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目標は人の数だけ(後編)

生活の階層のどこに焦点を当てるか

 第二に「生活の階層のどこに焦点を当てるか」です。

 191号の本欄でお伝えしたように、現代人の生活は一般に「心と体」「私生活」「公生活」の3つの階層から成り立っている、と私は考えています。

 「心と体」は、生きていく基本である心と体の健康です。
 「私生活」は、文字どおり個人的な生活の部分です。
 「公生活」は、社会的に認められている生活の部分です。子どもなら通学ですし、おとななら通勤や主婦業、ボランティア活動などです。ただし、不登校/ひきこもり状態の人にとっては支援を受けたりすることもここに該当します。

 さて、このような3つの階層をイメージしたとき、不登校/ひきこもり状態の人に対して「心と体」や「私生活」よりも「公生活」ばかりに焦点を当てて見ていないでしょうか。
 たとえば、セミナー第2部の「対談」でお話ししたように、支援機関の方が「うちの資料を目に付く場所に置いておいてください」などと、本人を支援につなげるよう家族に要求する話は、その典型でしょう。

 もちろん、不登校/ひきこもり状態は「公生活」を満たしていないわけですが、では「心と体」と「私生活」は満たされているのでしょうか。
 それとも「公生活」が満たされさえすれば「心と体」や「私生活」は満たされなくてもかまわないのでしょうか。

 「心と体」を立て直し「私生活」を充足させるプロセスを経ずして支援を受けたり学校/社会復帰したりという「公生活」へと一足飛びに進むことの難しさ。復帰する先である学校ではいじめに、社会ではブラックな労働環境に「私生活」の時間を奪われ「心と体」が蝕まれている人がたくさんいる現代。それなのに「公生活」だけに焦点を当てられる見方接し方を、本人の多くは望んでいないのではないでしょうか。

 私は、この3つの階層のうち「心と体」と「私生活」こそが生きる土台だと思うのです。穏やかに、あるいは元気に暮らすことができ、日々の生活に楽しみがあり、必要に応じて外出できる。
 2つの階層がそのように満たされるよう「配慮する」のが、家族に求められる対応であり「公生活」をどうするかは本人が考えることだと思うのです。

 以上、ふたつの宣言に込められた願いのうち「同じ人として見る」と「目標を押しつけない」のふたつを、私なりに説明しました。

初出:
本文=メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第262号(2022年6月22日)

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※前編には講演で、後編には講演のほか相談や家族会で、よくお話しする内容を書いています。ふたつの人権宣言に込められているのは単なる権利の主張ではなく、実際に家族や関係者に理解してほしい不登校・ひきこもり本人への見方接し方であることがおわかりいただければ、作成に関わったひとりとして幸甚です。

※今月は、前編後編ごとに内容に該当する講演レジュメの部分をカバー画像に使用しました。前編はおとなひきこもり家族会「世田谷はなみずきの会」主催講演会の、後編はふたつ下にお知らせしている連続講座「ヒュースタゼミナール」第2回の、それぞれレジュメの該当部分です。それを見ながらお読みいただければ理解しやすくなるかと思います。

※メルマガ『ごかいの部屋』は3号に1本このような文章を執筆掲載しています。今月はその巡りになりますので、お読みになりたくなった方は下記リンク先案内ページから読者登録をお願いいたします。

※先月お知らせした不登校・ひきこもりオンライン連続講座「ヒュースタゼミナール」ですが、7年目にして初めて最少催行人数に達しなかったため、最初の2回を1か月ずつ延期して実施することにし、現在も募集を続けています。前記のとおり第2回はカバー画像のレジュメで講義したあと「心のビーカー」についてのワークを行います。本人の心理を知りたい方や家族相談や家族会の従事者や志望者の方、関心ある一般の方、全国どこにお住まいでも1回だけでもご受講いただけます。ぜひ ↓ の公式ブログ記事をご一読いただき、リンク先告知ページで要項ご確認のうえ、よろしければご受講またはご紹介をお願いいたします。

※来たる7月7日(日)、埼玉県岩槻市で活動しているおとなひきこもり家族会「KHJ埼玉・けやきの会」の月例会で講師をつとめます。今月に続く2回シリーズの2回目。非会員の方も1回限定でご参加いただけますので、会員の方はもとより非会員の方もこの機会にご参加ください。


不登校・ひきこもりに関する研修費に充て、相談支援のスキルアップと充実したメルマガ掲載文執筆に還元させていただきたく、よろしくお願い申し上げます。