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短編小説w「ハンバーグ」

「あ、おふくろ来てたの」

マンションのドアを開けて家に入ると、玄関に母親が立っていた。深夜の帰宅だというのに母親は寝ないで待っていたようだ。

「リエさんに、あんたがお盆は休みがとれないって聞いたから。忙しいのかい?」

実家は少し離れた隣町にあったが、車なら30分ほどで行き来できる。

「年末納品の案件の工程が遅れててねっていうか、なんでそんな格好してるの?」

母親は、いつもと違う”よそいき”の格好をしていた。

「早く入りなさいよ、ご飯できてるわよ」

母親は、私の質問には答えずにリビングへ歩きながら言った。

「リエは?」私は母親に続きながら聞いた。

「ショウちゃんと先に寝ちゃったわよ、疲れてたんじゃない」

そうなんだ、と私は言いながらリビングのイスに座る。

「なんかあんたゲッソリしてるわね。ごはんちゃんと食べてるの?」

「ああ、忙しいからね、でもちゃんと食べてるよ」

母親は私の向かいに座り、心配そうに私を見ている。テーブルの上にはリエが作った夕食が用意されている。

私は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、フタを開けて半分ほど一気に飲んだ。

「はあー」私は一息吐き出した。

「コップに入れて飲みなさいよ」母親がコップを私の前に置いた。

「いいよ、面倒くさい」

「ハンバーグでも作ってあげようか?」

「夕食があるのにいいよ。しかもハンバーグって」

「あら、あんた好きでしょ、ハンバーグ」

「子供の頃の話だろ、いいよ、これ食べたらシャワー浴びてもう寝るし」


「おはよう。昨日けっこう飲んだのね」

まだはっきりしない頭でリビングにいくと、洗い物をしていたリエが私に言った。

「ああ、なんかね」

リエの足元にビールの空缶が数本ビニール袋に入って置かれている。

「今日も遅いの?」麦茶を私の前に置きながらリエが言った。

「んーどうかな、お盆だしね。そんなに遅くはならないと思う」

私はリエが出してくれた麦茶を一口飲んだ。

「リエ、あのさ、、」

「なに?」

「、、あ、いいや」

リエは、心配そうな顔で私をしばらく見ていたが、「無理しないでね」と言った。

私は、うん、と言って顔を洗うために洗面所に向かった。



「ただいま」

私はマンションのドアを開けてリビングに向かって言った。

あ、パパだ、とショウタの声が聞こえた。

「パパ、今日早いじゃん!」ショウタが滑りながら走ってきた。

「ショウタ、久しぶり!」私はちょっと冗談めかして言った。

「久しぶり!」ショウタが片手を上げる。

おかえり、とリエも出てきた。

「早かったね」

「ああ、あ、お盆明けにはなんとか休みがとれそうだよ」

「そっか、じゃあ”お義母さん”のお墓参りいかないとね」

「あのさ、、」

私は、昨夜みた母親の夢の話をしようか少し迷った。

「、、やっぱいいや」

「なに、気になるでしょ」

リエはそう言ったが気にしている様子はないようだ。

「パパ、今日ハンバーグだよ」ショウタが嬉しそうに言った。

「おお、そうかー」

少し大げさに言って、私はリビングに入った。

「ハンバーグ食べたかったんだよ」

私はリエに向き直って言った。

「そう、じゃあ良かった!」

リエは言ってフフっと嬉しそうに笑った。


おわり


※)ハンバーグ食べてないなあ、と思うと無性に食べたくなりますね。この点カレーにも似ています。最近こんなのばっかり書いてるので、よかったら他のも読んでみてくださいね。スキ/フォローありがとうございます。励みになります。



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