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ORIGAMI 2

前川淳氏以来、おりがみにおける「設計」の考え方は一般化しており、今では多くのおりがみ作家が展開図から新作を考案しているのだろう。作家自身が自覚しているといないとにかかわらず、創作おりがみの世界ではそれが当然の前提になっている。

〈創作おりがみ〉というのは今は二つの意味で使われている気がする。このことば自体は昔からあり、新しい作品を作るのはすべて創作おりがみだといえばいえるのだが、具体的には伝承おりがみの基本形から、あるいは基本形を発展させ、新たな造形を作り出すのを創作おりがみと呼んできた。基本形とはおりがみの本で「つるの基本形」とか「つるのベース」などと紹介され、そこからいろいろな作品を作るのに使われるもののことだ。それに対し現在〈創作おりがみ〉といっているのは先述の設計の考え方に基づき、完成作品の各部分を構成するフラップを展開図に配置して新たな作品を作り出すものを指すことが多い。その結果として新しい基本形が生み出されることもある。

出来上がりの造形の各部分を生み出すフラップを総合すると、場合によっては正方形の一部が余ってしまうことがある。アメリカの代表的なおりがみ作家ジョン・モントロール氏の考案した「犬の基本形」Montroll's Dog Base などはその典型で、展開図を無断転載するわけにはいかないので細かい折り線は省略するが、犬の頭、胴、前脚、後脚、尾を形成するフラップを組み合わせると、正方形の一部が使われないで残ることが、下の図の色のついていない部分を見るとわかると思う。

ジョン・モントロール氏による犬の基本形。白い部分が使われていない(フリーハンドでざっと描いたので比率は正確ではありません)。

ジョン・モントロール ≪ ORIGAMI SCULPTURES ≫(第2版、Dover Publications)の35ページで Montroll's Dog Base が紹介されている。モントロール氏の四つ脚動物の多くはこの基本形から作られる。

もちろん伝承おりがみでもよく見ると紙の一部が有効に使われていないということはあり得る。しかしそれは紙全体からある造形を作ろうとした結果たまたまそうなったのであって、各部分からできる造形を優先し、それらを総合した結果必然的に使わない部分が発生したのとは意味が異なる。どうもこの辺りから新しい創作おりがみは伝承おりがみと袂を分かっていった印象がある。いうまでもなくその二つは別物ではなく地続きであって、これまで伝承おりがみが経験と直感でやってきたことを分析することにより、はっきりとした方向性が見え、新たな世界が開けたということだろう。それは例えば折りの最小単位としての三角形の分析や、平面おりがみのある頂点の周りの山折りの本数をM、 谷折りの本数をVとすると、M = V + 2 または V = M + 2 が成り立つという前川-ジュスタン定理(前川淳、ジャック・ジュスタン両氏が同時期に独立して発見したのでこう呼ばれる)などがそうだ。おりがみは幾何学の一分野だということが一般に認識された、ということもできる。

前川淳氏は都立大の物理出身だし、モントロール氏も高校の数学の先生だから、こうした方向は当然といえば当然だった。自分の嗜好からいってもこうした分析にのめりこんで、幾何学的な作品に興味が移っても不思議ではなかったが、なぜかそうはならなかった。伝承おりがみであると新しい創作おりがみであるとを問わず、また難易度の高い低いにかかわらず、造形のかわいらしい動物などを中心に折っていた。もちろん高度な創作おりがみに興味がなくなったわけではない。新しい世代のおりがみ作家の作品もすばらしいものが多く、例えば今井雄大(折り紙マイマイ)氏のクジャクなど、前川氏のクジャクを上回るほどの完成度だ。だが自分では百手を超えるような難易度の高いものだから挑戦しよう、という気持ちとは何か違うものに動かされ、季節に合わせた伝承おりがみや動物などを折っていった。当時気に入っていたのは桃谷好英氏考案の指にとまるコアラだった。










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