名画を見る眼 I, II
高階秀爾著
岩波新書
先日亡くなった高名な美術史家による名画の解説書。NHKの日曜美術館でも追悼の番組が組まれていた。東大卒業後、留学し、国立西洋美術館の研究員と館長を務めた後、倉敷の大原美術館で長く館長として務めた。この本で扱っている絵画はどれも名画中の名画ばかり。絵画の解説の形を取った西洋美術史の解説書。
まず、一つの絵を観るときの背景となる著者の知識に圧倒される。一流の美術史家というものはこれだけのものを動員して、こういう観方をしているのか。それと五感と論理を総動員したかのような独特の表現も特徴的だ。
第1巻を読んで、絵を観た時、鑑賞者と批評家と作家とでは、作品の見方が違うのではないかと思った。本書はさながら一流の美術史家の作品の見方が書かれているといったところ。私個人としては最近アートスクールに通い始めたこともあって、写実絵画や具象画の見方がガラッと変わったと感じている。これは作家の見方と言ったところか。これに対して一般の鑑賞者の見方はやはり違うと思う。かつては私も鑑賞者としての眼しか持っていなかった。どういう作品をどういう見方で観るか。見方はそれぞれ異なると思うが、いい作品をいい作品と感じる目は養い続けていきたいと感じた。
第2巻のカンディンスキーの部分は2回読んだ。カンディンスキーは抽象美術を行う意義を造形に見出した。私も自分の作品でボトルなどを多用するがこれも造形の美しさに因るものである。その上で、抽象芸術を行う意味は、作家の目を通して得た内的感動を鑑賞者に伝えるということである。カンディンスキーは、音楽にもアナロジーを見出している。私はシンセサイザーを使って作曲を行うが、これは電子音の心地よさと、さまざまな音色を作ることのできるシンセサイザーという楽器に魅了されているからに他ならない。私の芸術へのカンディンスキーの影響は底知れず大きい。