“産地発ブランド”の「本質的価値」と、そのムーブメント
先月末から6日間出展させていただいていた、名古屋松坂屋南館1Fでの『びしゅう百貨店』を無事終えることができました。
今回で3回目を迎える催事となりましたが、年々こちらのイベントを目指してお越しいただけるお客さまが目に見えて増えており、繊維産地というテーマに対するお客さまの興味が高まっていることを実感します。
尾州の大鹿(株)さんが主となり名古屋松坂屋さんと企画されているイベントで、HUISも産地コラボという形で毎年お招きいただいていますが、今回も本当に楽しい6日間となりました。
お客さまの想いが届きづらい、アパレル業界の仕組み
今回、売り場でお話をさせていただいたお客さまの中に、「【MADE in JAPAN】と記載されていても実際に日本製の生地が使われているものはほとんどないんですよ」というお話をしたところ、大変驚かれたお客さまがいらっしゃいました。
そのお客さまは、以前テレビ番組で、アパレル業界における海外での就労問題や、日本の繊維産地の現状などが紹介された特集番組を見たことをきっかけに、「こうした世界は変わらなければいけない、これからは日本で作られた生地の洋服を買おう」と心に決められて、【MADE in JAPAN】と記載された服だけを買うようにしていたそうです。
※【MADE in JAPAN】の記載に関する誤解については、HUIS JOURNALにご紹介をしています。以下のブログ記事からもぜひご覧ください。
■衣服における「MADE in JAPAN」の誤解と、日本の生地産地のこと
https://1-huis.com/all/11611/
洋服の場合、原産国の表示義務があるのは最終縫製地になるため、例えば「ブランドタグ」だけでも日本で縫製すれば【MADE in JAPAN】と表示できるのが国際的な統一ルールのため、本製品の縫製すら日本ではないものも多くあります。
そのお客さまは、強い想いで【MADE in JAPAN】の服を選んで買っておられたそうで、このことにとてもショックを受けられていたのが印象的でした。
なぜ日本の生地を使うブランドが少ないのか?
ちなみに、なぜ日本で売られている洋服なのに、輸送費がかかからない日本製の生地がそれほど使われないのか?と言えば、「海外産の生地に比べ、日本の生地は良い生地で価格が高いから」です。
特に高級生地の産地と言われる【遠州織物】や【尾州織物】は、国際的にも最も高価な生地です。そのため、非常に価格が高く、多くのハイブランドが使用していますが、逆に言えば上代を高く設定できるハイブランドしか扱うことができない生地でもあります。
それだけ素材にこだわり、他にはない技術の詰まった生地が、それぞれの産地で作られているのです。
一方、アパレル業界はここ数十年の中で、価格とデザインを優先して大量生産する時代になり、生地の良し悪しにはできるだけ触れないよう製品制作がされるようになりました。
そうした時代が続いたため、売り場の伝え手も、デザイナーと言われる人ですらも、生地の良し悪しが分からなくなってしまったと言われます。
現代のアパレルデザイナーの中で、編み工場や機織り現場を見たことがある、という人は多くはないそうです。
デザインした服に用いる生地は、大手生地商社さんが用意した『カタログ』から生地を選ぶだけで手配することができます。
その『カタログ』には、“見た目”と“価格”だけが掲載されていて、どの国で作られた生地か、という情報すら掲載されていません。
スーパーマーケットに並ぶ食品であれば、どの国で作られたものかという表示義務があります。
「青森産にんにく」と「中国産にんにく」の価格が大きく違ったとしても、消費者それぞれの価値基準で選択がなされます。
しかし『生地カタログ』には、○○産という情報が表示されずに、“見た目”と“価格”だけが載っています。見た目に大きな違いがなければ、誰もが安いものを選ぶでしょう。
スーパーマーケットの売り場に、原産国が記載されていない状況をイメージしていただければよく分かると思います。
若いデザイナーは、先輩デザイナーを見て、仕事を学びます。この状況が続くことで、今のアパレル業界が少しずつ形作られてきました。
服を「作る人」の時点で、産地の技術、生地の価値が共有されていないのであれば、商品を託された売り場の「伝える人」はそうした情報を知る由もありません。
「作る人」も、「伝える人」も、知識がなくなってしまえば、お客さまがわからなくなるのは、ごく自然なことだと思います。
“産地発ブランド”の本質的な価値
だからHUISでは、お客さまに「良い生地とそうでない生地」があることと、その違いを知ってもらうこと、意識してもらえるようになることこそが、日本の素晴らしい生地が残るために大切なことだと思っています。
こうしたアパレルの実情がある中でも、売り場でひとつひとつ積み重ねていけば、見える未来があると思っています。
今回の「びしゅう百貨店」は、その手応えを感じることのできた6日間でした。
HUISのような【産地発ブランド】は、これまでのアパレル業界にはなかった概念です。
お客さまの中で今、こうした動きに気づいている人も全体からすればほんのわずかだと思います。でも、この価値は次第に伝わり、ムーブメントはこれからより大きくなっていくと僕たちは考えています。
【産地発ブランド】の活動や売上は、そのすべてが産地に還元され、循環し、それぞれの産地の維持・発展に直結します。
価値を理解してくださるお客さまの想いと、そうして買っていただいた売上は、そのすべてが、日本のものづくりと職人技術が残り、後世に受け継がれるための糧になります。
これまでの一般的なアパレルブランドにおいて、そうした意義が見えるものは多くはなかったでしょう。そのことこそが、【産地発ブランド】の本質的な価値だと思っています。
冒頭にご紹介したお客さまのような想いを潜在的に持った方は、日本全国にたくさんいらっしゃると思います。その歯痒さを、痛感しています。
名古屋松坂屋で2021年にスタートした「びしゅう百貨店」は、第2回となる2022年の時点で同会場におけるアパレル催事の過去最高売上を記録しました。そして、第3回目となる2023年は前年の売上をさらに大幅に更新しています。
快進撃とも言えるこの実績に、アパレル業界はしっかりと向き合うべきでしょう。
【産地発ブランド】が集う「びしゅう百貨店」を企画された尾州ブランドのみなさん、名古屋松坂屋スタッフのみなさんの力が、この先のアパレル業界と日本の繊維産地の未来を拓いていく大きな力になっていくと僕は思います。
そしてHUISもまた、さまざまな場所で多種多様な産地発ブランドさんたちと切磋琢磨していけることを楽しみにしています。
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