大人になるということは。
30歳になった。
本当に30年生きたのか、と信じられない気持ちになる。
九州の田舎から関西に出たのが高校を卒業した18歳で、今は結婚して東京に住んでるし、妊娠してるし、大学生である。
細胞がどんどん分裂して1人の人間になっていく様子は、妊婦健診のエコーで観察できるがなんとも信じがたい。
今やポコポコと動くが、私の子宮の中で人間がパンチしているとはやっぱり信じがたい。
そんな30歳で妊婦の自分が大学生であるのもおかしな話である。
「大学に行ってみようかな」と言ったとき、『いいんじゃない』と夫が言ってくれたから、「そうか、いいのか」と思って受験した。
子どもになかなか恵まれず、終わりの見えない不妊治療を続けながら30歳を迎えるタイミングで、自分の人生を再考した末のことだった。
結果として、入学してみたら妊娠した。
予想外だった。
何年も待ち侘びたのに、諦めたらやってきた。
私は未来に希望を抱いたことがないと思っていた。
ただ、母親から離れたい、田舎を出たい、1人で生きていきたいと思い続けたやさぐれた子ども時代だった。
高校を卒業していざ身一つで関西に引越したときは心から嬉しかった。
でも同時に、どこにいたって私は私なのだと実感した。
そんなことは元から知っていたが、知らないふりをしていたのかもしれない。「場所が変われば自分も変われる」と。
でも私は私のまま、確かに変化した。
それは成長かもしれないし、迎合かもしれない。
大人になるというのはそういうことかもしれない。
今となっては何がそんなに悲しかったかも思い出すことのできない10年前の失恋。
貧乏学生でバイトを掛け持ちしていたが、給料日前はお金がなくて1つのパンを3日に分けて食べていたら3日目に結婚式場の床掃除をしている時に気を失いそうになった。
それを見たシェフがびっくりして、賄いを作ってくれるようになった。
どうしようもない母親にずっと心を支配されていた私に「あなたはお母さんの人生を生きられない」と教えてくれた初めての上司。
私のどうでもいい話を聞いていつも「面白い」と言ってくれる数少ない友だち。
意味のないつまらない人生に、もしかしたら意味があるのかもしれないと思わせてくれた、かつて彼氏だった、これから父になる夫。
未来のためにひとつずつ、自分にしか分からない小さな希望を持っておく。
今までだって持っていた。同じようにこれからも。
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