獨逸語事始(どいつごことはじめ)2
大学近くの古本屋で買った『改訂 大正獨逸語讀本』は、第一部 Erster Teil 第一課 Lektion 1 から第十二課まで筆記体で例文が書かれている。
最初の例文は
1. Was ist das? 「これは何ですか?」
次がそれに対する答え
2. Das ist der Tisch. 「それは机です」
というやりとりである。十三課の数詞からは活字体のドイツ文字になり、ところどころに趣のある絵がついている。第十六課「庭」には、お兄ちゃんと妹らしき小さな子供が手をつないで歩いているかわいらしい後姿が描かれている。
第二十四「郵便局」には、切手を買いに来たらしい少女が「郵便切手」POSTMARKEN と書かれた窓口の職員と話す様子が描かれている。
どの課もまず新出語彙、次に本文、最後に内容に関する問という構成だ。
この本と一緒に買ったものがもう一冊ある。≫Aus der Deutschen Literatur≪ という選文集だ。
奥付を見ると発行は明治四十一年、大日本圖書株式會社。波多野精一のような大御所が編纂に加わっているので驚いた。
〈例言〉を見ると、面白いことが書かれている。
確かに A-1 ヴントの「哲学の定義」はラテン文字で書かれているが、A-2のフリードリッヒ・パウルゼンの文章や A-3 のプラトーン『パイドーン』の独訳抜粋はドイツ文字で書かれている。
この二冊のおかげでドイツ文字で書かれた本に対する抵抗はまったくなくなり、図書館で古い本を利用することが楽にできたのはありがたかった。授業を取っただけならこうはいかなかったろう。
そしてこの体験から古い語学書に興味を持ち集め始め、昔の人々の外国語に対する熱意に圧倒されることになる。リアルタイムで世界中の言語に触れることが容易になった今は失われた情熱がそこにはあった。
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