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絶妙という言葉を絶妙に使う絶妙詐欺が横行中 【にほんご迷子19】
今日は仕事納めで、事務所の大掃除。
私に振り分けられた役目は、窓ガラスの断熱シートを貼り替える事。地味な工夫であるが光熱費の削減効果は馬鹿にならない。
「じゃあ、まずは窓の汚れをクリーナーで落としましようか」
私とタッグを組むのは部下のヤマダ君。少しチャラいが、曲がった事が嫌いで正直な好青年だ。
「クリーナーは、去年買ったのがそこに残ってたよな?」
「ああ、これですね。残ってる量が絶妙に足りないですけど、何とかなりますね」
汚れを落としたら、次は両面テープを窓に貼る。
「両面テープも去年のだけど、これはたくさん残ってるな」
「あー去年のやつですね。粘着が絶妙に弱いですけど、何とかなるでしょう」
で、その両面テープに沿って、最後にフィルムを貼り付ける。
「ピッタリのサイズは売って無かったんだけど、大丈夫かな?」
「え〜と。幅が絶妙に足りない感じですかね。まあ、何とかなるでしょう」
フィルム貼り作業に勤しむヤマダ君を見ながら、心中つぶやく。
『どんだけ「絶妙」言うねん』
絶妙とは本来「この上なく巧みですぐれていること」を意味する。
ほとんどの大人はそれを分かっている。
にも関わらず、最近では
あたかも「微妙」で同義語であるかのように、ネガティブな意味合いでも使われている。
絶妙に頭悪そう
絶妙にセンスがない
絶妙にダサい
絶妙に鼻につく
などなど。
念の為調べたが、これは明らかに本来の使い方ではない。典型的な若者言葉に思えるが、ヤマダ君が普通に使ってることから、この「絶妙」も絶妙に定着中なのかもしれない。
まあ、言葉は変化するものだし、目くじらを立てる話ではない。
ヤマダ君の使い方は誤用かも知れないが、それで意味を取り違える事はないだろう。
いや待て。
例えばこんなパターンはどうなるだろう?
記憶に新しい、ドジャースのワールドシリーズを皆でTVで観戦してると仮定する。大谷翔平が際どいボール判定で見逃し三振を取られたとしよう。そこでヤマダ君が
「いや〜今のは絶妙な判定でしたね〜」
などと言おうものなら、周りの皆から白い目でで見られる可能性が高い。
そんな想像をして、ヤマダ君の前職がふと思い浮かぶ。彼は一年半前まで家電量販店に勤めており、TV売場で接客をしてた筈だ。
『TV売場?……』
イヤな胸騒ぎがする。
例えば、年配のお客さんがTVを購入するシーン。価格差が2倍ある2つのモデルのどちらを買うか迷ってるとしよう。
その人がヤマダ君に
「値段が高い方は、その分画質もいいんですよね?」と尋ねたとする。
そこまで画質に差がない事を知る正直者のヤマダ君は
「まあ正直言って、それは絶妙ですね」と答える。
説明を聞いた、年配のお客さんは
『へ〜プロがそこまで言うなら相当が画質が良いのか』
と誤解する可能性があるではないか。
その結果、大して絶妙でない商品を買ってしまうとしたら…
これはまずい。
目の前の男は、少なくない数のお客様にある種の詐欺行為を働いていた。そして、同様に「絶妙」を誤用する若者は相当数いるだろう。こうしてる間にも、誰も被害を訴えない絶妙詐欺が横行している可能性がある。
消費者庁に通報するべきだろうか?
それとも警察か?
「絶妙という言葉を巧みに使う絶妙な詐欺行為が、絶妙に横行しています」
きっと信じてもらえないだろう。
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