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短編小説w「聞こえた?」

僕はマリさんの薄茶色の真っすぐな髪の毛をキレイだな、と思いながら見惚れていた。

「ケンタはすぐ帰って来ると思うよ。そこ座ってなよ」

マリさんは”そこ”と言って玄関を入ってすぐ横の応接間のソファーを指さした。

マリさんは同級生のケンタのお姉さんだ。

ケンタの家に遊びに行く約束をしてたのに、家に行くとケンタは買い物に行ってるという。

マリさんは大学生ってケンタに聞いたけど、大学生も夏休みなのかな、と僕は思った。

「あたしがアイス買ってきてってケンタに頼んだんだよね」

すぐ帰って来るよ、とマリさんは独特の甲高い声で言った。

マリさんとは、前にもケンタの家で会ったことがあった。その時もテンションが高く楽しそうにいつもニコニコしていた。

僕はマリさんに促されて靴を脱いで応接間に入った。

「お邪魔します」と僕は言った。

「お邪魔してよ、どうぞ」とマリさんは言って、そこ座んなよと僕にソファーを勧めた。

高級そうなソファーに僕は恐る恐る座った。

「お茶飲むよね」と言って僕の顔を覗き込んだ。マリさんは美人だ。キレイな顔をしていてよく見ると茶色い目をしていた。

真っすぐ顔を見られて僕は緊張して小さく「ハイ」と答えた。

「オッケー」

マリさんは跳ねるように応接間を出て家の奥へと入っていった。

ケンタの家は大きく立派だった。ケンタの家族は父親の仕事の関係で10年近くヨーロッパで暮らしたらしい。ケンタは小4の時に学校に入ってきた。

最初は日本語も少しカタコトっぽかったけど、今ではもう普通にしゃべれるようになってきた。

どういうわけか僕と気が合って仲良くなったけど、海外育ちだからかケンタはちょっと変わった雰囲気があった。

来年は中学だけど、もしかしたらまたヨーロッパに行くかもしれないといっていた。

「こんな感じかな」

と言いながらマリさんがおぼんに麦茶をのせて応接間に入ってきた。

「お茶なんかあんまり入れたことないから苦手なんだよね」

と言ってマリさんはテーブルに麦茶がのったおぼんを置いて、僕の向かいのソファーに座った。

僕はマリさんがソファーに座ると思っていなかったので緊張していた。

「麦茶飲んで」

「ハイ」

なに君だっけ、とマリさんが聞くので僕は「イトウです」と答えた。

イトウ君かあ、と言ってマリさんはなぜか楽しそうに笑った。

「小学生だったらさあ、金魚好き?」

え、いや、僕は少し考えて

「普通です」

と言った。

「そっかー、やっぱそうだよねー」

金魚くれるっていう人がいたんだけどいらないよねー、と言って何かを思い出したようにクスクスしながら、

「あたし、金魚すくうのスゴイ上手で自信あったんだけど、この間やったら全然捕れなくて、、」

「ハイ、、」

僕は何と言っていいかわからず困惑しながら緊張していた。

プッ!

しまった、と僕は思った。緊張していたら僕は、ついオナラをしてしまった。しかもマリさんの前で。

「ん? あ、オッケー」

と言って、マリさんはソファーから立ち上がって応接間を出ていった。

恥ずかしさと予期せぬことで僕は激しく動揺していた。マリさんに僕のオナラはどう聞こえたのかわからないが、マリさんは返事をして出ていった。

どういうこと?

しばらくしてマリさんは麦茶を手に持って戻ってきた。

麦茶をテーブルに置くと、マリさんはまた話始めた。

「イトウ君はそれパーマ? 、、あ、そうなんだ、でもそれが普通だよ。あたしはそういう髪を見慣れてるからそっちの方が好きだなあ。あたしの髪もちょっとクセがあってけっこうハネるんだよね」

マリさんが何の話をしてるのかよくわからなかったけど、恥ずかしさは少しずつ消えていた。

「直毛じゃないんですか」

「直毛っぽく見えるんだけど、直毛じゃないんだよね」

ガチャっという音がして、ただいまーというケンタの声が玄関の方から聞こえた。

「イトちゃん、やっぱ来てたかー」

ケンタがコンビニの袋を持って応接間に入ってきた。

「ケンタ、イトウ君にアイスあげなよ」

わかった、と言ってケンタが僕にアイスを一つ差し出した。

「ありがとう」と言って僕はアイスを受け取った。

ケンタは随分たくさんアイスを買ってきていた。マリさんにも一つアイスを渡して、ケンタは家の奥に入っていった。

「ねえちゃん、なにやってんの?」

と言いながらケンタが応接間に入ってきた。手にはアイスを持っている。

「イトウ君と話してたの」

僕はほとんどオナラしかしてないんだけど、なんとなく取り繕うようにケンタを向いて頷いた。

「イトちゃん、二階にいこうよ」

「ウン」

「イトウ君、じゃあねー」

マリさんが大きな声で言ったので、僕はまたオナラが出そうになったんだけど「あ、ハイ」と言ってケンタと応接間を出た。

二階のケンタの部屋は、いつもけっこう散らかっていたけど、部屋に入ると僕は安心したのかまた「プッ!」とオナラをしてしまった。

「あ、そうかー」

とケンタは言って階段を降りて行ったんだけど、一体僕のオナラはケンタやマリさんにどんな風に聞こえているんだろうか。


おわり


※)今回はちょっとミステリアスなお話になってしまいましたね。最後に関連するお話を載せておきますね、よかったら読んでみてくださいね。スキ/フォローありがとうございます。励みになります。





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