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働きやすい職場づくりの暗黙ルール。有給消化100%と言ってはいけない。

有給消化率50%を、全社目標にしたらどうでしょう?」

「いや、有給日数が人によって異なるから、消化率を目標にするのは不公平じゃないかな?今の消化数は5日だから、2倍にして10日でどうだろう?」

社長から要請があった本日の議題は「働きやすい制度づくり」だ。時短勤務やフレックス出社など、まずは勤怠ルールの見直しについて話し合う。経営幹部達の話題は、本丸の『有給消化率』に差しかかっている。そして参加メンバーである私は、どこか冷めた気持ちで各人の意見を聞いている。

「リフレッシュ休暇というのはどうでしょう?こういった制度があれば、気を使わずに取得できると思いますか…」

「あ、いいですね。バースデイ休暇ってのもあるらしいですよ。これなら休んだ時に『ああ、この人今月誕生月なんだ』ってなるので納得し易いでしょう?」

いい議題だと思うし、前向きな意見ばかりだ。だがやはり何かがおかしい。率直な疑問をぶつけてみよう。

「あの…すいません。普通に『有給は100%全員消化』じゃ駄目なんですか?」


▪️日本人が、有給を消化しない背景


日本における有給消化率の平均は約60%と聞く。統計にもよるが、これは主要国の比較で最下位らしい。平均消化日数の約10日もワースト2位だ。日本人はやはり、休みたがらない。いや、休めないと言うべきか。そしてこうなる背景は、会社勤めならだれでも、大抵想像がつく。

・人手不足で休めない
・自分だけ休む罪悪感
・できる人程、休めない不公平
・仕事が好き、もしくは仕事漬け
・休んだとて、やることも金もない

まあ、こんなところだろう。
しかしこれは、働き手からみた単なる背景であり、本質的な要因ではない。

▪️有給は、使って欲しくない権利

経営者とまではいかずとも、数字を預かる管理職や経営層なら誰もが知っている。『人件費はコスト』だ。コストを抑えて売上げを競う基本ルールで戦っている以上、有給など消化して欲しくないのが本音だろう。その権利を、MAXで行使されては困るのだ。にも関わらず何故、消化促進ムーブが起きるかというと、世の中がそうなってきたからだ。

▪️遅れたくはないが、勝ちたくもない。

世の中がそうなって来たからには、自社も合わせていくしかない。この領域で大幅な遅れを取れば、容易にブラック認定されてしまう。今や『働きやすさ』も、他社と比較される競争なのだ。しかしこの競争で、先行して他社を引き離すつもりは誰もない。何故なら、なるべく働いて欲しいから。市場で勝ち残る為には、差別化が必須だが、「働きやすさ」で尖る必要はない。有休消化率などは、平均より、なんなら少し下辺りを絶妙にキープ出来たら、それでいいのだ。

『有給休暇は権利だから100%消化が当たり前』? ほう…今、当たり前って言ったよね?日本企業の平均消化率って知ってる?60%だよ、60%。みんな大体60%なんだから、それがむしろ当たり前だって、わかるでしょ?え?100%消化してる会社が話題になってる?なるほど、話題になると言うことは、相当に珍しいということか…まだいけるな。うん、当社は50%だ…



「あの…すいません。普通に『有給は100%全員消化』じゃ駄目なんですか?」

Zoom越しの幹部達から、反応はない。そして、短い沈黙の後、進行役が会議を締める。

「ひゃっ…100パーセント?そうですね…  えーと…ま、まあ〜そういう意見もあるかも知れませんね…  では、取り敢えず今日の議論はここまでで。まずは目標10日の案で社長に報告する、それで皆さんどうでしょう?」

「意義なし」

「いいと思います」

まあ、そうなるか。彼らの本音はわかってる。他社に遅れをとりたくないが、この領域で先行する気はさらさらない。仮に将来、世の常識が逆になっても、この傾向は変わらないだろう。



「有給超過率150%を、全社目標にしたらどうでしょう」

「いや、有給日数が人によって異なるから、超過率を目標にするのは不公平じゃないかな?今の超過数は20日なので、半分にして、10日でどうだろう?」

社長から要請があった本日の議題は「働かせやすい制度づくり」だ。最近の日本人は、とにかく働きたがらない。

「あの…すいません。普通に『有給は全員100%まで』じゃ駄目なんですか?」


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