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Azureで自分に促す行動変容記録

はじめに

職場環境で「行動変容を促す」とは、従業員がこれまでの習慣や行動パターンを見直し、新たに望ましい行動や習慣を身につけるよう支援・促進することを指します。これは組織の目標達成や業績向上、職場環境の改善を目的として行われます。

私は自身の課題として、「打ち合わせで自分が話しすぎる」ことを認識していました。そこで、AIを活用して自分自身に行動変容を促す実験を行うことにしました。本記事では、その実験の経過と結果を記録し、行動変容を促すための具体的な方法を探求します。

生産性の高いチームの特徴

生産性の高いチームとは、発言が均等に分配され、全メンバーが積極的に参加するチームです。Salinasら(2021)の研究によれば、生産性の高いチームの特徴として、以下のポイントが重要とされています。

  • 発話量の均等性:チーム内での発話時間のばらつきが小さいほど、協力性と生産性が高まります。均等な発言機会があることで、各メンバーのアイデアや意見が反映されやすくなり、チーム全体のパフォーマンス向上につながります。

  • 積極的な参加:全メンバーが議論に積極的に参加し、意見交換が活発に行われるチームは、問題解決能力や創造性が向上します。多様な視点が交わることで、新たなアイデアや解決策が生まれやすくなります。

  • 協力的な環境:メンバー全員が発言しやすい環境を整えることで、心理的安全性が高まり、チームのダイナミクスが良好になります。

この研究から、生産性の高いチームを構築するためには、メンバー全員が平等に発言し、積極的にコミュニケーションを取ることが重要であることがわかります。

実験の概要

この前提を踏まえ、私は自分自身に行動変容を促すことができるかという実験を開始しました。具体的には、自分の発言量や参加度を客観的に測定し、チーム内での役割や貢献度を見直すことを目的としています。

実験で利用したツール:Azure Speech-to-Text

この実験では、MicrosoftのクラウドサービスであるAzure Speech-to-Textを利用しました。Azure Speech-to-Textを用いることで、会議の音声データをテキスト化し、各メンバーの発話量や発言内容を詳細に分析することが可能です。

Azure Speech-to-Textの主な機能

  • 複数話者の自動識別:音声ファイル内の異なる話者を自動的に検出し、区別します。これにより、誰がどれだけ発言したかを正確に把握できます。

  • 話者ラベルの付与:転写結果に「話者1」「話者2」などのラベルが付与され、各発言がどの話者によるものかを明確に示します。

実験前のAI精度検証

実験を行う前に、Azure Speech-to-Textの精度を検証しました。

検証の目的

Azureを利用したバッチ処理において、会議音声のテキスト化と話者分離の精度を確認することです。多人数の会議録音データから各話者の発言を正確に分離し、テキスト変換の精度を評価しました。

検証環境と条件

  • 録音機材:YAMAHA「YVC-330」マイク

  • 参加者数:4名

  • 会議時間:約1時間

  • 会議室:8名収容可能なスペース


YVC-330

Azureは最大2GBまでの音声データを処理でき、1つのファイルに最大4時間分の音声を含めることが可能です。話者分離機能は最大36名までの話者を識別できます。今回は4名の話者が参加したため、事前に話者の人数を指定し、精度向上を図りました。

検証手順と評価基準

バッチ処理を用いて録音された音声をAzureにアップロードし、出力されたテキストと話者識別の結果をもとに精度を評価しました。評価基準は以下の通りです。

  • 発話開始時間の正確性:各発言が正確なタイミングで記録されているか。

  • 話者割り当ての正確性:各発言が正しい話者に割り当てられているか。

  • 文字起こしの正確さ:音声内容が正確にテキスト化されているか。

検証結果

Azureの話者分離機能は高い精度を示し、話者識別率は全体で95%以上に達しました。文字起こしの精度も高く、専門用語や固有名詞も正確に認識されていました。これにより、多人数の会議においても高精度で発言内容を分析できることが確認できました。

実験の手順と対策

課題の明確化

定例の打ち合わせには8名が参加していましたが、その中で私がほとんど発言してしまうことが問題でした。会議は時間通りに進行し、議論の目的は達成されていたものの、他のメンバーに十分な発言機会を与えていないことが明らかでした。これにより、チーム全体の意見やアイデアが十分に反映されず、チームの潜在能力を最大限に発揮できていない可能性がありました。

対策と手順

この問題を解決するため、以下のステップでAIを活用した取り組みを行いました。

  1. 打ち合わせの音声を取得

会議中の音声データを録音し、AIで分析するための素材としました。

  1. 話者分離

    • Azure Speech-to-Textの話者分離機能を使用し、誰がどのタイミングで発言しているかを自動で識別しました。

  2. 手動で話者を識別

    • AIが自動で分離した結果を確認し、必要に応じて手動で調整を行いました。

  3. 話者ごとの発話量を可視化

    • 各メンバーの発言量をグラフ化し、視覚的に確認できるようにしました。ここでは発言文字数を採用しています。

  4. 議事録をLLM(大規模言語モデル)で作成

    • AIを活用して、発言内容と発言者を自動で記録する議事録を作成しました。

実験結果と考察

2024年9月第1週 定例会

  • 結果:話者分離が97%の精度で成功し、私の発話量が全体の72%に達していることが判明しました。

  • 反省:他のメンバーがほとんど発言していない状況を認識し、次回からは意図的に他のメンバーに発言を促すことを決意しました。

2024年9月第2週 定例会

  • 結果:話者分離の精度は94%、私の発言量は66%に減少しました。しかし、依然として発言していないメンバーが2名いることがわかりました。

  • 対策:次回は全く発言しなかったメンバーに焦点を当て、積極的に意見を求めることにしました。

2024年9月第3週 定例会

  • 結果:話者分離の精度は95%、私の発言量は47%まで減少し、全メンバーが発言する機会を持つことができました。

  • 課題:議事録を確認すると、会議内で未消化の内容がいくつか残っていることが判明。全員が発言することで議論がやや長引いた可能性がありました。

  • 改善策:次回からは事前にアジェンダを充実させ、各メンバーに資料を準備してもらうなど、会議の進行を円滑にする工夫を取り入れることにしました。

2024年9月第4週 定例会

  • 結果:話者分離の精度は95%、私の発言量は40%まで減少。他のメンバーがより積極的に発言するようになり、会議全体が活発なディスカッションの場となりました。

  • 成功要因:全員が事前に資料を準備し、それに基づいて発言を行ったため、議論は効率的に進行し、時間内に全ての議題を消化することができました。質の高い議論が展開され、建設的な意見交換が行われました。


総括

4回にわたる実験を通じて、AIを活用した自分の行動変容は進みました(進んだような気がしています)。最初は自分がほとんど発言してしまうという問題に気づき、それをデータに基づいて改善することで、他のメンバーにも発言機会を与えられるようになりました。また、議事録作成や発言量の可視化を通じて、客観的な視点で自分の行動を振り返り、会議の進行方法を改善するための具体的なアイデアを得ることができました。

特に、全員に事前に資料準備を依頼することで、より充実した議論が行えるようになりました。この取り組みは、今後他の業務やプロジェクトにも応用可能であり、AIの活用が行動変容を促す強力なツールになり得ることを改めて実感しました。

しかしながら、チーム全体のパフォーマンス向上に繋がったかどうかは明確ではありません

今後は、チームの成果や目標達成度合いも評価し、行動変容が組織全体に与える影響を検証していきたいと考えています。因みに、議事録作成は楽になりました。

参考文献

  • Salinas, E. et al. (2021). Effective Team Communication Strategies. Journal of Organizational Behavior.

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