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平成十五年・ガンスリンガーズ

 一九六八年の十月二十一日。その日は国際反戦デーとやらで、僕の父親は、数千人規模の集団と一緒に新宿で暴れていた。
 ヘルメットを被り、角材で武装し、駅に放火をし、電車を止めていた。
「では、このワルシャワ条約機構とセットになるのは、なにか?」
 父たちは、駆けつけた警察官や機動隊員を取り囲み、袋だたきにした。
 そして警官のひとりから、拳銃を奪い取った。
「そう、一九四九年の北大西洋条約機構だな。そして冷戦の引き金となったのは、なにか?」
 そんな父は、先月のはじめに肺がんで亡くなった。タバコの吸いすぎで。
「そう、五四年のパリ協定だな。そこで西ドイツが、なにか?」
 遺品の整理をしていた時のことだ。僕は不審な油紙の包みを発見した。
 その中には、所々に傷のある、錆の浮かんだ回転式の拳銃が入っていた。
「そう、主権回復、再軍備、NATOへの加入だな。それから、それぞれの加盟国だが……」
 数メートル先の教壇に立ち、年号と国名をホワイトボードに書き連ねている予備校教師は、この瞬間にも僕が銃口を向けているなんて夢にも思わないだろう。
 拳銃は、今じゃもう僕のペニスと完全に同化している。
 と、すぐ隣の席でノートにペンを走らせていた西野真衣が、おもむろに長い髪をかき上げた。その左手を僕の太腿の上におろす。細い指先は蜘蛛のようにデニム生地を這い上ってきて、すぐに股間の膨らみへと到達した。
「やめろよ」
 小声でいさめても、彼女は授業を受けている振りをしながら悪戯っぽい笑みを浮かべるばかり。でも、いくらまさぐったところで、僕の股間はなんの反応もしなかった。笑みはへの字へと逆転した。
 ごめん。生憎それはもう、冷たい鉄の塊なんだ。
 すると彼女は腹立ち紛れにか、膨らみの先端をデコピンした。
 意外にもコンと固い音が返ってきたせいだろう、驚いたようにこちらを見る。
 丸い目をさらに丸くして。
 おいおい、驚いたのはこっちの方だよ。
 暴発でもしたらどうするんだ。

【続く】
 

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