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JOL2021-1 カビル語 解説

日本言語学オリンピック2021
第1問.カビル語
ジャンル:統語
難易度:☆2
問題・解答は 過去問・資料まとめ より引用。

JOL2021-1

頻度分析

よくある相互翻訳問題です。a~iの例文を見れば、ポイントは人称動詞・名詞の意味であることに察しが付きます。頻度分析を行い、これらを調べていきましょう。

"ufeg"が「飛んだ」ですね。

語形が微妙に異なるところから人称変化も読み取れます。 "-ent"が3人称複数女性、"t-"が3人称単数女性、"y-"が3人称単数男性でしょうか。

例文aでは"ufeg"が"ufg"となっていますが、母音eが弱化の結果脱落したと考えるのが自然でしょう。

"uzzel"は「走った」、"ewwet"は「叩いた」ですね。

"-eɣ"が一人称単数、"y-"が三人称単数男性の標識であることもわかります。ここまでで動詞の人称変化に関する情報は十分揃いました。 人称接辞を切り離せば一度しか登場しない動詞の語幹も見極められますから、動詞の意味もクリアです。

では、別の分析に入りましょう。 ここで、例文bは1単語であるのに対して、例文eは2単語からなることに注目します。 「私」は基本の人称語なので、接辞だけで表されます。それに対して、例文eでは「猫は」という主語を明示するために"wemcic"という単語を置いています。

同様に考えると、"aqcic"が「男の子を」、"wemɣar"が「おじいさんは」ですね。 例文fには"weqcic"「男の子が」という単語もあるので、接辞"a-"は「を」の意味(対格)、"we-"は「が」の意味(主格)を表すというのがわかります。 また、例文iを見ると"i we-"の形で「に」の意味(与格)を表すようです。これで情報が揃いました。

名詞・動詞の意味、人称接辞がわかれば解答作成は楽勝です。 基本語順がVSOまたはVOSであることも自明なので、作文にも苦労しないでしょう(公式解答によると基本語順はVSO)。

総評

総合平均点は11.44点、標準偏差6.31点。入賞を目指すなら満点必須の問題(筆者は格表示の存在に気付かず1問落としました...)。 単純な頻度分析の練習に使える良問な上、典型的な引っかかりポイントが設定されています。

例えば母音弱化です。統語・形態問題において、同じ形態素なのに微妙に語形が違って気付けない、というのはよくあるミスです。 たいていこれには音韻的な原因があるので、色々な音韻現象の知識を持っておくと吉です。

易問ではありますが、他の問題に通じるエッセンスが詰まっています。

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