(第15回) 虚血にしたら虚血に強くなる!? Ischemic Preconditioning 中編 実験結果
(第14回) 虚血にしたら虚血に強くなる!? Ischemic Preconditionig 前編からの続きです。
昔の、僕が大学院生になって学位論文として書いた論文からIschemic Preconditioning (IPC)の紹介です。
注1:動物実験のお話であり、前編に記載しておりますように苦手な方は読まなようにしてください。
注2: 中編途中から有料にしています。その部分から動物実験の実際の手術の写真などが入ってきますので(そんなにグロくないようにしていますが(注意してください)
前編で苦労して動物実験の手技を身に着け、IPCを研究のテーマにすることに決めました。
では、実験のデザインをどうするか決めていきます。
実はこの「研究のデザインを決める」という部分がひじょ~に重要です。
それはもう、ものすごく。
この実験は今からもう15年以上は前ですので、まだ少し制約がゆるい部分もありましたが、今ではものすごく厳しくなっています。
動物実験などの研究は「なんとなく」進めていくものではありません。
関連する論文を読みつくし、想定される結果はどういう検査法でどのくらいの数値なのか、結果としてその数値に「差がある」ことを示すためにはどういう統計学的手法を用いるつもりなのか。
そして、前もってその統計手法を用いてテストした結果、何例の実験をすればよいのか。
全てをきっちりと計算し、決めたうえで実験というのは行われるのです。
まあ、基礎実験なので想定通りにいくとは限らないところはありますけど。
この実験は1回するごとにレシピエント(小腸を取り出す側)とドナー(移植を受ける側)の2体のネズミさんを犠牲しますし、移植の手技自体めちゃくちゃ難しいので(顕微鏡手術なので)、消耗も著しいです。
慎重に慎重を重ねて、研究計画を立案していきました。
まず前提として大事なのが、小腸における「虚血再灌流障害」がいつごろ起きるのかということ。
これは、臓器を摘出した瞬間に血液が通わなくなりますから、その瞬間から始まり、虚血時間が長いほどもちろん激しくなります。
温かいままの状態だと30分もたてばもう不可逆(元に戻らない)です。
しかし、専用の液で血管内を満たし、氷冷保存すればもっともちます。
そして、移植して血流が再開した後にも再灌流に伴う障害がおこります。
こちらがわりと深刻でして、再灌流後数時間以内に腸管の粘膜がボロボロに剥がれ落ちてしまいます。
これを防がないと、腸が破れたり(消化管穿孔)、腸管のバリアを突破して腸の中の細菌が血液に入ってきたりします(Bacterial Translocationによる敗血症)。
対して今回研究するIschemic Preconditioning (IPC)たち。
直接的に臓器を一旦虚血にさせておき、その後の虚血に備えるわけですが、こちらは様々な以前の研究から、「1回、10~15分程度をしてから30分後くらいには効果が出る。そして、効果が長続きする」と知られていました。
虚血にする臓器が今回は元々虚血に弱い小腸ですから、10分間腸管を虚血にさせ、その後30分復活させた後で、臓器(小腸グラフト)をとることにしました。
Remote Ischemic Preconditioning (RIPC)も知られており、これは別な臓器が虚血に陥ることで、全身の臓器がその後虚血に強くなるというものです。
なんとこちらは「複数回したほうが効果がある」と報告されています。
人間ではマンシェット(血圧を測るときに使うやつみたいなの)を巻いて腕や足の血流を止めたり復活させたりします。
(みなさん子どものことに自分の手首をもう片方の手でぎゅーって締めて血を止めて、しばらくして手を離すとじぃ~ん…としびれたような感じで手に血流が戻ってくる…という遊びをしたことがあると思います。アレです)
今回はネズミさんの動物実験であることから手足のマンシェットはできません。小さすぎますからね。
術野から簡単にできる方法として、下半身全体の血流を止めて、再度復活させて…というのを15分ずつ3回繰り返すことにしました。
さあ実験です
(ちょっと手術の写真が出てきますので、苦手な人は読むのをやめましょう)
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