サイダーの夏
暑い夏には、やはり炭酸が本当に似合うと思う。炭酸といえばサイダーで、サイダーを見かけると中学時代の夏休みの出来事を思い出す。
夏休みとはいえ、最終学年3年はいつもの夏と違う。受験があるのにのんびり屋の私を見かねたのか、母親から進学塾の夏期講習に入れられてしまった。田舎町だったので、ターミナル駅にあるその塾までは自転車で30分もかかる。
今ほどの異常気象ではないものの当時でも暑くて汗だくだ。昔なのでそこかしこにコンビニもなかったが、水田が広がる道に唯一自動販売機があるのを見つけた。その自動販売機は缶の炭酸飲料ばかり並んでいて、木陰もあり暑さをしのぐには最高だと、塾の帰り道に1本飲むのを楽しみに通い始めた。
誰にも会いませんようにと、塾に通い出したが
地元から離れた町なので油断していた初日にその塾でクラスメートに出会ってしまった。
彼は成績優秀で真面目と、家は近いが話をしたこともなかった。とうてい彼の志望校に入学できる学力もなく、努力をする気もない志のない私は、彼に見つかるのが恥ずかしくてたまらなかった。しかし家まで帰る道は田舎の一本道、自然に帰りは彼と帰ることになった。
唯一の自動販売機の前で私は先に帰ってと言うと「知らんかった、こんなとこに自動販売機があるなんて、さすがなんでも知ってるなぁ」
まぁねと威張ってる私とこんなことで褒める
真面目な彼…お互い自動販売機でサイダーを選んで木陰に座って飲むことになった。
先にサイダーの飲み口を開けて一口飲んだ彼
「将来なになるん?」いきなり聞いてきた。
私は、まだ缶のサイダーの開け口と悪戦苦闘していた。私は不器用で開け口に爪をひっかけ引き上げる、これが緊張でうまくできない。
私が聞こえてないと思ったのか、彼の顔が私の近くに寄ってきた。
「大学行って弁護士や政治家になるねん」
彼はそう言って残りのサイダーを飲み干した。
ごくごくおいしそうな音を立てて喉が動く、はじけるような炭酸の泡の音が聞こえ、自分の胸の鼓動も聞こえてきた。彼を意識してるのか、サイダーの炭酸にドキドキしてるのか…
将来のこと考えてる彼、何も具体的に考えてない自分自身にまた恥ずかしくてうつむきながら、なんとかサイダーを飲んで気持ちを落ち着けたい…その一心。
「そうなんや」と答えたとたん、私のサイダーは弾けて飛び出し、炭酸の泡は彼のシャツや自分のスカートにぶちまかれた。冷えたサイダーを浴びてその後どうなったのか~遠い記憶だが彼は怒ることもなく優しく笑っていた顔だけは覚えている。しかし、サイダー事件から彼と一緒に帰るのをさけて電車を使って通うことにした私だった…
今だに、サイダーをあけるとき時々失敗して炭酸の泡を爆発させている私は、あれからもちっとも変わってないんだなぁとそして彼は元気かなぁ~グラスにサイダーを注いで飲みながら夏空を仰いだ。