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【あややノート】第33回 「浦河」という町でのまなび

こんにちは。HUG for ALLのあややです。いま、私は北海道の浦河町というところに来ています。なぜ私がここに来たのか、そしてこの町で何を学んでいるのかを、今日は皆さんとシェアさせてください。

「浦河町」ってどんなとこ?

札幌からペガサス号というバスに乗って4時間。苫小牧のほうから日高町や静内町を経て辿り着くのが、海沿いの自然豊かな町、浦河町です。

北海道南部に位置する、人口約12,000人のまち、浦河町。夏は涼しく冬は温暖、雪が少ない海洋性気候で、「北海道の湘南」とも呼ばれる穏やかな気候が特長です。

ここには都会の様な大規模な娯楽施設や商業施設はありません。あるのは、資源豊富な太平洋と土の恵みに支えられた、豊かな暮らし。うらかわへの旅路には、どこまでも広がる水平線と日高山脈、そして馬の牧場が広がります。

浦河町ホームページより

JRAの育成牧場や大きな調教施設もあり、馬主さんや競馬関係者の方が集まる町である一方、昆布などの海産業や夏いちごなどの農業も豊かな美しい自然に囲まれた町ですが、実はもうひとつ、世界的にもよく知られているものがあります。

それが「べてるの家」。統合失調症などの精神疾患を持つ方々が、日々の「苦労」について当事者研究を行いながら、共に働き共にくらすコミュニティで、その取り組みは日本国内だけでなく、世界でも注目されています。

べてるの家は、1984年に設立された北海道浦河町にある精神障害等をかかえた当事者の地域活動拠点です。

べてるの家は、有限会社福祉 ショップべてる、社会福祉法人浦河べてるの家、NPO法人セルフサポートセンター浦河などの活動があり、総体として「べてる」と呼ばれています。

べてるの家ホームページより

今回の私の浦河町への訪問目的は、この「べてるの家」と、もうひとつ。「浦河フレンド森のようちえん」とオルタナティブスクール「フレンド森のがっこう」。天外塾で知り合った伊原さんが運営されている「子どものやりたい・やりたくないを共に大事にしている」学び舎です。

「べてるの家」について

私がべてるに興味を持ったのは「自分の弱さも他人の弱さも受け入れ合う」という文脈から。HUG for ALLの目指したい在り方とも通じる気がして関心を持ちました。

例えば、「3分しか働けない」という人が「10分働けるようになろう」と考えるのではなく、3分でできることをがんばる。幻聴を持つ人が「幻聴を治す」のではなく「幻聴さん」と呼んで尊重し「幻聴さんコンテスト」でそのすごさを競い合う。

「成長しなくては/しっかりしなくては」みたいな感覚に囚われがちな私としては、これまで思いもしなかった「とにかく自分を肯定する」在り方。最初知ったときの衝撃はすごく大きくて、自分がいかに「否定・批判」から物事をみているのかを感じました。

そんな「べてるの家」に興味津々だった私。見学も受け入れているというお話を聞いて、べてるとは一体何なのか、実際にどんな空気感なのか、どんなことが起きているのか、それを知りたくて、今回べてるの家に伺いました。

べてるのカフェでは「幻聴さんデー」提供中!

べてるには、就労支援B型と生活介護、合同版とそれぞれ版の3つのタイプの作業所があり、べてるのメンバーはそこに通って、仕事をしたりレクリエーションをしたりしながら日中を過ごします。拠点は複数あって、利用者は約120名。99%が生活保護を受けており、半数が自宅からの通所型での利用。残り半数がグループホームを利用していて、このグループホームのうち半分はべてるが、半分は地元の診療所が運営しています。

べてるは今年で40周年。多くのメンバーが継続的に利用しており、古参メンバーも多くいるそうです。べてるは福祉施設であると共にコミュニティでもあるので、そこから「卒業する」のではなく「居続ける」ということになるのかなと思います。

「べてるの家」で感じたこと

べてるの家の見学は、約半日。中心的な拠点でオリエンテーションを受け、浦河各地の拠点やグループホームを案内いただいて、べてるが運営する「カフェぶらぶら」でランチを食べて、ミーティングに参加しました。

最初に感じたのは「それぞれがそのままでいる」という感覚。輪になって朝のミーティングをしているのだけど、不在の人もいれば、輪の外のソファ席にいる人も、パソコンで作業をしてる人もいる。自分の話す番になったら話すけど、話したくなければ話さない。

それが「日常」である中で、「目標を持って頑張りたい自分が受け入れられていない」と感じるメンバーもいるということも知りました。

「それぞれがそのままでいていい」ということは「それぞれがそのままでいなくてはいけない」ではない。「頑張りたい」も「頑張りたくない」も、どちらも受け止め合い、尊重する。それって結構難しいことだなと思います。

例えば、同じことに取り組む中で「頑張りたい人」と「頑張りたくない人」がいたとしたら。頑張りたい人は、頑張らない人に対して、もっとちゃんとやってよ!!!と腹が立ったり、いらだちを感じたりするような気がします。一方で、頑張りたくない人にとっては、頑張りたい人の存在が目の上のたんこぶ。「あ~、面倒くさい」「このまま頑張らずにやりたいよね」と、みんなで頑張らない方向にいこうとしそうです。

思い出すのは高校の部活。頑張りたい派VS.頑張らない派でもめたなぁ…。当時はどんな話し合いがなされたのかちょっと忘れてしまったけど、「頑張る人を邪魔しない」「頑張らない派も最低限は参加する」みたいな話になったような。

こういうもめごとって「自分が正しい、相手は間違っている」という前提で起きるような気がします。「頑張りたい私」を認めてほしい人、「頑張りたくない私」を認めてほしい人、それぞれが「相手も自分と同じ気持ち・考えであってほしい」と思うところから、気持ちのすれ違いやトラブルって起きていくのかもしれません。

だからこそ「自分と相手はちがう」という前提に立って、お互いの想い・考えを聞き合う、受け止め合うことが必要なんだろうなぁと思います。この感覚は保育界でよく言われる「子ども主体」という考え方にもつながっているような気がします。ということで、次は浦河ふれんど森のようちえん、フレンド森のがっこうで感じたことについてお話しします。

「子ども主体」と「自然」の豊かさ

浦河ふれんど森のようちえんは幼保連携型の認定こども園。0歳児~6歳児までの未就学児が通っています。2022年に新しい園舎にお引っ越し。森があり、川があり、畑があり、馬がいる、とても豊かな自然環境が広がっています。

北海道建築賞を受賞したすてきな園舎

園の敷地からつながったところにあるのが「フレンド森のがっこう」。小2・小3の計3名の生徒が通うオルタナティブスクールで、子どもたちは写真のビニールハウスを拠点に、庭・森・地域のさまざまな場所で学んでいます。

ビニールハウスの中と外が学び場

ここではいわゆる算数や国語などの教科書を使った授業は行っていません。子どもたち自身が「何をやるか」を決めて、自分から行動することを大切にしながら、あそびの中でそれぞれが学んでいます。この春に報道された特集番組をみると、そのあり方がイメージできるかもしれません。

子どもたちの「やりたい」を真ん中に、子どもの姿を丁寧に見て、子どもたちの遊び(≒学び)が広がるように環境を整えていく。スタッフの方々、先生方が、それを大事にしながら、園でも学校でも、子どもたちに関わっていらっしゃる姿がとても印象的でした。

園の子どもたちも、学校の子どもたちも、強制されない時間がたくさんあります。そうすると、一人ひとりが「自分は何をしたいんだろう」「何をやりたいんだろう」と考えるしかない。

そして、その「やりたいこと」が誰かの「やりたい・やりたくないを阻害すること」だったときには、自己主張するだけでなく、相手の主張も踏まえた調整が必要になる。「自分と相手はちがう」という前提に立って、自分の声も相手の声も聞き、調整をしていくことが、この場では大切にされているのだなと思います。

たくさんの自由がある中で、豊かな自然もある中で、そしていろんな人と関わる中で、いろんな調整もしながら、それでも自分で決めていくこと・考えていくこと。それは楽しいことだけど、同時にすごくむずかしいことだと、今回改めて実感しました。

この園・学校では、多くの「自分で考えて決める」機会があります。それは本当にむずかしいことだけど、その機会をたくさん持って、自己の主体性が尊重される経験をして。それが積み重なっていくことで、子どもたちが自己決定を恐れない大人に育っていくんだろうなと思います。

HUG for ALLでも、子どもたちにも、私たち大人自身も、そういう経験を積み重ねていきたい。そんなことを改めて思った今回でした。

さいごに

なんだかすごく長くなってしまいましたが、今回の浦河町での学びはすごく豊かで、本当に素敵な経験でした。浦河町で出逢ったすべての大人たち、子どもたちのことが大好きになって、本当に感謝でいっぱいです。

こういった世の中のさまざまな「新しいこと」や「素敵な取り組み」も参考にしながら、これからもHUG for ALLの活動を進化させていきたいと思います。これからもどうぞよろしくお願いします。


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