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JOL2019-4 イヌクティトゥット語 解説

日本言語学オリンピック2019
第4問.イヌクティトゥット語
ジャンル:統語
難易度:☆4
問題・解答は 過去問・資料まとめ より引用。

JOL2019-4

注意
イヌクティトゥット語を含むイヌイット語全般の文法については、Wikipediaが詳しい。 この記事内に出てくる文法事項は、あくまで本問を解くために必要最低限なものである。 また本記事は解答の8割程度しか説明できていない。

大前提

  • 普通の文字は「母音」あるいは「子音+母音」、上付き文字は「音節末尾の子音」

  • 語順は、(主語語根)(S標識)+(目的語)(NS標識)+動詞語根(過去標識)主語標識

  • 目的語の定/不定により、主語・目的語・動詞の語根に形態素が追加される

  • 動詞語根に付く主語標識の手前の音が母音か子音かで、主語標識の形が変わる

ややこしく書いたが、基本的には語順はSOV。主語が代名詞のときだけSが抜ける(動詞語根に付く主語標識で主語を判別する)。

目的語が定(「その~」や「彼」「ピーター」)なら、動詞が"Specific verbs"となり、それに応じて動詞語根に付く主語標識が変わり、さらに主語語根に標識が付く(主語語根に付く標識をS標識としておく)。

目的語が不定(「ある~」)あるいは目的語が無い(動詞が自動詞)なら、動詞が"Non-specific verbs"となり、それに応じて動詞語根に付く主語標識が変わり、さらに目的語語根に標識が付く(目的語語根に付く標識をNS標識としておく)。

つまり、与えられたイヌクティトゥット語の文と日本語訳の組を目的語の定性により分けないと考えにくい。

形態素対応

名詞

動詞

その他

目的語が定の場合

(主語語根)(S標識)+目的語+動詞語根(過去標識)主語標識

になる。

主語語根に付くS標識は、ラテン文字では-upを付けるが、それに対応する原語表記は下記の通り。

目的語には何も付けない。

主語標識は以下の通り。

  • 主語が2人称(かつ目的語が3人称)の場合 ᑐᑎᑦ

    1. (これは真偽不明。問題文ではそうなっているが、wikipediaの記載とは食い違う)

  • 主語が3人称(かつ目的語が3人称)の場合

    1. 直前が母音なら ᕙᖓ

    2. 直前が子音なら ᑕᖓ

目的語が不定の場合

(主語語根)+(目的語)(NS標識)+動詞語根(過去標識)主語標識

になる。

主語語根には何も付かない。

目的語語根に付くNS標識は ᒥᒃ

(ただし前に子音ᒃがあるとき、ᒃ → ᒻᒥᒃとなる)。

動詞語根に付く主語標識は以下の通り。

  • 主語が1人称(単数)のとき ᕗᑎᑦ

  • 主語が3人称(単数)のとき

    1. 直前が母音なら ᕗᖅ

    2. 直前が子音なら ᑐᖅ

これで解けるのか?

ここまでで与えられた文と訳文のセットをかなり説明できているはず。しかし上の規則に沿って問題を解いても、解答とは微妙に違うところが出てくる。

すべてラテン文字で与えられていて、解答もラテン文字でよいのなら完答できるはず。ただし、原語表記となると話が違ってくる。形態素が語根に追加されることにより原語表記での子音変化や長母音化があると思われるが、それが問題文中では確定できない(長母音化の方は、それが長母音であると分かっていなくとも答えは当たるが)。

総評

JOLの統語では最難問。再三言うが、ラテン文字だったのなら難易度が☆3.5まで落ちそう。

この年は統語で☆3.5のコリマ・ユカギール語もあるため、時間内で解答するのは困難。銀賞狙いなら語対応だけ確認してそれっぽく埋めて撤退するのが良いか。

名詞の定性に着目するのは初見だとかなり盲点。直後のコリマ・ユカギール語でも出題されているので、気を付けたい。

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