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スープ春雨を食べたいが、割り箸は無い。その時、人はどうするか…

『割り箸が無い』

そう気づいたのは、夜の10時過ぎ。もうシャワーを浴びた後だ。今日は出張中で、先程までホテルの部屋で資料作成に追われてた。ようやくひと段落して、コンビニで夜食を買ったのだが…箸がない。

さあどうする。何せ購入した品の中には、スープ春雨がある。これを箸無しで食べるのはかなり厳しい。とはいえ、すでに部屋着に着替えているのでコンビニに戻る訳にはいかない。ホテルのアメニティに『割り箸』が無いだろうか?フロント階でさり気なく確認したが、案の定置いていない。

まあ、いいか。今日は昼食が遅かったのであまり腹も減っておらず、どのみちツマミと酒だけで過ごすつもりだった。箸を入れ忘れた店員に腹は立つが、それを確認しなかったのも自業自得だ。いったん忘れて、晩酌を楽しむとしよう…

目が覚めたら、すでに深夜2時を回っている。疲れていたせいか、晩酌後そのまま寝てしまったらしい。出張先では大抵、こうやっていったん目が覚めてしまいがちだ。ついでに歯でも磨くかとぼんやりと考えてると、先ほどのスープ春雨を思い出した。

やはり食べたい。

飲酒後にに汁物を食したくなるのは、酒飲みの性だ。しかもこのスープ春雨は、今私が食べないと、破棄される運命にある。出張の手荷物は最低限にしており、持ち帰るほどのゆとりは無い。200円もしないカップ春雨ではあるが、食べ物を粗末にするのは忍びない。

問題は箸だ。

ここは出張先のホテル。何か棒状の物が二本あれば代用出来そうだが、探すにも選択肢は限られている。まずは引き出しを確認し、プラスチックのマドラーを1本発見した。太さは3ミリにも満たず、長さもせいぜい5cmといったところか。あと一本…

ダメ元でバスルームのアメニティを確認するが、ブラシと剃刀、歯ブラシしか置いてない。この中で、箸の代替えになるとしたら…歯ブラシしかない。逆さにして、持ち手の部分を使うのだ。これで、なんとかなるだろう。お湯を入れて、実際に食してみる。

なんとかならない。

というか、春雨のツルツル感とプラスチック素材の相性は最悪だ。丸みを帯びた歯ブラシの柄がスープに浸ると、摩擦は限りなくゼロになる。持ち上げようとした側から、春雨達は一本残らず滑り落ちる。マドラーはまだマシだが、いかんせん歯ブラシと太さに差がありすぎる上、短すぎてほとんど箸持ちが出来ない…

不便だ。

改めて、割り箸がいかに便利なアイテムだったかを思い知らされる。特に春雨を食すには最適だ。荒めにカットされた木材に適度な角が立ち、ツルツルの春雨をしっかりホールドしてくれる。ああ、割り箸が欲しい。失って、初めてその大切さが分かるというが、私にとっての割り箸が、正にそうだ。改めて、何故コンビニで私は箸を確認しなかったのか…悔やんでも、悔やみ切れない…




それでも、慣れというのは恐ろしい。そのうち、マドラーに春雨を引っ掛け、それを歯ブラシで抑えつけるコツを発見したら、普通に食べれるようになってきた。人間は、わずか1分少々で、物事に適応する事ができるのだ…。そして食べ終わった時には、後悔の念は過ぎ去っていた。

それにしても、割り箸が無いだけでここまで不便な思いをするとは。予測だにしなかったという点ではある意味、スマホを無くした際のダメージを超えるかも知れない。いや、これはどう考えても割り箸の圧勝だ。この場面で、スマホなど何の役にも立たないではないか… せいぜい、箸の代用品を検索する位のものだ。


『え…検索?』

そういえば、このピンチを脱する方法を検索するのは思いつかなかった。検索した所で、部屋にある物は変わらないのだから意味がない。まあ、それでも今後の参考に一応調べてみるか…

どれどれ…
『ホテル   箸』と入力して…

おっ?

検索結果に、このホテルの名があるぞ?

もしかして…

お箸やスプーン、フォーク、コップ等も使い捨てのものですがご用意がございます。ご利用の際は、フロントまでお問合せ下さい。


本日最大の、後悔の念が押し寄せる。

悔やんでも、悔やみ切れない。



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