これも親ガチャ?(第12話)

『悪いな、相田。ちょうど、ランニングコースの途中なんだわ。
コーヒー、ごちそうになったよ。
朝飯も頂けると助かるんだけどな!あははは。』
近藤先生は、人の都合など気にも留めず、
言いたい放題な人柄だと初めて知った。

‘いや、これは、的にかけられて、
やりたい放題やられてるってことだよな。
先日の茜の態度を見逃さなかったんだろうな。
逆に俺が舐められてるんだ。
じゃあ、話が変わって来たな。’

眠い頭で考えをまとめた俺は、
オヤジ力を60%ほど出して話を始めた。
『先生、大人しく帰んな。情報、入ってんだろう?
学校をまとめてるのが俺だって。
あんたの出方次第じゃ、泣くことになるよ。』
『相田、大人を舐めるんじゃないぞ。・・・』
『非常識に、俺らを舐めてるのは、あんただ。
ラブホで警察沙汰までやってる大人に
偉そうにされたくないね。』
まだ、このネタを蒔くには早い気もしたが、
茜の事もあるから、
茜に聞こえる様に大声で言った。
近藤先生は、見る見る顔を赤くした。
『どうぞどうぞ、殴ってくれよ。
1発貰った後は、立てなくなると思えよ。
警察の知り合いもいるし、子供だし。
後は、上手くやるよ。
ただ、あんたは、懲戒免職になるよな。
そっか、あんたも顔が利くんだ。
だがな、今度の相手は俺だ。
いつもみたいに上手くいくと良いな。』
近藤先生は、俺のTシャツを掴んで睨みつけたが、
黙って諦めて帰って行った。



2週間後、俺と茜は学校に呼び出された。
校長と教務主任、PTA会長、近藤先生がいる校長室に通された。
その2日前、俺は茜に3つの動画を見せた。
出来れば、こんな酷なことをしたくなかったが
最後まで見てもらった。10分ぐらいを3つ。
1つは、PTA会長と近藤先生がラブホの廊下を通りながら
『みつこさん、何とか、この不良生徒を退学させてくださいよ。
僕、脅されてるんですよ・・・』というもの。
2つ目は、教務主任と近藤先生が
ラブホの駐車場に止めてた車の中でキスしながら、
『先生の力で、相田をこの学校に居られ無くして下さい。
僕、怖くて・・・。
そして、平和な学校にしてから、結婚しましょう。』というもの。
最後は、OL風の女性とラブホの駐車場のど真ん中で
抱き合いながらキスをして
『さくら、やっぱ、お前が一番だ。愛してるよ。』
さすがの茜も落ち込んだ。
それが可能な様に、連休を士長に頼んでおいた。
茜の貴重な3連休の最後がこの学校訪問の日だった。
その下準備を知らないまま、
校長の前で茶番を始めたPTA会長のセリフはこうだった。
『今、学校内で、若い女性と同棲している生徒がいるという噂が
蔓延してますが、校長先生、事実ですか?』
PTA会長の鈴木みつこさんは、俺を汚いものでも見る様に
さげすみながら言った。
俺は、構わず、校長が座る応接セットのテーブルに
動画を再生したスマホを置いた。
『あなた、失礼じゃない。人が質問してる最中に・・・』
PTA会長は、動画の声が自分のものだと気づいて固まった。
慌てた近藤先生がスマホを取ろうと身を乗り出したところを
思いっきり拳骨で殴った。
近藤先生は、左の頬を腫らしながら
PTA会長の上に倒れた。
騒いでる間に、教務主任の動画に変わった。
あまりのショックで一瞬、声が出なかった教務主任も
我に返り『いや~。』と大声を出した。
校長がスマホを取ろうとしたのを、
『校長先生、もう1つで終わります。意味がある事ですので
もう少し見て戴けませんか?お願いします。』俺がそうお願いした。
なぜなら、3つ目には女子大生ではなく、
いつかの早朝の近藤先生の啖呵を入れていたからだ。
『担任とはいえ、何の約束も無く、
早朝ランニングの途中に生徒の家に入って
問題にはならないんですかね?
しかも、俺が新聞配達をしてることを熟知してるのに、
わざわざこの時間に来る意味。
俺が起きれなかったら、近藤先生は、若い女性に
朝飯を要求してたんでしょうか?
しかも、いきなり胸倉をつかむなんて・・・』
校長は、手をあげて静止を促した。
『解った。もう充分だ。近藤先生の問題傾向は知っている。
まさか、転校してたった3か月で校内をこんな風にしてたなんて。
私も覚悟を決めた。懲戒解雇に踏み切る。
相田君、申し訳なかった。
今日はこれで帰ってくれないか?
スマホは預からせてくれ。』
そう言う校長の前に、俺はフラッシュメモリーを置いた。
『校長先生、近藤先生の処分が決まったら、
先生の目の前で、スマホの記録を全て消します。
なんなら、差し上げても良い。
ただ、それまでは、コピーで対応をお願い致します。』
そう言って立ち上がった瞬間、
近藤先生が左手で左目をかばいながら、
俺の前に立ちはだかった。
『・・・・』
パ~ン。俺が何かを言う前に茜の渾身のビンタが
近藤先生のかわいそうな左顔面を直撃した。
近藤先生は、傷口がさらに悪化したようで、その場に崩れ落ちた。

新学期、担任は変わっていた。
近藤先生の突然の転校に悲しむ女生徒や
俺の悪い噂を確認する生徒など
クラスの中はカオス状態だったが、
不良が噂を封じ込めて行った。
後で知ったが、正が不良たちに頼んで回ったらしい。
9月25日、校長室に俺は呼ばれた。
そこには、ロングからボブカットに
イメージチェンジした教務主任が座っていた。
『相田君、ありがとう。私も目が覚めたわ。
約束通り、スマホの画像はどこにも出てなかったようね。
近藤先生は、8/31付で懲戒解雇になったわ。
これが通知のコピー。だから、そのスマホを
渡してくれませんか?そして、くどいようだけど、
他にコピーは無い?』
校長の前で、教務主任の森昌子先生は、確認した。
『解りました。これは、新しく契約したスマホ、
こっちは今までのスマホ、
約束通り、古い奴は差し上げます。
いや、貸しとくよ。
そして、新しいスマホに画像があるかどうか
確認してください。
そうそう、PTA会長は、そのままにしてくださいね。』
俺は、説明とお願いをした。
『なぜ?』森先生が聞いてきた。
『子供が大人の都合で、
イジメにあわなければいけないとか、ナンセンスじゃない?
それとも、PTA会長が突然やめて、
その子供がイジメられないとでも、
真顔で言う訳?
イジメる奴は、ネタを日々探してるというのに。』
そう俺は答えた。
『そうね、あなたには、教えられてばかりね。
あなたの言う通りにするわ。
校長先生、上手くやりますので、
任せてもらえますか?』
校長もだいぶ痛手があったのだろう、
始終、仏頂面だった。
この事を茜に話すと
『ム~君、責任取ってよね!
死ぬまで面倒見てもらうからね!』
だってさ。
茜が元に戻って、士長さんたちもホッとしてたし、
良かった良かった。
そうそう、この森先生が、
3年生の時に正と俺の進路で
かなり骨を折ってくれたんだ。
良い先生だったんだね。
でも、結局、俺は、正たちとは違う進路を歩むんだけどね。


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