これも親ガチャ?(第16話)

翌日の19時に約束通り、真奈の母親から電話があった。
俺は、今、まだ、真奈が塾に行ってること、
ボストンバックを学校に持っていけないから
1度相田家に帰ってくること、
家に帰ってから、真奈は今回の騒動を謝るつもりでいる事、
昨夜は、俺が新聞配達に出かける2時まで
真奈の言い分を聞いていたこと、
それから真奈は俺の部屋で眠り、
俺は新聞配達に出かけたこと、
そして、俺は新聞配達が終わってから帰宅しても、
キッチンにあるソファーで眠った事、
そんな昨日の説明を真奈の母親にした。
暗に、「変なことは少しもありませんよ。」
という意味を込めて説明した。
『昨日はこんな感じでした。
河合さんは、塾が終わって、
荷物を取りに相田家に戻ってくるそうです。
だから、20時30分ごろ、
こちらに迎えに来てもらえませんか?』
そう、俺は真奈の母親に伝えた。
真奈の母親は約束通りの時間に迎えに来て
結局、21時に真奈は母親と帰って行った。
その翌日、真奈はバス停で待っていた。
ちょうど正もいたので、
真奈は、正と俺に『ごめんね』と言った。
が、そのまま俺に向かって、強引なお願いも成立させた。
『家で高校と大学の検索が出来ないから、
相田君のパソコンを貸してくれない?
しばらく、相田君の空いた時間で調べさせてね。』
『仕方ないなあ~、俺が蒔いた種だし、
しっかり見届けさせてもらうよ。』
俺は、そう答えるしかなかった。
そうじゃないと、また、話が2日前に戻っちまう。


そして真奈の大一番があったのは、その3週間後だった。
12月1日、2日後に進学先決定の3者面談を控えた日だった。
両親に将来設計のレジュメを渡して、
自分の考えをぶちかましたらしい。
圧倒された父親は『学費はどうする?』という
逃げ口上を発してしまった。
すると『あっ、ご心配なく。友人に超金持ちが居て、
私に貸してくれるんだって!
しっかり考えて将来設計して、
それでもご両親が首を縦に振らない時は、
学費だけ貸してくれるって言ってたもん。』
と真奈は返したそうだ。
親のメンツなど関係ない。喧嘩上等!だったのだろう!
だが、その煽りが俺に来ちまった。
12月2日夜、真奈の両親が揃って相田家に来たのだ。
‘だから~、事前に情報を流しなさいって!’
顔を真っ赤に怒鳴る大人を前に、
俺は、しばらく、話を聞き続けた。
正確に言うと、真奈の父親がテーブルに叩きつけたレジュメを
両親の話は上の空で熟読していた。
真奈のお父さんの話が同じことを繰り返し始めたので、
『真奈さん、頭良いですね。
なかなか、こんなレポートは書けない。
河合さん、これをしっかり読まれました?』
俺の言葉に真奈の母親は少し鼻を高くしたが、
反応したのは、真奈のお父さんだった。
『だから、我が家には、我が家の方針がある。
勝手にかき回さないで欲しい。
私は、そう言ってるんだ。』
真奈のお父さんは、俺にというより、
何かに八つ当たりするように怒鳴った。
『河合さんの考え方だとそうなるんですね。
でも、そのやり方で娘は夜の街をうろつく可能性が
出て来たんですよね。
1か月前、河合家は私達に迷惑をかけていることを
お忘れですか?それとも、あれも俺が悪いんですか?』
俺は、真奈の人生がかかっている事を考え、
真奈と真奈のご両親とが、
けんか別れにならない様に
真奈のお父さんを観察しながら、話した。
『真奈さんは、女性だから、高卒で公務員として、働けば、
弟さんの進学が確実に実行できる。
でも、それは、真奈さんの給料の一部を
当てにするってことですよね。』
俺は、核心を突いてみた。
『それが、何か悪いのか?』
真奈のお父さんの顔色が変わった。
『いいえ。何も支障はありませんよ。
真奈さんが納得してるのなら・・・。』
俺は、更に核心に迫る。
『想像してみてください。
真奈さんのお父さんの思うようにした場合、
これから、弱っていく老後に、
真奈さんからネチネチ不満を言われ続けながら
介護されるんですよ。耐えられそうですか?』
‘おや、お父さんが少し冷静になったぞ。
そこまでは、考えてなかったか!’
そう思っていると、真奈のお父さんが言った。
『お前みたいな、
金持ちのガキに何が解るって言うんだ!』
‘なんだ、今度は愚痴だよ。’
次は、どう話そうか思案し始めた時。
『ちょっと待ってください。
ム~君は、全て自分で稼いでいます。
新聞配達と夜のパートで稼いで、
マンションの家賃と生活費を
半分よりも多く入れてくれてます。
生活費以外のお金を貯めながら運用して、
今の資産があるんです。
この子ほど、頑張っている子はいないんですよ。』
茜がムキになってフォローしてくれた。
『お父さん、昔、児童虐待のひどい子がいたじゃない。
相田君、その子なのよ。』
真奈のお母さんもフォローした。
『私、真奈の考えがよく解らないんです。
このレポートから何が解るんですか?』
真奈のお母さんが質問してきた。
俺は自分のコーヒーを一口飲んでから、話し始めた。
『真奈さんは、学費を自分で捻出しようとしてます。
それには、どこに行かないといけないか?
将来、自分が手に職をつけるために、何が必要か?
3パターンに絞ってます。
1.       ネット通信学園に通いながら、バイトをする。
でも、ネット通信学園の費用は割高で、
バイトの時間が確保できるかどうか?
2.       単位制高校で学費を稼ぎながら、大学に備える。
3.       中央高校を受験して、公立大学を目指す。
学費は全て、相田君に借りる。

将来、3を選んで、有名大学卒、優良企業に就職して、
高給取りになった方が私への借金は返済しやすい。
だが、数年前のオイルショックみたいに
世の中が普通だとは限らない。
だったら、2を選んで、俺を利用しながら、
専門学校に通ってシステムエンジニアとして活躍する方が、
時間と可能性を最大限に活かせるのでは?
おまけにお金も貯められる。
そんなことまで検討しています。

その結果、
真奈さんは、今回、1を検討する時間が無いので、
2を選ぶと言ってたと思うのですが・・・、
もしかして、最後まで話を聞いてあげてないんですか?』
俺は、説明しながら、腑に落ちなかったので、
質問に質問で返すことになった。
真奈のご両親は、顔を見合わせた。
‘??やっぱり、真奈は最後までレジュメを説明し終えてない?’
俺は、そう感じた。
『すみません、河合さん。真奈さんと電話していいですか?』
首をかしげるお父さんの代わりに、お母さんが言った。
『どうぞ。』


『ああ、こんばんは、真奈・・さん。
今、電話してても大丈夫?
じゃあ、手短に。今、君のご両親が
家に来てるんだけど、確認したいことが1つ。
君のレジュメの結論、ご両親は聞かずに終わってるのかい?
なるほど。塾は、終わった?
じゃあ、ここにおいでよ。ご両親も待ってるから。』
そこまで話して、俺は電話を切った。

俺は、大きく息を吐いてから、言った。
『河合さん、娘さんの話を聞いてください。
全て聞いてから、判断をお願いします。
それから、茜さん。お腹空いたね!何か頼もうか?
そう言えば、真奈さんのお母さん、夕飯は?』
俺は、頭の隅に真奈の弟を思い浮かべていた。
『それが、お父さんが帰るなり出て来たもので・・。』
『河合さん、ここで食べていきませんか?
みんなで食事をしませんか?
ぜひ、俺の目の前で、真奈さんの一生懸命考えた進路を
聞いて欲しんです。
我がままを聞いて頂けたら、
今日の食事と前回の迷惑、
チャラにするというのはダメですかね?』
俺は、真奈のお父さんにお伺いを立てた。
『ふん。』これが答えだった。
『この家では、反対しなかったことは、賛成なんで。
お母さん、弟さんを呼びに行ってもらえませんか?
それから、中華、食べられないものありますか?』
俺は矢継ぎ早に質問をした。

つづく
真奈ちゃん、どうなる?
真奈ちゃんの弟って、どんな子?

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