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新型コロナ禍とひきこもり(後編)

 第2部で丸山と対談した深谷さんのお話の要約を掲載します。
(転載者注:この年の「不登校・ひきこもりセミナー2020」の第2部「対談」にお招きした、私と同じ “経験者相談員” でもある「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」の深谷守貞氏=写真左)

1.自己紹介(略)

2.去年の事件後の影響

 それまでは1日数件だったKHJ本部への電話が、事件後2週間は1日60件近くに。「ひきこもりのことをどこに相談したらいいかわからなかった」「KHJを知らなかった」の声が多かった。

 マスコミが偏見を助長する恐れから声明文を発表し「犯罪を起こしたのはそこまで追い詰められた人」と強調。
 一方、悪質な業者は事件を利用し「お子さんも事件を起こしたらどうするんですか」と親を脅して高額な請求をする。被害者を何人か知っているが、PTSDになった人もいた。

 「兄弟姉妹の会」を担当している。事件後「加害者家族になったらどうしよう」という不安が聞かれるように。ただ、きょうだいは親代わりにはなれないしなる必要もないが、同じ親に育てられたという文化を有しているので本人の味方になれる。そう考えることできょうだいも自分の人生を第一に考え、楽になっていってほしい。

 丸山さんが講演で、川崎事件の犯人に叔父が「お前はひきこもりだから自立しろ」という手紙を書いたと話されたが、ひきこもりかどうかを決めるのは自分自身。また、練馬事件では犯人である父がどこにも相談せず「自分の子どもだから自分が始末しなければ」と考えて犯行に及んだことに一部マスコミから賞賛の声も。しかし「お子さんの発達特性に寄り添っていればこんなことにはならなかった」と発達障がいの支援者たちの声がある。「相談できる」という安心感を醸成することが大切。

3.厚労省社会福祉推進事業(助成金事業)で居場所調査を実施して

 厚労省から「居場所事業に補助金を出すことにしたが手を挙げる自治体が少ない」と言われていたこともあり、当事者含めたチームが手分けして全国の居場所を実地調査し、運営者と利用者にアンケートを実施。

 当事者が「自分にとっていちばん心地よい自宅をあとにするほど魅力ある居場所があるか?」と言っていた。ところが居場所事業の多くは、それとは裏腹に就労へと向かわせる、丸山さんの言う階段式支援の途中に位置づけているところが少なくない。

 利用者アンケートの結果、居場所を利用する目的に「就労」は少なく「人との出会いと交流」が多数。それが居場所の意味だと考察できる。
 また、選ぶ基準は「雰囲気」だという回答が最多。それは「自分もいていいんだと思える」ということだと思う。

 安心感を自分ひとりで作り出せる人はいない。人と交わる中で「どんな自分であってもいい」と思えることが大切。社会の中にも心地よい場所があると伝えることが必要。

4.厚労省や自治体の様子

 厚労省は、平成25年から「ひきこもりは社会全体の問題であり、地域課題でもある」と認識していたが、ひきこもりが「問題」なのではなく「ひきこもることで生じる困りごと」が問題。「○○させよう」というパワハラまがいではなく「つながり続ける」のが支援。ひきこもりは生き方のひとつであり、本人が望むことを続けられるよう支える。「ケア」とは “楽になっていくこと” 。「孤高」と「孤立」は違うという認識が大切。

 東京都をはじめ、自治体が年齢制限を撤廃している。自治体も事件以降に変化がみられる。たとえば東京都江戸川区は「ひきこもり施策推進係」を設置。川崎市もひきこもり専門の相談員を募集した。

5.新型コロナ禍の影響

 前述した事件後もそうだったが、家族会につながっている家族にはあ
まり動揺が見られない。家族が抱え込まないことが大切。
 新型コロナ禍で、ネットを利用しての人との新しいつながり方が生じ
ている。しかし実際に会って話す効果もある。これからはネットと実際
に会うこととを選択して行ける社会になる。

初出:「当方見聞読」欄『深谷さんの話は深かった』<メールマガジン『ごかいの部屋~不登校・ひきこもりから社会へ~』第244号(2020年10月9日)=文責は私にあります

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丸山康彦
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