数量PI = 期間中の総販売個数 ÷ 期間中のレシート枚数
顧客分析のプロセス
POSデータを用いた顧客分析は、一般的に以下のプロセスで行われます。
1. 目的設定:
「優良顧客を特定したい」「キャンペーンの効果を測定したい」など、分析の目的を明確にする。
2. データ収集:
POSシステムから必要なデータを収集・抽出。
3. データ加工・クレンジング:
分析に適した形式にデータを加工し、エラーや欠損値を除去。
4. データ分析:
設定した目的に合わせて、適切な分析手法を選択し、分析を実行。
5. 結果の解釈・可視化:
分析結果を解釈し、グラフや表などを用いて分かりやすく可視化。
6. アクションプランの策定・実行:
分析結果に基づいて、具体的なアクションプランを策定し、実行する。
7. 効果測定・改善:
アクションプランの効果を測定し、必要に応じて改善する。
顧客分析の課題
データ品質の確保:
データの欠損やエラーがあると、正確な分析結果が得られない。
データ入力時のルール徹底や、定期的なデータクレンジングが必要。
分析スキルの不足:
データ分析には専門的な知識やスキルが必要。分析担当者の育成や、外部の専門家への委託も検討する必要がある。
データ活用の仕組みづくり:
分析結果を現場で活用するための仕組みづくりが重要になる。分析結果を分かりやすく共有し、アクションプランに繋げるための体制整備を整える。
プライバシーへの配慮:
顧客の個人情報を扱うため、プライバシー保護への配慮が必須。個人情報保護法などの法令を遵守し、適切なデータ管理を行う。
まとめ
POSデータを用いた顧客分析は、顧客理解を深め、売上向上やマーケティング戦略の最適化に繋がる強力な手法です。適切な分析手法を選択し、分析結果を効果的に活用することで、競争の激しい小売業界において、大きな競争優位性を築くことができます。
復習問題(計算問題)
あるスーパーマーケットの1週間分のPOSデータ(取引データ)が以下のように与えられています。
問1:
「パン」と「牛乳」の支持度を求めてください。小数点第3位以下は四捨五入とする。
問2:
「パン」を購入したときに「牛乳」も購入する信頼度を求めてください。小数点第3位以下は四捨五入とする。
問3:
「パン」の購入が「牛乳」の購入に与えるリフト値を求めてください。小数点第3位以下は四捨五入とする。
問4:
「おむつ」を購入したときに「ビール」も購入する信頼度を求めてください。小数点第3位以下は四捨五入とする。
問5:
「おむつ」の購入が「ビール」の購入に与えるリフト値を求めてください。小数点第3位以下は四捨五入とする。
解答のためのヒント
支持度 (Support(A, B))
= (AとBを両方含むトランザクション数) / (全トランザクション数)信頼度 (Confidence(A => B))
= (AとBを両方含むトランザクション数) / (Aを含むトランザクション数)リフト値 (Lift(A => B))
= Confidence(A => B) / Support(B)
= {(AとBを両方含むトランザクション数) / (Aを含むトランザクション数)} / {Bを含むトランザクション数) / (全トランザクション数)}
= (AとBを両方含むトランザクション数) * (全トランザクション数) / ((Aを含むトランザクション数) * (Bを含むトランザクション数))
解答
問1:
「パン」と「牛乳」の支持度を求めます。
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