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(第2回)腹腔鏡で簡単に糸結びする方法!? 前編 Twitching technique

今回は、僕が書いた2つの論文
Isamu Saeki et al: The “twitching technique”: A new space-irrespective laparoscopic ligation technique using a JAiMY needle holder. Journal of Laparoendoscopic & Advanced Surgical Techniques 29(8): 1077-1080, 2019 doi: org/10.1089/lap.2019.0038.
Isamu Saeki et al: Features of the “Twitching technique” – A new laparoscopic ligation technique. Pediatric Surg Open 2023; 1, 100004
より、Twitching techniqueと名付けた腹腔鏡の結紮(糸結び)手技について書いていきます。

腹腔鏡の手術 というのはもう最近ではごくごく一般的になってきました。
僕が医者になったのはもう20年以上も前になりますが(うう…年寄っぽい発言)、その頃はまだ急性虫垂炎(いわゆる盲腸というやつですね)の手術すら、腹腔鏡手術が十分に広まってはいませんでした。しかし、腹腔鏡手術の低侵襲さ(特に術後の回復の早さ)がわかるようになり、あっという間に手術は腹腔鏡が主流になりました。
ちなみに腹腔鏡というのはおなかの手術に限ったことであり、胸の手術だと胸腔鏡、後腹膜の手術だと後腹膜鏡…となるので、総称すると「鏡視下手術」というのが正しい呼び方になります。
成人の領域ではもう鏡視下の手術より更に進んで、「ロボット手術」が行われるようになってきています。

さて、「ロボット手術」と聞くと一般の方々は「ロボットが手術するの!?すごい!」と思うかもしれませんが違います。あくまでも手術をするのは人間です。


広島大学HPより、国産手術ロボット「hinotori」の画像

患者さんの中で操作をするのが「ロボットアーム」になっており、これが様々な角度で動くことができ、とても自由度の高い手術ができるのが特長です。使うのには十分な修練が必要です。
なぜ普通の鏡視下の手術よりロボットがすごいのか…の理由の1つがこの「ロボットアーム」なのです。


普通の腹腔鏡の手術

普通の鏡視下の手術では患者さんの体に挿入した「ポート」から体の中をガス(二酸化炭素)で膨らませて、ポートを通して入れた3mm~10mmの太さの鉗子(かんし)を入れて作業をします。しかしこの鉗子。押す引く、回す、掴むという限られた動作しかできず、自分の手と違って動かせる自由度(Degree of freedom: DOF)が低いのです。なので、上手な手術をするためには、努力と、センスがいります。
しかし、ロボットアームはなんと、人間の手以上の動きができたりするのです!うーんすごい。
ということで、現在あっという間に日本中に広まりつつあるロボット手術ですが、小児ではなかなか使えません。
なぜなら、小児は体が小さいからです。ロボットアームを入れる比較的大きな穴を何か所か開けるくらいなら、小児ではもっと小さい傷で十分に手術ができてしまいます。というわけで、小児ではいまだに鏡視下手術が主流なわけですが、先ほど言ったように鏡視下手術は鉗子の動きが限られるので難しい。そして更に小児(特に乳幼児未満)では体が小さいのでめちゃくちゃ難しい(!)のです。
そしてその中でも一番難しいのが、「体の中で結紮(糸を結ぶ)する」こと。
まあ、考えるだけで難しそうですよね。
慣れた人たちはサクサクと結んでいくんですけどねー。鏡視下で折鶴作ったりするし。

前置きが長くなってしまいましたが、要するに、手術初心者には小児の鏡視下手術で、体内で結紮をするというのは、修練をしてもとーーってもハイレベルな手技なのです。

体内で結紮をする方法は、昔からメインで行われているものが1種類あり、「C-loop法」と名付けられています。
2本の鉗子のうち片方の鉗子に、もう片方の鉗子を使って糸をくるっと巻き付けて、その糸が巻き付けられた鉗子で、結ぶ側の糸を持って縛る というものです。
文字にすると難しく感じますが、これは外科医が一般的に体を縫うときに「器械結び」といってしている方法と同じです。なので、外科医はみんなすぐ理解できます。
つまり、外科医がいつもやっている方法を鏡視下でするわけですが、これがコツがいるので、なかなかすぐにはできません。小児で空間が狭かったりするとなおさらです。
そこで発生するのが、「糸を巻き付けた鉗子に糸がからまって抜けにくくなる事件」や「せっかく巻き付けた糸がほどけちゃったよ事件」です。
鏡視下手術は術者が手術している画像を、大画面でみんなが見ています。そこでそんな事件が頻発した日には、上級医からクソデカため息をくらうこと必至です(怖)。そこで僕は、家で糸をこねくり回しながら考えました。

「なんとか、鉗子に糸を巻き付けずに糸を結ぶ方法がないものか…?」

その結果編み出したのが、この方法、「Twitching technique」です。

…と、動画を貼り付けようとしたのですが、うまくいかないので、連続写真で。色分けした太いヒモでやってみたのがこちらの図です


1長い糸(青)をつかんで反時計回りに半回転回します


2糸がクロスしたら、そこを持ちます


3輪っかができているのでその輪っかごしに短い糸(白)をつかんで引っ張って結びます。


4今度は反対結びです。長い糸(青)をつかんで時計回りに半回転回します


5糸がクロスしたら、そこを持ちます


6輪っかができているのでその輪っかごしに短い糸(白)をつかんで引っ張って結びます。

あら不思議。意外なほどサクサクと、狭い範囲で糸が結べる。
そして何より、この方法だと鉗子に糸を巻き付けませんので、絡まることもない。
一度糸をクロスさせて掴んでしまえば、外れてしまうこともない。
これはいいや。英語の名前をつけて世界に報告しようっと。

そう思った僕は、英語が堪能な同僚の医師に相談し、「この方法って糸をつねって回すみたいだね」ということで、「Twitching technique」と名付けて学会報告、論文報告を行ったのでした。


つねる(twitch)

長くなってきたので今回の前編はここらへんで終了。
次回、後編 「実際に学生さんに教えて研究してみた」に続きます。

本研究内容補足事項
<論文>
Isamu Saeki et al: The “twitching technique”: A new space-irrespective laparoscopic ligation technique using a JAiMY needle holder. Journal of Laparoendoscopic & Advanced Surgical Techniques 29(8): 1077-1080, 2019 doi: org/10.1089/lap.2019.0038.
Isamu Saeki et al: Features of the “Twitching technique” – A new laparoscopic ligation technique. Pediatric Surg Open 2023; 1, 100004
<学会発表>
第54回太平洋小児外科学会(PAPS)
第38回日本小児外科学会秋季シンポジウム など
<院内倫理委員会>
承認番号 E-2198

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