僕の考えた超人

 僕の考えた超人が殺された。
 自由帳を切って束ねてとじた小冊子。それを持つ手が震えていた。
 僕の読んでいるのは同じクラスの山本くんが描いた『バラ肉マン』って漫画。主人公のバラ肉マンが、毎回、クラスのみんなが考えた超人と戦うのだ。
 山本くんは漫画の天才だ。今では別クラスや他学年の奴まで読みに来る。休み時間になると、彼の机のまわりには、いつも人集りができている。
 僕もその中のひとり。特にこの最新刊は楽しみにしていた。
 とうとう僕の考えた超人、放火マンが登場するのだ。
 だけど。
 放火マンはあっけなく殺された。
 バラ肉マンではなく、脇役のシビンマスクに。
 ブリブリブリッジというひどい名前の技でまっぷたつにされ。
 うんこまみれになって死んだ。
 そこまで読んで思わず声が出た。
「え、放火マンは……バラ肉マンと戦わないの?」
 山本くんはすげなく答えた。
「そんなダサい超人と?」
「でも……」
「不満なら、読むな」
 山本くんは僕から漫画を取り上げ、言った。
「自分の超人を活躍させたかったら、自分で描けよ」
 悔しくて、僕は家に帰るとノートをひろげ、放火マンを描き直した。
 僕は絵が下手だ。山本くんと違って、僕が描くとひょろひょろして弱く見える。
 それでもあきらめず描き続けた。黒く塗り潰したら少し迫力が出た。目玉も大きくした。いいぞ、これは怖い。この目から出る二千度の炎でなんでも燃やしつくすのだ。
 シビンマスクの鎧だって融かしてしまうし、バラ肉ハウスも全焼だ。
 興奮した僕は、燃える背景に描き加えた。
 山本くんが住む団地を。
 ちょっとした気晴らしのつもりだった。意地悪された仕返しだ。暴力をふるったわけでもないし、悪口を言いふらしたのでもない。なんの罪もない落書きだ。
 ただ、少しだけ、後ろめたい気持ちが残った。

 その夜、遠くの方で響く消防車のサイレンが聞こえた。
 翌朝、両親が世間話をしていた。
 学校の裏手の団地で火事があったらしい。
 それは。
 放火だったそうだ。

【続く】