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(第29回)小児がんのお話 その3 JPLT3試験

今回の論文紹介は、小児がんの中でも数%という肝臓にできる肝芽腫というがんの論文のお話です。第3回。


肝芽腫の全国研究

前回のお話で、僕が連綿と続くJPLTという肝芽腫の全国研究のうち、JPLT3の論文を書くことになったお話をしました。
 
といってもJPLT3の全データではありません。
前回、
「JPLT3試験では、肝芽腫の子を重症度で大きく3種類に分けようということになりました。
①    S群 Standard risk群
②    I群 Intermediate risk群
③    H群 High risk群
の3つです。」と書きましたが、
僕が論文を書くように任せていただいたのは、JPLT3-S群。
Standard risk群になります。

このnoteでの紹介はその論文の内容紹介だけなので、もっと治療の難しいI群やH群の細かい内容はお話しません。
(もし知りたいという希望が多ければ、論文化されたものから内容を紹介します)

「比較的弱めの治療でもちゃんと切除手術まで持っていけて、きちんと治るだろう…という群がS群」
と最初に言いましたが、こういう風に分けたのには理由があります。
小児がんというのは、全力で治癒にもっていくのが大事ですから、マックスの治療が行われます。
非常にきつい治療なわけです。
すると、もちろん合併症も増えてくる。
JPLT試験の2まででは、「CITA療法」という治療が行われていました。
CDDP(シスプラチン)という抗がん剤と、THP-ADR(アドリアマイシン)という抗がん剤の2種類を使う治療ですね。
抗がん剤というのは、機序が異なるものを2-3種類同時に使用することが多いです。
このシスプラチンという抗がん剤は、肝芽腫に対してものすごく効くため、「キードラッグ」といって絶対使おうということになっています。
副作用として聴力毒性があり、高音が聞こえにくくなります。
アドリアマイシンもよく効きますが、シスプラチンほどではないです。
副作用として心筋毒性があり、たくさん投与すると心機能が悪くなる場合があります。
そして、抗がん剤というのは正常な細胞も痛めてしまうので、「二次がん」といって別ながんを発症してしまうリスクもあるのです。

こういった合併症はなるべく減らしたい。
でも、治療成績は保ちたい。
そのための試験がJPLT3-S試験です。

まずはStandard群の定義です。
①    診断時3歳未満
②    PRETEXT分類がI, II, III (Ⅳ以外)
③    α-fetoprotein (AFP:アルファフェトプロテイン)が100mg/dLを超えていること
④    以下のPRETEXT分類付記因子がないこと (E1,E1a,E2,E2a,H1,N1,P2,P2a,V3, and V3a)
最後のやつはちょっと専門的になってしまうので省略しますが、つまりは見つけた時点で「今後手術で切除できるだろうな」と予想できる、小さな子の典型的な肝芽腫ということですね。

そういう患児を対象にして、何がみたいのか?
CDDP(シスプラチン)単剤でも同じように治療できるか です。
Primary endpoint(プライマリーエンドポイント)という、何を最も検討するのかというのは、患児の3年PFS(Progression free survival:無増悪生存率)となっています。

ちょうどこの研究のデザインをする前に、ヨーロッパからシスプラチン単剤での治療成績を見た報告が出ており、十分に治療できる見込みとなっていました。
そこに、「3歳未満」という日本独自の定義と、中央画像診断を加えた正確な分類を付加した臨床研究ということですね。

統一化された治療の方法のことを「レジュメ(もしくは レジメン)」と呼びます。
JPLT3-Sの治療レジュメがこれです。


JPLT3-S群レジュメ

たまに日本語に直すのがあまりにめんどい図が英語のままになります。
すいません…。
最初に生検(Biopsy)を行って診断をつけ、中央病理診断と画像診断を行います。
そして、4コースのシスプラチン単剤治療を行いながら、2コースごとに画像での評価を行って、中央画像診断を行います。
肝切除手術(Hepatectomy)は4コース終了後に行い、その後抗がん剤治療を2コース追加します。
手術は施設の判断で早めることも可能です。
…というのが全体の治療像ですね。

治療の基準も決まったところで、2012年から症例登録が開始され、2020年まで患者さんの治療と、そのデータの集積が行われました。
その結果が…!

と、いいところで、ここから有料になります。
(僕の有料記事の売り上げは、基本的に広島大学病院小児外科において小児がんの研究のための基金として使用させていただきます。
続きに興味がある方は、ご寄付のつもりでどうぞ~)
いつもこう書いておりますが、今回は小児がん研究そのものの結果紹介ですから、ちょっとだけお高く設定させていただいております。
ご支援よろしくお願いします!

あ、気になると思うので大事な結果だけはお伝えしておきます。
シスプラチン単剤でも十分な治療効果が得られることが証明されました
まあ、論文のタイトルからして「Successful…」ですからね。
以下の有料部分では詳細な内容と、「その結果のもたらす意義」などを説明していきます。
 

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