異界駅日記7『よもぎ×』駅
2023/01/10
今日は学校に向かう電車を途中で降りて、
午前中は授業をサボることにした。
とはいえ、特に行き先は決まっていない。
落ち着いて座れるところを見つけたら本を読もうと思い、適当に歩き回る。
歩いていると、バス停の錆びたベンチが目に留まった。こういう朽ちたものが好きなのでスマホを取り出してカメラを起動した。
しかし、画面は真っ暗だ。カメラレンズを塞いでいるわけでも、傷が入っているわけでもない。
アウトカメラもインカメラも使えない。
他のアプリは問題なく使えたので、ああ、また
変な駅(およびその周りの街)に迷い込んだんだな
と気づいた。
写真は諦めて歩き始めた。
ほとんどが民家で、お店らしいものはない。
しばらくして、写真館を見つけた。
外装がレトロで可愛い。
店先に飾ってある褪せた写真を眺めていると、
すぐ真横に初老の男性がにこにこしながら立っていることに気づいた。
一歩引いて距離を取ると、男性も一歩前に出てこう言った。
「写真を撮りませんか?」
私は写真が苦手だ。だからいいえ、と答えて立ち去ろうとした。
「写真を撮りませんか?」
にこにこと男性は続ける。私がどう答えるかなどこの人にはどうでもいいのだ。
「写真を撮りませんか?」
私は断るのが面倒になって頷いた。
男性はにこにこと私を写真館の中に招き入れた。
館内にある全ての写真の額が、あまねくななめにずれているのが気持ち悪かった。
私は言われるがまま赤いビロード張りの椅子に座り、まっすぐにカメラを見た。
「笑ってください」
そう言われて、口角を上げた。
「笑ってください」
もう少し上げた。
「笑ってください」
もう上がらない。
「笑ってください」
無視する。
「笑ってください」
疲れたので口角を下げた。
水面を叩くような音がした。
どうやら写真が撮られたようだった。
「見てください」
手招きされ、カメラの画面を見に行く。
そこには全く知らない女性が写っていた。
いらないと言ったのに結局その写真を握らされ、私はそれを駅のゴミ箱に捨てた。
あの写真の人は誰だったんだろう。