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短編小説w「ワレワレハ」

山あいの道を軽自動車で走っている。

初夏の山並みは濃い緑に彩られて、自然特有の力強さを感じさせる。

「天気が良くてよかったね」

妻が機嫌よく私に言う。

「そうだね」私も答える。

私達は、隣県にある温泉街を目指していた。今年の初めに一度行った温泉ホテルを妻が大層気に入って、また行こうとなったのだ。この時期ならきっと空いているだろう、と私も乗り気になった。

週末に合わせて有給もとって2泊する予定だった。チェックインは15時からだが、私達は待ちきれずに早めに家を出てしまった。この調子なら14時くらいには現地についてしまいそうだ。

「やっぱり早くつきそうだから、どこか寄ってく? 観光スポットとかありそうじゃない?」

と私は妻に言った。

「そうねえ」と楽しそうに妻は言い、でも買い出ししてたらちょうどいいくらいじゃない?と妻は続けた。

好奇心旺盛な妻は、この提案に乗ってくるかと思ったが、買い出しを優先したいと言った。

その温泉ホテルは、基本的に持ち込みは禁止だったがコッソリ持ち込めば大丈夫だろう。前回は、何も考えていなかったので、散々温泉に入ったあとに夜の時間を持て余してしまい、二人で「何か買って持ってくればよかったね」と話していたのだ。

夜は売店も閉まってしまい、アルコールも自動販売機はあるものの気に入ってる銘柄ではなかったのでどうせならコッソリ持ち込んでしまおうとなったのだ。

温泉街に静かに佇むそのホテルは、リーズナブルな金額で気の利いた接客はないが、いい意味で放っといてくれるので気兼ねなく過ごせるホテルだった。

食事はバイキング形式で、温泉以外はほとんど何もなかったが、アルコールとちょっとした”おつまみ”くらいあれば二人で部屋でリラックスして過ごせるだろうと思っていたのだ。

温泉街は、山あいの道をさらに山奥の方に行ったところにあった。一時期はかなり繁盛していて人もたくさん集まっていたようだが、今はどこか寂しい感じでこの時期もシーズンオフということを加味してもかなり閑散としているという話だった。

妻が近隣をリサーチして、山を超えるトンネルの手前から脇にそれた道の先にある地元のスーパーを私達は目指した。

山の方に入っていくほど周りには店らしい店はほとんどなかったので、私達は「家の近くで買い物しておけばよかったね」と話し合った。

しかし、早めに家を出ているうえに急ぐ必要もないので私も妻もちょっとした寄り道、回り道を楽しんでいた。

こじんまりした地元のスーパーはちょっと寂れたコンビニのようだったが、私達はアルコールとちょっとしたおつまみを買い、今度はまっすぐ温泉街を目指すことにした。

寄り道したことで山道をかなり迂回するルートになってしまった。

結果的に到着は15時過ぎくらいになりそうだ。まあ、急ぐものでもないし、妻も気にしている様子はない。

私達は、少しずつ険しくなってくるクネクネした山道を楽しく話しながら車を走らせていた。

明るい日差しが妻の顔を照らす。機嫌よくおしゃべりをする妻を見ながら私はなんとも言えない幸せを噛み締めていた。

初夏とはいえ、意外に日差しがキツく車内もかなり暑くなってきたので「もう大分暑くなってきたね」と言いながら私はエアコンのスイッチを入れた。

エアコンが入る音が車内に響き、吹出口から冷えた風が出てきた。

車にはナビは装備していなかったので、スマホのナビでルートを確認しながら車を走らせていたが、曲がりくねった山道は脇道や分かれ道のない一本道で迷いようはなかった。

「でもさあ、あの噂本当だと思う?」

他愛ない話が一段落して、ふと妻が私にどこか探るように言った。

”あの噂”とは、そのホテルに深夜幽霊が出るという噂だった。

その温泉ホテルの口コミを調べていた妻が、深夜温泉に入っていた客が様々な幽霊に遭遇したというコメントを複数発見したのだ。

それらのコメントによると、幽霊は落武者だったりよくわからない人影だったり色々だが、中には宿泊部屋の窓の外に宇宙人らしき人影を目撃した、というものもあった。

「ああ、まあどこのホテルにもそういった噂の一つや二つはあるんじゃない? 気にすることはないと思うけどね」と私は言った。

「気にするというより遭遇したいんだよね」

妻はなかなか好奇心旺盛な性格だった。死ぬまでにやってみたいこととしてバンジージャンプとスカイダイビングを挙げており、いつかやってみたいんだよね、と何度も言っているほどだ。

妻は、もしかしたらそんな噂も気に入ってそのホテルにまた行きたいと言い出したのかもしれない。

一方の私はというと、どちらかというと臆病な性格で人並みに好奇心はあるものの積極的に何かをやってみようということはあまり考えないほうだった。

バンジージャンプ? スカイダイビング?

考えられない。何かあったら大変じゃないか。

でも正直私は妻のそんなところにも惹かれてもいる。

私の人生において、妻のそんな好奇心や行動力が私を、私が想像もしないところに連れて行ってくれるような気もしている。

これを好奇心というなら、私も実は好奇心旺盛なのかもしれない。

「ねえ、これ煙じゃない?」妻が言った。

見ると、エアコンの吹出口から白っぽい煙が出ている。気が付かなかったが、そういえばなんとなく何かが焦げたような匂いも漂っている。

車は緩やかな斜面を登っていたが、心無しか馬力を失ってきているような感じもする。

エンジンが高温になっていることを示す警告灯が点灯していた。ボンネットからも煙が出てきて、明らかにヤバい感じだった。

山道の脇にあったちょっとした空き地のようなスペースに、なんとか車を入れたところでエンジンは止まってしまった。

「ヤバいな、これオーバーヒートかも」

ええ、と妻は驚いたように言って心配そうに私の顔を見た。

私たちの車は、1年前に中古の格安で購入した軽自動車で走行距離は11万キロに達していた。

試しにもう一度エンジンをかけてみたが、もうキュルキュルというだけでかからない。

大丈夫だよ、と私は言ったが、私も内心焦っていた。

こんな山道で、しかもホテルまではまだ30分以上かかるような場所で、車がオーバーヒートとは。こんな山道では、車もほとんど通らないだろう。実際、私達は一台の車ともすれ違わなかった。

妻は車の免許を持っていないので、何が起こっているのかよくわかっていないようだった。

私は車の代理店に電話をして相談をしたが、状況は良くなかった。

とりあえず車を修理工場のある代理店に回収するしかないが、その場所まで行くのに最低でも2時間はかかると言われた。

では温泉はどうする? 場所が場所だけに代理店は最寄りの駅までは連れて行ってくれるということだが、さすがにホテルに連れて行ってくれというのも違う気がする。しかも方向は反対方向だ。また、ホテルからの帰りはどうする? 山奥の温泉街には最寄りの駅もなさそうだ。

問題は山積みだった。

私は、ホテルに電話してみることにした。事情を話して、なんとかホテルに行く方法はないか聞いてみると、山あいの道を下ったところにホテルから一番近い駅があるとのこと。その駅の近くにタクシー会社があるので、タクシーを使ってホテルに来ることは可能ということだった。帰りは、やはりタクシーで駅まで行き電車で帰るということになる。

車内がかなり暑くなってきたので、私達は車の外へ出た。

代理店に駅まで送ってもらってそこからタクシーしかないか・・。

私がそう思っていると、妻がなんだか落ち着かない様子で私を見ている。

「トイレ行きたい」

妻が言った。

私は辺りを見渡してみた。

山、山、山、木々、森、緑。私達が車を停めている空き地のようなスペースの向こう側にも生い茂った木々の深い緑色しか見えなかった。

「トイレはなさそうだから、そこら辺でするしかないな」

私は言った。

そっか、そうだよね、と言って妻は観念したようなどこか楽しむような表情で周りを見渡した。

「車も通りそうにないから、気にする必要はないと思うよ」

あっちの茂みの向こうでしてきたら?というと妻は、わかったと言って私が指さした茂みの奥に歩いていった。

妻が特に不機嫌そうでないことが救いだった。

妻は、何でも起こっていることを楽しもうとする明るさがあった。その明るさに私は何度救われてきただろう。

しばらくして、私は何かがおかしいと思った。

妻が戻ってこないのだ。

もう10分近く経ったような気がするが。。 おかしい。

気のせいか、なんだか周りの景色が少し紫がかって見える。

目をこすりながら、妻が歩いていった茂みの方を見てみると、その茂みはまるで写真のように動きのないイメージのようで、紫色にぼやけていた。

何が起こっているのだ?

私の周りの景色全体が、まるで動きを止めた写真のようだった。私はその不自然な紫がかった景色の中で一人混乱しながら立ち尽くしていた。

ふと何かの気配を感じて空の方を見てみると、空がまるで切り込みを入れたように裂けており、そこに丸とも四角ともつかない光の塊がはめ込んだように存在していた。

それは、私の貧弱な想像力を駆使して考えるとなんとなく宇宙船のように見えた。

いや、そんな形の宇宙船など見たことがない。というより私は、宇宙船自体を見たことがない!

あれは、いわゆる”未確認飛行物体”ではないのか!

UFOだ!

こんなとき人は結局最も”ベタ”な行動をとってしまうものである(このときは”ベタ”なセリフを思い浮かべたのだが)。

「ワ・レ・ワ・レ・ハ・・」

いきなり頭の中に声が聞こえた。

これは! どこかで聞いたことがあるぞ、と私は思った。

これは、いわゆる宇宙人が話しかけてくるときに使う定番のセリフではないか!

「ワレワレハレワレワレワレワレワレワレ・・」

「・・?!」

「あ、失礼。そういうベタなイメージはやめたまえ。我々は、君の頭の中に直接話しかけている。君の頭に聞こえる声は、君のイメージの影響を受ける。余計な想像はやめてフラットな状態でいるとより我々の声が、我々が伝えている通りの内容として伝わるだろう」

私は激しく混乱した。・・・だが、同時に何ともいえない感覚も味わっていた。

ちっとも怖くないのだ。

私はむしろ、実家に帰ったような妙な安心感さえ感じていた。

宇宙人? なのか?

「う、宇宙人さんですか」

我ながらバカな質問だと思う。しかし今の状況にこれ以上ふさわしい質問があるだろうか。

「君のイメージではおそらくそれが一番近いだろう」

「一体、私に何の用ですか」

本当にバカな質問だと思う。しかしこれも私が最も知りたいことであることも事実だ。

「君は、君さえよければだが、我々と人類を繋ぐメッセンジャー候補として選ばれた。君は、我々の人類に対するアプローチを人類全体に伝える役目が担える者の”候補”として選ばれたのだ」

「な、何を言ってるんですか?」

「勘違いしないでほしい。我々は何も要求はしない。あくまでも君さえよければという話をしている、我々は決して強制はしない」

「い、いや、そんなこと言われても・・」

「正確に言うと、君は将来的にそのような役目を担う可能性があるということだ。だがそれは確定ではない。あくまで可能性に過ぎないことを伝えておく」

「・・・!」

「理解できないのは当然だ。君はまだ可能性を持っているというだけで、そうだというわけではない。すべては君次第ということになる。ただし、その可能性はそれなりに高い」

私はいつのまにか眩しい光の中にいた。それはとても心地よく、まるで温泉に浸かっているようでもあった。

「我々には時間の概念がない。だから”今”はつまり将来、未来ともいえる。君は、君の妻によってメッセンジャーとしての使命に目覚めることになる。それも確定ではないがかなり可能性としては高い。それは主に君の妻との関りによるものになる。君の妻は君に大きな、また非常に大事なことを気づかせてくれるだろう。その可能性が高いことを我々は知っている。だが、、繰り返すがこれは確定ではない。あくまでも可能性の一つだ。我々はその可能性に対してアプローチしている」

私は彼ら?が何を言っているのか全くわからなかった。メッセンジャー? 人類に対するアプローチ? 一体何を言ってるんだ、この宇宙人さんは?

「君は毎回、新鮮に驚いてくれるが、我々が君にアプローチするのは今回が初めてではない。我々は可能性に対して非常に慎重に計画し、アプローチを続けてきた。君はこれから少しずつ理解していくことになるだろう。我々は今回そのことを伝えにきた」

これは夢だろうか。しかしこんなハッキリした夢があるだろうか。私は確か、温泉に向かっていたのではなかったか。そして、どうして”今”なんだ?

「さっき言ったように我々には時間の概念がない。今というのはいつでも今なのだ。我々は一つの可能性にアプローチしている。今後また我々と会うことがあれば、君はこのことを理解し始めているということになるだろう。いずれにしても全ては君次第だ。そして君の妻は君に効果的に働きかけることになるだろう」

彼らは、私の心を読んだように頭の中に話しかけてきた。

「今はまだ理解できなくてもいい。君はまだその準備が出来ていないからだ。我々はその可能性が順調に育っているかを確認しに来ただけだ。今回はここまでだ。全ては順調なようなのでそのようになるだろう。それから、いつもの通り、君の記憶は消させてもらう。君がここまでの記憶を取り戻すのはもう少し先だが、それも君自身が決めることだ」

宇宙人!

「さらばだ! また会おう!ワレワレハ・・ワレワレワレワレワレ!」

彼らの最後のセリフは、私がイメージした宇宙人の去り際のセリフだ。

アレ、もう温泉に着いたんだっけ。やっぱ温泉は気持ちいいなあ。。。

ハッ!!いきなり我に返った。

あれ、夢でも見てたかな? いや立ったままでそんなわけないか。少しボーっとしてしまった。

何ということもなく私は辺りを見渡した。

特に変わった様子はない。山の中の小さな空き地に私は立っていた。

天気は良く、木々のざわめきが大きくなったような気がした。鳥の鳴き声も何だかクリアに聞こえるような気がする。

ジャリっと草を踏みしめる音がして、見ると妻が茂みの奥からニコニコ笑いながら現れた。

「ハア、なんかスッキリ!」

妻は楽しそうに笑いながらこちらに歩いてきた。

「外でオシッコしたのなんて小学生の時に家族で山登りに行った時以来だよ! スゴイ解放感!」

妻は楽しそうだった。

そういえば、車は? 私は振り返った。

車は運転席のドアを全開にして停まっていた。

時計を見ると2時半を指していた。

「なんかスゴイ時間が経ったような気がしたんだけど、まだ2時半か。。」

私は独り言を言った。

「私はそんな長い時間オシッコはしてないよ!」妻がふざけてむくれたように言った。

私たちは車のドアを全開にしたまま座席に座った。

私は、なんだかボーっとしたまま車のフロントから見える緑の景色を見ていた。鳥の鳴き声が聞こえる。

しばらくそうしていたら、不意に車のエンジン音が聞こえて乗用車が一台、私たちの車の横を通り過ぎた。

私は、無意識に追いかけようとエンジンを掛けようとキーをひねった。

ブルルーン!

力強い音を立てて車のエンジンがかかった。

「あ、かかった!」

妻が嬉しそうな声を上げた。私は驚いたが、まあオーバーヒートしてもしばらくしてクールダウンすれば、エンジンはかかる可能性はある。

でも、水温計の温度も下がっているし、なんとか騙し騙しホテルに向かってみるか?

妻も、その方がいい、また止まったら止まったでその時考えようよ、というので私たちはそのままホテルに向かうことにした。

「きっと大丈夫だよ」

妻は根拠なく言っていたが、妻が言うとなんだか本当に大丈夫な気がしてくるから不思議だ。

私は代理店にその旨を伝えて、車を空き地から山道へ入り慎重に車を走らせた。

代理店からはかなり心配されたが、大丈夫そうだからと無理やり押し切って後日修理に行くということにした。これでまた車が止まったらかなり迷惑な客ということになる。

山道は、すぐに下り坂になった。だからというわけではないだろうが、結局エンジンは止まらずに目的の温泉ホテルに着くことができた。

「スリル満点だったね」

妻は相変わらず楽しそうだった。

目が覚めた。

時計を見ると、朝5時20分だ。まだ寝れるが、身体の疲れはとれており眠気もほとんどなかった。

ホテルで三日目の朝を迎え、今日は家に帰る予定だ。

昨日は深夜まで一人で晩酌を楽しんだ。結構飲んだつもりだったが、温泉の効果か全く二日酔いにもならずに気持ちよく目が覚めた。

バイキング会場では落ち着いて飲めないので、私はやはり部屋でビールを飲んだ。

ホテルの近くに個人経営のスーパーがあったので(そう、ホテルの近くにあったのだ)、そこにこっそりアルコールやちょっとしたおつまみを買いに行ったりして、温泉に飽きた私は夕食が終わってから一人で深夜まで部屋で缶ビールを飲んでいた。

妻は、夕食後に飽きもせずにホテルの複数ある温泉をハシゴしていたようだ。

一度、夜に仮眠?に戻ってきたが、深夜にまた一人で温泉に行ったようだ。

隣のベッドを見ると、妻が静かに寝息を立てている。

妻の顔も心なしか満足そうだ。来るときは色々あったが結果オーライということにしよう。私はそう思った。

ん?来るとき何かあったっけ? 何かあったような気がしていたが、実際何かあったんだっけ? よく考えてみると、別に何も、、、なかったのか。一体、何を勘違いしていたんだろう。。

「んー」

妻が寝ぼけたようにベッドの中で”伸び”をして、身体の向きを変え、私に背を向けた。

私は妻に、ウズウズとどうしても言いたい言葉が浮かんできて、我慢できずに小さくつぶやいた。

「りっちゃん、いつもありがとう」

妻の反応はなかったが、それから少し恥ずかしくなって私は再び布団を被った。なぜだかわからないが妻に対する猛烈な感謝の気持ちが湧いてきたのだ。

きっとそれも温泉の効果なのだろう。私はそう思うことにした。

「あー楽しかったあ」

帰りの車の中で、妻は噛みしめるように言った。

「これもケイちゃんのおかげだね。ありがとね」

「楽しめたならよかったよ」満足そうな妻に私は運転しながら言った。

「昨日の夜、温泉で5人くらいのおばちゃんグループと一緒になって、けっこう長い時間話しちゃった。夜の2時くらいだったと思うけど、みんなテンション高くて面白かったあ」

「へえ、何をそんなに話したの?」

「なんだっけなあ。よく覚えてないけど、、どこから来たんですかーとかかな?」

「へえ、深夜になんか元気だね、みんな」楽しそうな妻につい私も顔がほころぶ。

そうそう、と妻は思い出したように言った。

「その人たち、ちょっと変わってて自分たちのことを”我々”っていうのよ」

え? 何かが引っかかった。私の中の何かが反応している。

「我々は○○から来ましたって」

「ワレワレ、、?」

「何?」妻が不思議そうな顔で私を見る。

私の思考が記憶を辿る。しかし、あるところまで行くとそれ以上先へ行けない。

「ワレワレハ・・」私は呟く。

「ワレワレハ・・?」妻が続ける。

思考が止まる。

「ワレワレです」

「ガクーッ!」

妻が助手席で大袈裟にコケてみせる。私もつい吹き出してしまう。

そうか、こういうことか。

私はわかったようなわからないような不思議な気持ちになりながら、妻に気付かれないように改めて小さく呟いた。

「りっちゃん、いつもありがとね」

私達の車は、エンジンが止まることもなく家まで走った。


おわり


※)久しぶりに短編小説を書いてみました。なんだか取り留めない感じになってしまいましたが、これはこれで思わせぶりでおもしろいかな。SFって感じになりますかね。こういった話はすでにベタ過ぎて定番のエピソードがありますよね。なぜかいつもより少し長かったので、最後まで読んでくれた方はお疲れさまでした。スキ/フォローありがとうございます。励みになります。









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