嵯峨野綺譚 ～白鷺の池～

  そうなんです。昔、ここは釣り堀だったんです。私の両親が経営していました。何十年も前のことです。
昭和の時代ならどこにでもある釣り堀でした。嵯峨にも、ここ以外に二ヶ所ありました。今では広沢の池の近くに一つ残っているだけです。
　ほら、そこの空き地のところ。そこに建屋があったんです。簡単な食堂があって、釣り道具を貸したり、餌を売ったりしてました。横には駐車場があってね。5-6台くらいは停められましたかねぇ。
　私ですか？ええ、家はこの嵯峨にありました。地元の人は下嵯峨（しもさが）って呼んでいる地域がありましてね。ここからですと東南東の方向。歩けば20-30分ってとこですかね。ええ、今はその家はありません。もう何十年も前に嵯峨を引き払ってしまいましたもんで。
　この釣り堀を閉めて、父が亡くなって、嵯峨を出ました。母の実家が名古屋でしたもんで、そっちに移り住みました。小学校の3年生くらいだったでしょうか。
　ええ、ですから言葉も忘れちゃいました。京都弁、しゃべれませんよ。