日本の繊維産地の今と、未来(ほぼ日さん企画展を終えて)
2024年も本当にあっという間に半分が過ぎてしまいましたが、怒涛のイベントラッシュも終えて、7月に入ってからは自分自身のスケジュールもやっと少し落ち着いてきました。
今年は、書籍「HUIS.の服づくり」の発売(主婦と生活社)や、渋谷ショールームのOPEN、画家・山口一郎さんとのコラボレーション、10周年を記念した「HUISマルシェ」など、とにかく春に大きな出来事が目白押しだったのですが、【ほぼ日】さんとのコラボレーションと企画展も大きなイベントでした。
このほぼ日さんとのコラボについては、HUISウェブサイト内に特設サイト「HUIS×ほぼ日」にまとめています。
HUIS、古橋織布、カネタ織物の3者のインタビューは特にわかりやすく伝えてくれていて、興味のある方はぜひご覧になってみてください。情報を伝える、というのは当事者が一次発信するよりも、第三者が取材し、熱量をもって伝えてくれるほうが伝わりやすいものです。
そうした分野のパイオニアであるほぼ日さんが伝えてくれるというのは、あらためて、とても嬉しいことです。
さて、もうひとつ、ほぼ日さんとのコラボについては、神保町のほぼ日さん本社1Fにあるショップ「TOBICHI東京」で開催した「HUIS.の服づくり展」という企画展について紹介させていただきたいと思います。
この企画展は、これまでのイベントの中でもおそらく最も気合を入れて準備をした展示イベントではないかと思います。
普段は、商品を販売する、ということになんだかんだ重きを置いていますが、この企画展では『産地を伝える』というコンセプトを表現することに注力しました。
企画展の詳細については、前述の特設サイトをご覧いただければと思います。
「HUIS.の服づくり展」は、春に出版した書籍でお伝えしていることをリアル展にしたというものではあるのですが、書籍とは別に、メインの壁面パネルでまとめた内容はこの展示会用に新たに書き起こしたものです。
遠州産地の今とこれからについてまとめたもので、ある意味、他の多くの繊維産地にも共通することだと思います。以下にnoteでも書き留めておきたいと思います。
こうしたコンセプトに注力した企画展、またあらためて開催していきたいと思います。
遠州産地の今と、未来
知らなかった「地元の誇り」
遠州と言われる静岡県西部。ここに住む人にとって「遠州織物」という言葉自体はおおむねなじみのある言葉です。でも、それがアパレルにおいて特別な生地であるというイメージはほとんど持っていません。
私たち自身も遠州織物のことを深く知る前は、ほかにも同じような生地を作っている地域、あるいは国があるのだと思っていました。例えば遠州はみかんの産地ですが、他にも国内に美味しいみかんを作っている産地はあります。
ですが、調べていくと、旧式の織機を使い細番手の糸で高密度の生地を作る産地なんて、もう世界中を探してもどこにもないのだと理解するようになります。HUISの活動を通して遠州織物のことを知るたびに、遠州がいかに高い技術を持ち、国際的にも希少な生地が織られているのかを痛感しています。
遠州地域の、そして日本人の誇りであるはずの遠州織物の素晴らしさを、服づくりを通して伝えることが、私たちHUISの役割のひとつだと思っています。
世界から注目を集める日本の旧式シャトル織機
“高級生地”と呼ばれる遠州織物の特別さは、細番手の糸で高密度の生地を織ることができる技術にあります。特に遠州地方は、織機の中で最も古く希少な「シャトル織機」が数多く残る産地。HUISの服はこの「シャトル織機」で織られた生地を使っていることが特徴です。
現代ではもう生産されていない日本の「シャトル織機」は最新式の機械と比べ極めて低速で、糸に負担をかけず空気を含むように織り上げることで、ふっくらと立体感のある風合いと、やわらかくしなやかな質感が生まれます。ただ、低速のシャトル織機での生地生産は、最新式の織機と比べ規格によっては20〜30倍もの時間がかかるものもあります。
つまり最新式の織機なら1日で織る生地を1か月近くかけて織っている、ということです。それだけ途方もない時間をかけることで初めて生まれる生地なのです。
時代を逆行して突き進んだ遠州の機屋たち
HUISの生地を織ってくれている遠州の機屋さんたちのすごさは、織機が近代化し技術革新が進む時代の中で、旧式の織機を使い、さらには改良をし続けてきたことにあります。
何倍も、何十倍も速く織ることのできる織機が開発され、最新式の設備に入れ替わっていくなかで、遠州の機屋さんたちは、その効率化によって失われてしまう大切なものに重きを置いて、実直にこれまでどおりの製法で生地を作り続けてきました。
売り場にお越しいただいたお客さまから、こんなお話を伺ったことがあります。「昔の服は生地が良く、おじいさんおばあさんの着ていた服は何年もずっと着られる服だった。その頃の生地と、すごくよく似た風合いだ」と。HUISが使わせていただいているのは、まさにそういう生地なのです。
寡黙で特別なHUISの生地
HUISを愛用してくださるお客さまからいただくのは、「他にはないやわらかな肌触りを気に入っている」「とにかく軽く、着ている感覚がないほど」といった言葉。
これらは、いずれも「シャトル織機」によって織られた生地がもつ特別な機能性です。
極めてゆっくりと織る「シャトル織機」は、ヨコ糸にできるだけテンションをかけません。糸に負担をかけずに、ゆっくりと、ですがぎっしりと密度を入れて織っていきます。
わかりやすいイメージとしては『たっぷりの糸を“ふにゃふにゃ”で、“ぎゅうぎゅう”に織った生地』。
一見しては分かりづらいものですが、最新型の織機で糸を強く張り、高速で織った生地とは、まったく違う着心地を生み出してくれるのです。
「シャトル織機」で織られたHUISの生地は、決して華美なものではありません。鮮やかなカラーのテキスタイルデザインや、目を見張るような織り柄があるわけではなく、多くは無地の素朴な生地です。
ですが、実際に着ることで、私たちの暮らしを豊かにしてくれる、そんな特別な生地です。
気付いた課題、産地の声
時間と糸を贅沢に使って織られるとびきり心地の良い遠州の生地は、世界のなかでも希少な生地。旧式の織機で織られた風合い豊かな生地は、現在、多くのメゾンブランドに使われる生地となりました。最高品質の生地を求め、世界中を探してたどり着く遠州織物。
一方、こうしたブランドの多くは遠州で織られた生地であることを語りません。
限られた生地量しか織ることのできない旧式のシャトル織機だからこそ、誰もがひとり占めしたくなってしまうもの。いい生地を作れば作るほど、産地や機屋さんにあたるはずのスポットライトは遠ざかっていく。
世界で評価される技術と生地は、遠州地域の人にさえ知られなくなってしまったのです。
HUISができること
長い歴史の中で積み重ねられてきた遠州の技術がこの先も残るために、HUISができること。
それは、「素晴らしい技術を持った人たちが、素晴らしい生地を作っている」ということを、一生懸命発信していくことだと思っています。そんな基本的な第一歩からも、遠く離れてしまっているのが、繊維産地の現状です。
WEBやSNSが発達した現代では、これまで流通の中で消えてしまっていたような情報も、産地から直接お客さまに届けることができます。産地に興味を持ち、共感し、応援してくれるお客さまへ、とびきり心地の良い洋服とともに。
日本人が誇りに思えるはずの歴史と技術、それを担う方々のことを、私たちひとりひとりが知ること。それは今の産地を支える方々の心を潤すとともに、その素晴らしい技術に憧れる次世代を生むことにもつながると考えています。
綿花を育てる棚田プロジェクト
2023年春から、HUISでは遠州の「久留女木の棚田」で綿花づくりをスタートしました。
このプロジェクトは、棚田で育てた綿花を糸に紡績し、遠州の機屋さんに生地を織ってもらって、HUISのシャツに仕立てます。
遠州は国内有数の日照量を誇り、かつては綿花の一大産地だったことから遠州織物が生まれました。地域の農業と繊維業から生まれた遠州織物は、目に見えない多くの人の手の積み重ねで作られています。
一方で私たちが売り場に並ぶ洋服を見て、こうした人たちの手、想いをイメージすることは簡単ではありません。綿花を育てて服をつくる、そのことがいろいろな気づきにつながればと考えています。
新しい風
現代において、機織りを始めよう、染色工場を始めよう、という事業者が現れることは残念ながらほとんどありません。想いはあっても実際の設備投資を踏まえれば、現実的ではないからです。
今残っている事業者さんたちの事業が健全に継続されていくことが、産地が残るために必要なこと。こうしたなかで、遠州産地の技術と伝統を伝え残そうと、繊維繊維業界に関わる若手の方々も立ち上がっています。
2023年に新たに結成した「entrance」は、さまざまな活動を通じて、遠州織物の価値を伝え産地を盛り上げることを目的としています。
「entrance」=「遠州産地(en)に夢中(trance)になる入口」という意味。
遠州織物の生地を自由に選んで服を仕立てられるセミオーダーのイベントや、機屋見学ツアーの開催など、産地の若い担い手自らが遠州織物の魅力を伝える取り組みを行っています。
日本中の産地との輪
私たちは、HUISの活動を通して、遠州以外にも素晴らしい生地づくりをするさまざまな繊維産地の方々とご縁をいただいてきました。
こうしたさまざまな産地間交流のなかで、いくつかの新しいブランドが生まれてきました。
最高級のSUVIN COTTONで作る和歌山の丸編みカットソー「HUIS in house」や、旧式の巻取り式ダブルシリンダーで編む「HUIS.のくつした」、柔らかく暖かな尾州のリサイクルウールでつくる「遠州×尾州シリーズ」などは、いずれも各産地の特徴あるものづくりを味わえるアイテムです。
素材のこと、日本の繊維産地のことを知ると、〝おしゃれ〞はもっともっと楽しくなるはずです。
唯一無二の繊維産地が残るために
売り上げだけを意識するのであれば、売りやすいもの、買ってもらいやすいものを届けていけばいい。
でも、これからも産地が残るために、日本人が日本のものづくりを誇りに思えるようになるためには、「産地の魅力をどれだけ伝えていけるか」が大切なことだと思っています。
遠州織物のほかにも、日本には素晴らしい繊維産地があります。
その中でも、遠州でものづくりをする私たちは、遠州織物がいちばんだという気持ちでものづくりをしたい。遠州の中でいちばんだと思う生地を使い、一生懸命発信する。さまざまな繊維産地発のブランドが、そんな想いで切磋琢磨していったら、どんなに素晴らしいことでしょう。
そんな未来のために、私たちはこれからも多様な方が遠州織物や繊維産地に触れられる機会を数多く作っていきたいと考えています。
書籍【HUIS.の服づくり】は全国書店で発売中です。
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高品質な“遠州織物”を使用したシンプルな衣服。
ふくふくとした豊かな生地の風合いを大切に。
HUISweb | www.1-huis.com
HUISonlinestore | https://1-huis.stores.jp
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