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嵯峨野綺譚~子狐~
夕暮れが近づいていた。
湿った雪がほとんど横殴りに降りしきっていた。
寒うぅ・・・。
薄手のセーターの上に黄色いジャンパー、手袋はしていなかった。
手の甲のあかぎれから血が滲んできたが、かじかんでしまって痛みの感覚がない。
風が一陣吹き過ぎて、雪が舞い上がった。
僕はあたりを見回した。
とっくに稲刈りの終わった田圃の向こうに大沢の池を取り囲む木々が、その手前には小さな古墳が、黒ずんだ灰色の塊のように蹲っていた。
このあたり北嵯峨の野には古墳が点在している。大阪の南部にあるような巨大な前方後円墳などではなく、小ぶりな円墳ばかりだ。
たぶん広隆寺を開き、この嵯峨の山野を拓いた帰化人の秦一族に連なる人々の墓だろう。
田圃の真ん中に脱穀機にかけた稲穂の屑を積み上げて、それこそ超小ぶりな古墳のような巨大な藁屑の山ができていた。
藁屑は直径1ミリにも満たず、長さは長くても10センチ程度の軽く、細かいもので、それらが直径15メートル、高さ1.5メートルくらいの饅頭状に積み上げられていた。
斜めに降りしきる雪の向こうに古墳があって、手前には藁屑の山。足元には半分凍てた稲の切り株があった。
僕らはその藁屑の山に取り付いて、あたかもモグラの巣のように縦横にトンネルを掘り巡らせていた。
藁屑は少し湿っていてトンネルを掘っても簡単には崩れてこなかった。
一緒に遊んでいたのはトシオとシュウジだったが、二人の姿は見えなかった。
ただ、藁屑の山がところどころ蠢いて彼等二人が今もトンネルを掘り進んでいることが覗えた。
なんやぁ~・・・。
二人の名前を呼ぶと、藁屑の山の中のどこかからくぐもった返事が返ってきた。
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