飲み会にお金を払いたくなさすぎてやばい

 人生は後悔の連続である――誰が初めに言ったのかは知らないが、この格言はもはや金言である。後悔しかしない。マジで、やっちゃった後に、あ――って小声で叫ぶ。
 大声じゃない、大声で叫んでもどうにもならないということを知っているからだ。どうにもならないと知っていることをあえてやろうとすることほど傷つくことはない。フラれるのが分かってて告白してみよう――みたいな。だから――慎ましく、心の中で叫ぶ。心の中で叫んだのが、少しだけ口の隙間から漏れる。あ――はそういう余情だ。本当に辛い。本当は後悔したくないのに――戻ってこない時間に絶望する。

 と、こんなん、めっちゃ小説の書きだしみたいに、仰々しい言葉で悲劇を嘆いてみたのだけれど、もうね、多分俺の悩みなんてショボいと思う。ショボいんだけれど、死活問題でさ、ことあるごとに愚痴っちゃうんだよね。友達にも「またその話?」って言われるレベル。
 いやさ、根に持つんだわ、マジで、ホント根にもつ。殊にお金のことになると根にもつ。俺、マジで貧乏だしさ――書籍にお金を使いたくって仕方ないし。だから――お金は。無駄なお金を使ったときの後悔ったら半端ない。何が無駄だったのかを、これから懺悔したい。ちなみに「いい勉強代じゃん」って慰めはダメだよ。ホント、それ言った瞬間、勉強代として財布から二万円盗むからな!

 ちなみに言い訳をしておくと、これは僕自身の価値観です。愚痴だからね。「こうするべき」を含まない。これ書いておかないと、ホント後で誤解されて叩かれるから――愚痴書いて叩かれるのはもう嫌だ(笑)
 でも一方で、これは愚痴なので、「こうなればいいなあ」って願望は含んでいる。だって愚痴だもんね。ぐるぐると胃の中を混濁する悪感情の吐露で、世の中が少しでも変わればいいなあって思いは当然ある。「あの上司、改心すればいいのに!」みたいな。

 で、何を後悔しているかというと――二つある。一つは、去年の八月に行った飲み会のこと。「マジか、一年前だぞ」ってツッコミはなしね。マジで根に持っているんだ!
 で、これは「後悔」なので、僕が悪い。ある日、「久々に会おうよ!」というラインが俺の元に届いた。「会おうよ!」と言われたら、「いいよ! 誘ってくれてありがとう!」と送る以外ない。その文面で送ったら、まず日程の確認が始まった。

「25日あいてる?」

 ――今考えるとね、日程の確認を先にやっちゃう誘いには安易に乗らない方がいいと思う。よっぽどね、信頼できる友達ならともかく。久々に会う友達がこれをしてきたら、絶対警戒した方がいい。どんな誘いか分かんないじゃん。「会う」って言葉の多義性。この多義性に踊らされるだろうこと間違いなし。
 しかし俺はアホなので、予定を確認し、ちょうど空いていることが分かると「あいてるよ!」と返してしまった。じゃあ「五時に新宿ね」ってなって、僕は25日を心待ちにして一週間を過ごすことになった。

 当日、新宿駅に降り立って、その感覚は突然訪れた。ちょうど改札を抜けた後で――フッと。
 あれ? そういえば今日飲み会だって聞いたけれど、いくらだ? ――と、今回の飲み会の場所が送られてきていたので、その料金を確認しようと柱のそばに立ち止まって確認する。食べログの、料金の目安はスルー。どうせあれは高めに書かれている。まさか、5000円を超えるなんてあり得ない。ね。
 しかし――メニューを見た瞬間、絶望する。食べ放題メニューの料金はやはり5000円だった。食べログの目安はジャストヒットだった。バカにしていた、食べログを――俺は既にエレベーターに乗っていた。心臓がバクバクと音を立てる。同年代くらいの女の嬌声が、エレベーターの天井から聞こえてくる。エレベーター越しに声が響くなんてどんなハイテンションだ。俺なんか、マジで――スマートフォンのトークを再び見返し、「食べ放題予約しておいたよ!」の文字に再び絶望する。屋上に着く。扉が開いた。目の前は、なるほど無数のライトで明るく照らされていた。四角や三角の幾何学模様で彩られた壁が、僕を迎え入れる。その先には、仰々しい「飲み会でパーッとやりましょう!」という看板が立て掛かっていた。その奥に――嬌声を挙げた女がいた。ビールをラッパ飲みする男。目を凝らせば――懐かしい面々が、ワイワイとメニューを選んでいる姿が見えた。
「おお、フヒハ、来たか!」
 5000円が念頭にあった僕は、「お、おう」とついどもってしまった。「老い元気ないな?」と、彼は快活に喋りかけてくる。周りの同級生――中には知らない人間もいた――が、僕を興味深そうに見てくる。僕は「い、いやあ久しぶりだねえ」口の中に5000円が引っかかっていた。これから――僕はこいつらと5000円を興じなければならないのか――気分が沈んだ。しかし、沈んでばかりもいられない。なんといったって、5000円はハイテンションじゃなきゃ十分に消化できない!「ハッ、ハァ――今日はたくさんのむぞぉ!」俺は叫んだ。友人たちはウェーイ――と盛り上がった。知らん奴も、にこにこと笑って「じゃあここ座って」と言ってきた。優しい――まあ5000円だから当たり前か。ちきしょう、もう、やけ酒だ! しかし、このテーブルはお酒の置いてあるドリンクバーから一番遠い席だった。

 ――いや、楽しかったよ。楽しかったさ。むしろ、楽しかったって言わなきゃやってらんねえ。もしかしたら楽しくなかったんかもしれないけれど。いや、楽しくねえわ。一旦席に落ち着いた俺は、まあね、バーベキューだったわけなんだけれど、料理が両側に置いてあって、僕はちょうど真ん中の席。隣の隣の人に焼いてもらうことをお願いしないと料理にありつけない。
 僕はね――内気だからさ、もう全然お願いできなくって。それでも勇気を振り絞って一回か二回かお願いしたよ。友人たちはね、めっちゃ優しいから、すぐ取ってくれた。優しかった――でも、その優しさが辛い。僕のためにいちいち取ってくれるなんて、ほんと、無理だな。なんか操作しているみたいな気になっちゃって、辛すぎた。そしてドリンクバーはマジで遠い――しかも、友達が楽しい話題を喋っているときに席を立ちたくないじゃん。俺はさ――人の話を聞くのが好きなんだよね。だから、全然もう、100分コースだったんだけれど、二杯しか飲めなかった。二杯目も「フヒハ、全然飲んでないじゃん、行って来れば?」って誰かが言ってくれたおかげで飲みに行けたんだけれど――てか向いてないわ。マジで向いてない。

 そんで、更に悪いことに僕、耳が悪くって。いや、悪くはないんだよね、むしろ音楽ずっとやってきたし、多分他の人に比べて耳は良い方だと思う。バイオリンの音がずれているみたいなの分かるし。
 でも、うるさい場所で、人の声を聞き分けるのがマジで苦手でさ――そういうわけで居酒屋とかゲームセンターとか避けてきたんだけれど、マジで聞こえなくって。飲み会中ずっと前のめりで聞いてた。他の人は背もたれに背中をつけて、ゆったり人の話を聞いているわけなんだけれど、マジで耳良過ぎね? それとも適当に聞いているだけなの? とにかく俺は――マジで聞けない。向いてないね(笑)

 というわけで、俺は5000円を消費したわけなんだけれど、最近5000円とは何かをよく考える。あるいは、5000円で何ができるのか――とか。貧乏くさいって良く言われるけれど、実際貧乏だしな――ね、マジで。
 しかも5000円ってマジでやばいのよ。たとえばうな重が食べられるんだなっていう。そこそこいいやつ。後は、ロブスターとか。あれ5000円だよ。哲学書とか辞書とか買える。文庫本ならなんと、新品でも五冊はかたいね! 焼肉においても割と贅沢できるよ。食べ放題じゃなきゃさあ。しゃぶしゃぶでもいいじゃん。とにかく5000円はすごい。

 んで、僕あんまり酒を飲まなくていいんだよね。なんていうか、お酒呑んでも鬱憤を解放できないというか。むしろ、酒飲んで開放できるような鬱憤は、酒飲まなくても開放できるというか。たくさん飲んでも頭痛くなるだけだし。頭痛いことへの鬱憤が増えるだけというか。いい気分にまったくならない。そういう人、多いんじゃないかなあって思う。
 で、結構本当に仲のいい友達だと、例えばサイゼリヤとか良くいく。あるいはちょっとおしゃれしてアフタヌーンティとか。よくアフタヌーンティは高いよって言われるけれど、あれだって、ちょっといい紅茶とパスタ頼んだって、2000円か高くて3000円だからね。5000円には程遠い。5000円で、焼き肉二切れと余った野菜とお酒二杯、しかもうるさい場所で――アフタヌーンティと来たら居心地がいい。確かに、世間話のうるさいおばさんもいるよ――いるけど一グループだし。バーベキューは、どのグループもうっさい!

 しかも、僕はファミレスとか喫茶店の方が鬱憤を解消できる。日頃から溜まった愚痴を何人かで開放しあって、それこそ普段話さないような深い話をしたりして――静かだから複雑な、観念的な話だってできるし。恋バナだって、もう少し深入りできる。アドバイスだって聞けるんだ――それを考えると、マジで5000円は無駄だったなって。ありがたいけれど。でも、無駄だったわ。つらすぎた。あの5000円があれば――と思うシーンは一年経った今でもずっと残っている! 根に持っている! ダサい、貧乏くさい、ケチ! でも――アアアアアアア!

 最近もよく誘われるんだけれど――コロナ時期なので少人数だが――僕はもう行かないことにしている。場所を最初に聞くようにしている。多少嫌なやつだって思われても仕方がない。本当に居酒屋やバーベキューが苦手なんだから。頭痛いからちょっとうるさいところはやめておく――って言ってる。友達が段々減って言っているのは否めない。でも、どうしてもだめなんだ。友達が減るより、お金が減るのが怖い。っていうかさ――なんでバーベキューじゃなきゃダメなの?
 なんか変なバーベキューよりも絶対レッドロブスターの方がおいしいじゃん。あるいはうな重の方が――満点の星々の下で食事に憧れているわけでもない。久々の会話を盛り上げたいってだけ。だったら静かな場所でひっそりと盛り上がった方が絶対に楽しいっていうかさ――アア、うまくいかない。多分、妥当な線で「バーベキュー」が選ばれているんだと思う。みんながそこそこに文句を言わない会場が――統計学的に――選ばれている。僕はこの現状が嫌で嫌で仕方がない。

 悪口を書いていたらスッキリしてきた。でもこれ、本当誰が悪いとかそんなんじゃないと思うんだよね。多分、5000円は妥当なんだと思う。多分俺が幹事でもそうなる。アフタヌーンティにはできないわ。「久々に会うのになんで喫茶店?」って声があらかじめ聞こえてくる。
 そうならないには、多分四、五人の仲良しグループを一年とかで続けるしかないんかな。仲良くなった瞬間に、「ねえ、久々にサイゼリヤで集まらない?」って提案してみるとか。そういう空気を醸成するとか。いつも会うたびに「久しぶりー」だからバーベキューになっちゃうのかもしれない。でも――そんなグループ、今のご時世作れるか? 無理だな。てか、そもそも「久しぶり」的な友達に、僕はめちゃくちゃ会いたい。

 ――でね、極めつけは、ガールズバー。これも去年の十月とかだったか――入ったんだよ。ある飲み会の二次会でさ、どこも開いていなくって、歩いていたら一人が「なあ、ここはいってみねえ?」って言いだして、指さしていた看板がなんともピンク色の看板でさ。girls barとかなんとか書いてあって。
 僕そんとき「ガールズバー」って文化を知らなかったんだよね。「女の子のバー」なのか「女の子なバー」なのか「女の子がバー」なのかなんなのか全く見当もつかなくって、そしたら「男が入っていいのここ!?(※実際に言った)」ってなって、友達が「バァカ、男が入るんだよ」って言ってて、そこで察したよね。いかがわしいやつだ――みたいな。
 いや、後で聞いたところ、全てのガールズバーがいかがわしいわけではないらしい。クラブハウスとかと似ている。本当に店員の女の子と話すだけのバーもあれば、セクハラまがいな言葉を吹っ掛けて遊ぶタイプのバーもあるらしい。バーによってそれぞれなんだそうだが――僕はそんな知識全く知らないし、とりあえずネオン色の看板だし、ピンクだし、なんと「50分4000円」って書いてあって「やめよう!」って言ったんだけれど、「お前はそういうと思ったわ、でもほら勉強だと思って――」僕は「勉強」という言葉に弱いので、なるほど「ガールズ」の「トーク」を勉強しようかしらと少し思ってしまったので、そのまま入ってしまった。

 ――全然勉強にならなかったわ。その時の絶望は、ちょっとまた別の記事に書くわ。ここではとにかくひどいゲームを紹介する。「血液型当てゲーム」と「年齢当てゲーム」――はい。終わったでしょ、50分でこれしかやらなかったわ。マジで、4000円。その間飲んだのは、お通しのピーナッツと、ジントニック二杯だけ。飲み放題ってなっていたからたくさん飲んでやろうと思ったんだけれど、店員はみんな客と話し込んでて全然選べなかった。しかもクソまずいし――あれ、自前で調達したら1000円以内で収まるわ、後の3000円はトーク代ってことなんだろうけれど――俺は何? 「血液型当てゲーム」と「年齢当てゲーム」の参加費で3000円払ったのか? 終始無言だった――友達(今は「知り合い」に降格した)は、女の子相手に無双していた……。

 合わせて9000円。もっとも、この二つの事態は別々に起こったことだけれど、この9000円が今でも、今でも頭にこびりついているんだ。昨日レッドロブスターで、おいしいステーキ(2500円)を食べたんだけれど、その時もずっと念頭にあった。これ四杯分か――あり得なさすぎるな。

 もうね、話のネタがないからって、居酒屋やバーベキュー、そしてガールズバーに行く――みたいなことだけはやめたい。

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