#19 死産 日常に戻りたい
1か月後検診
9月。退院してから、初めて外出したのは1か月後検診の時だった。ずっとベッドに横になっていたせいで、家から駅まで15分歩いただけで、全力疾走した後のように息切れした。このままでは来月、仕事復帰できないと少し危機感をもった。
検診は問題なし。2回、生理が来たらもう妊娠しても大丈夫だと言われた。検診の終わりに医師は「また妊娠できるといいですね」と言った。何年も治療してやっと出来た妊娠だった。これが最初で最後かも知れないと思った。
病院の帰りに、手芸屋に寄って、富士ちゃんのへその緒を置く小さな座布団をつくるために電車柄の布と綿を買った。
法要
火葬をお願いした協会が、毎年春分の日と秋分の日に水子供養を行うということだったので、秋分の日に夫と二人で都内のお寺の法要に出かけた。法要にはいろんな年代のたくさんの家族が来ていた。私たちと同じように最近子どもを喪ったのだろう夫婦から昔に子を亡くしたのだろう初老の夫婦まで。参拝者同士で言葉を交わすことはなかったが、こんな悲しいことが起こったのは、自分たち夫婦だけじゃない、みんな亡くなった子のことを忘れず、こうして供養に来ているんだと思うと寂しさが和らいだ。
法要の帰りに、列ができているパン屋があったので、夫と並んでみた。その店には色とりどりのドーナツが売っていたので一人2つずつ買って帰った。家で二人で食べたら、今まで食べた中で一番おいしいドーナツだった。毎回法要に行ったら、ここのドーナツを買おうね、と夫と笑った。
日常に戻りたい
このまま寝ていたらもう日常に戻れないと思って、生活を立て直そうと決めた。まずは、ソファに座ることを目標にした。ソファに座って、夫が帰って来るまで、お笑い芸人のYouTubeを一日中見ていた。
もう少し気力が回復すると、富士ちゃんの座布団を作った。裁縫は大の不得手だが、時間だけはいくらでもある、ゆっくり時間をかけてつくったのでそこそこ見れるものにはなったように思う。
それから、死産の経験をされた方のブログの中で、気分転換に沖縄へ旅行に行った、という記事を読んで、無性に旅行に行きたくなったので夫に沖縄に行かないか?と誘ったら二つ返事で行くと言ったので、沖縄旅行の手配をしたりした。
何も特別なことはしていない。浮き沈みはあったが、今日はソファに座る。午前中から起きる。YouTubeを見る。手を動かす。少しずつやることを決めて実行していった。日を追うごとに日常を取り戻せている気がした。