「万引きは犯罪です」は、言語文化を守る意思表明だった 【にほんご迷子⑥】
万引きが増加しているらしい。
セルフレジやレジ袋有料化が拍車をかけたらしく、実際小売企業の人達からも、嘆きの声が聞こえる。
万引きが利益に与える影響は、感覚よりもはるかに大きい。
商品が1個の万引きされたら、それを利益換算で取り戻すには、35個売る必要がある。(営業利益が2%、粗利30%の場合)
万引きがこの調子で増える続けると、売る事よりも「盗られない事」に費用を使った方が合理的になってしまう。自分が身を置く広告業界にとっても由々しき問題だ。
とはいえ、いくらお金をかけても、万引きを完全に防ぐ事は難しい。
ならば人々に、万引きの罪深さをわかってもらうしかない。
元々日本人の民度は高いはずだ。
で、よく見かけるあのフレーズを思い出した。
「万引きは犯罪です」
ポスターでよく見るこのフレーズは不思議だ。
そもそも万引きが犯罪だと知らない人はほとんどいない。
言いたい事はきっと、
「『万引きという行為』はあなたが思ってるほど軽くないですよ。下手したら懲役にもなりますよ」だろう。
これは、「万引きする人」だけに言ってるのではなく、
我々すべてに対する警告にもみえる。
我々は万引きが悪い事だと知っている。
人によっては、店舗に重大な損失を与える事も承知だろう。だから当然自身は万引きをしない。
同時に「万引き」=「ちょっとした悪さ」という感覚がないかといえばそうでもない。個人差はあるだろうが、
「万引き」という言葉自体に、憎み切れない響き、ちょっとした悲哀やユーモアすら感じてしまう。
だから時にはコントのネタや映画の題材になってたりする。
そして、その感覚故に実行のハードルも低い。
これが、万引きが多発する要因だとしたら、
「万引き増加の戦犯は、万引きという言葉そのもの」
という事になる
言葉に罪はないが、結果としてそうなってる。
それならば、「万引き」という言葉自体を、みんなで使わなければいい。一部そのような意見もあるようだ。
でも我々は馴染みの言葉を捨てる事ができない。
「合法ドラッグ」みたいなポッと出の言葉は「危険ドラッグ」にしてもいいが、「万引き」を「店舗窃盗」等に言い換えるのは抵抗がある。
我々は「万引き」という語感に愛着を持っている。
「万引きは犯罪です」は、
我々に、言葉の大事さを問いかける。
故に警告でありつつ、どこか優しい。
※念の為、万引きは絶対ダメです。