異界駅日記8『やらず』駅
2023/10/28
ここではいつも雨が降っているということを
失念していた。
傘を持ってこなかったので木造の駅舎から
出られなくなってしまう。
次の電車が来るのは3時間後の18:31。
雨の音しか聴こえない。
駅舎の待合室にぼろぼろの本棚があった。
誰が用意したのか、古びた文庫本が並んでいる。
『十五少年漂流記』を選ぶ。
電車が来るまで、雨風の音に耳を傾けながら
『十五少年漂流記』を読んだ。
一度、ずぶ濡れの制服姿の男子学生が4人
駆け込んで来た。しばらく騒がしく話していた。
しかし、本を読み終わる頃にはみんな
いなくなっていた。
ゆで卵の殻を剥くとき本来いっしょに
剥かないといけない薄い膜みたいなものが、
私の精神の周りにはあって、どうにか
それを剥がさないと外界ときちんと
関われないことは分かっている。
でも、どうすることもできない。