スノーマジックファンタジー
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未来なんて来なけりゃ 皆とのこの差も
これ以上は開くことは無いのにさ―SEKAI NO OWARI「銀河街の悪夢」
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大学を留年して職がないまま卒業、なんとか就いた仕事は一年続かずに年末で軽い鬱をやって退職、次の春には住み込みで着物を着ながら旅館で働き始めたものの、同級生が輝く姿をSNSで見ながら毎日こんな気分だった。
冬が近付くにつれ、自分の気持ちを代弁してくれるかのような冒頭の歌を聴いては、「悲しいなんて言葉じゃ表現できないような気持ち」に襲われた。
世界遺産に登録された富士山を観に来る観光客、30日を超す連勤、一向に仕事ができるようにならない不安・・それでも、私は部屋に、仕事を教えてくれた先輩を呼んで、努めて明るく言ってみた。
前職を一年続かずに退職したこと、今年もそうなるんじゃないかと不安なこと、それでもこの仕事を続けたいと思っていること。
受け止めてくれつつ、前者は杞憂に終わることを二人とも望んだ。
12月23日。
朝、目が覚めると、私の身体は動かなくなっていた。
電話もできない。布団の中で、明るくて雪が反射する景色を見ながら、寝ることしかできない。
長いような短いような、起きてるのか寝たのか、とにかく色々とわからない時間の後、インターフォンが鳴る。先輩だ。
寮の管理人に頼んでオートロックを開けてもらい、その間にベランダに私が飛び降りていないか確認したという。
12月24日。
ひどい休み方をしたという罪悪感と、必ず午後一に間に合うように病院に行って、言い訳ができそうな診断名をもらう。私に考えられるのはそれくらいだった。
ピンクのmoco。先輩の名前を略したような可愛い車に乗せてもらって、小さな心療内科へ。
初心の問診票を書き、待つ。待つ。待つ。インタビューのような検査。待つ。待つ。待つ。診察。待つ。待つ。待つ。会計。薬を買う。合わせて4時間、先輩は、寒くて暗い車の中で、ずっと待っていたらしい。
何か食べに行こう。
耳を疑った。帰るんじゃないのか。旅館では、仕事を教えてくれた人を「お母さん」と呼んでいたが、目の前にいるのは聖母マリアだったのだろうか。
驚いている私を横目に、先輩は車を走らせる。田舎に暮らしながら車を持たないペーパードライバーの私は、車で行けるお店など知らない。
着いたのは、実家の近くでは行ったことのあるチェーンのレストラン。どこかホッとした気持ちを覚えた。
メニューを見てびっくりした。そうだ、今日はクリスマスイブ。一緒に過ごすような人はいないよと笑う先輩だが、だからってこんなに手のかかる後輩とフルコースを食べることもないだろう。乾杯しながら「メリクリ♪」と楽しそうに見える先輩に、一瞬、同い年なのかと錯覚するような親しみを覚えるくらいだった。
貸し切り状態のレストランで、にぎやかでありながら品のあるウェイターさんがやってきた。ドリンクバーを知り尽くし、綺麗な色をしたカクテル風のドリンクを作ってくれたのだ。ローズマリーを濃く入れ、オレンジジュースを注ぐこのスペシャルドリンクは、今でも私がよく作るレパートリーのひとつだ。
なぜかおごられた私は、あろうことか、近くにある公園でイルミネーションをやっている、と思い出した勢いで言ってしまう。なんと図々しいことかと思うが、先輩はまた楽しそうに見え、もちろん車を向かわせる。
イルミネーションにときめき、花火はまいあがり、雪がきらめく。
まるで、一日のうちに、ピンチから救ってくれたヒーローと恋に落ち、デートで幸せな時間を過ごしたかのようだった。
あんなに胸躍るクリスマスは、きっと来来来世になってもこないと思うのだ。
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"煌めき"のような人生の中で 君に出逢えて僕は本当によかった
(中略)
空は青く澄み渡り 海を目指して歩く
怖くても大丈夫 僕らはもう一人じゃない―SEKAI NO OWARI「RPG」
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今、私は、「彼女に笑顔で近況報告すること」を目標に、日々を大切に生きている。