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短編恋愛小説w「好きになっちゃった」

久しぶりに彼氏ができた。

前の彼氏と別れたのが、3年前か、、。

なぜ別れたのかは、思い出したくもない。たぶん私が悪かったんだろう。いや、自覚はないんだけどね。当たり前に不安になったり心配になったりしたことを伝えただけで、なんか面倒くさい女認定されたみたいで逃げられた感じ。なんでって思ったけど、きっと男はそういうものなんだろうって自分を納得させた。まあ納得してないんだけどね。

彼氏ができると、不安なことや心配なことが増えるから、そういう自分になりたくなくて好きになることを避けてた。

避けてたのになんでだろうって思う。また、彼氏ができた。

といってもまだ付き合いだしたばかりで、っていうか付き合っているって言えるのかどうかもわからない。私がこうして夜な夜なお酒を飲んで一人でグダグダやってるのも、彼は知らないし。

失恋してから、一人で家飲みするのが習慣になって、それが実はとても楽しいってことにそのうち気が付いてしまって、私は、あーこのままだと誰ともつきあえないな、と思いながらも家の外に出るときは一応ちゃんと取り繕ったりして、できないのにできる女のフリをしてみたりして自分でも微妙に痛々しい気もする。でもそうはいっても、なんだか私はいつか本当の自分でいる姿を誰かに見せられるんだろうかって思いながらハイボールを飲むのが、なんだかこの上なく贅沢なまた背徳的な感じがして、でも正直にいうととても楽しい。

彼とはマッチングアプリで出会った。誰かを好きになることを避けてたといいながらマッチングアプリで相手を探すのは矛盾しているようだけど、これは私の中でも矛盾している。でも私はもともと矛盾した人間だから、矛盾した人間としての整合性はとれている、というとまるで出来の悪い政治家の答弁みたいだけど、本当のところ私の中では矛盾はない。ん、どっち。

つまり、私は誰かを好きになることを避けていながらも、誰かと出会いたいと思っていたということ。おかしいと思うならそれでもかまわないけど。

どこかに不安や心配がない男がいないか期待していたのかもしれない。

1度だけ彼のマンションに行ってセックスをしたけど、見た目がそれほど好みではないからか不思議なほど執着がない。

以前の彼氏は見た目がカッコいい分、女友達に嫉妬したり、LINEがいつまでも既読にならなかったり返事がなかったりすると不安でたまらなくなったり、彼氏の行動や言動に振り回されてきたけど、今の彼は執着がない分とても楽だ。執着がないから私も自由にできる。

彼はまだこのマンションに来たことがない。いや実を言うとマンションの前まではきたことがある。そのときは私が部屋に入れなかったのだ。

彼のことを本当は好きではないのでは、と思うこともなくはないが、そもそも私はだらしなくて自堕落な面があるってことをようやく認めだしたところなので、私が認めている私をもし彼が認めてくれるなら、そんな彼を私はきっと好きになる気もする。

もし彼が家にいる本当の私を好きになれないとしたら、それはそれで仕方がない。幸い今私には執着がないので、もう1回くらいセックスして別れるか、セフレとしてそれなりに付き合うか、やりようは色々あるような気がする。

そういう意味では別れてもたぶん平気な今の彼氏は、ある意味で私の理想なのかもしれない。

好きかと聞かれればたぶん好きだとは思う。

でも本当に好きになるともっと苦しくなるということを私は経験的に知っている。好きで好きで仕方がなくなると、彼の周りの全てが気になりだすし、周りの女がみんな敵にも見えてくる。

好きすぎると苦しいものなのだ。

もちろん、私の好きに耐えられるほど私のことを愛してくれるなら、最高だと思うけど、それを求めるがあまり彼氏に執着してしまうとどうしようもなく彼氏を追い詰めてしまう。悪い癖だけどこれは性だからどうしようもない。

でもどうだろう、今の彼に対する平常心は我ながら笑えるほどだ。

カコッ!

缶のハイボールを開ける

お酒によって酔い方って違うのかな。ビールはとにかく騒ぎたくなるし、ワインは思い出を語りたくなる。ウイスキーはウンチクを語り、日本酒はとにかく泣く。ハイボールは、、何だろう。

今の彼氏は顔はそんなにタイプではないけど、愛嬌があってどこか無防備な可愛さがある。

初めて彼のマンションにいったとき、テーブルのパソコンが何かの拍子で立ち上がり、モニターにエロ動画が映っていたのを見た時。あ、こいつ好きかもって思った。無防備さがなんか私と同じレベルで、セックスする前からセックスした後みたいに距離が近くなった気がした。OLモノとか好きなんスよねってまるで男友達に話すみたいに私に言い出して、本当ならキモイって思うところだけど、私はちょっと可愛いって思ったんだよね。だって私だってそういうキモさでいったら負けてないし、なにより、だからエリさんわりとタイプなんスよねってこの期に及んで言い出したりして、こいつ私に嫌われてもいいのかなっていうほど無防備に自分をさらけ出して、あ、この男ならシてもいいかもって思ったんだよね。

このときから私は彼の前でわりと無防備に自分を出すようになった。相手も無防備だからバランス的にね。別に嫌われてもいいやって感じで。

「仕事終わったー」

彼氏からLINEが来た。

「お疲れさま」私は返信する。

「エリさん、家?」

「うん、もう飲んでるよ」

「これから行ってもいいですか? 明日休みですよね」

「ダメ、部屋散らかってるから」

「気にしないよ」

「私が気にする」

「大丈夫」

「大丈夫じゃない。めんどくさい」

「行きたいです」

「うーん、、じゃあアルコール買ってきて」

別にいいか、嫌いになるなら嫌いになれ。

彼は袋イッパイのアルコールとおつまみを持って部屋にやってきた。

「どんだけ飲むつもりだよ!」

私はハイボールでもうすでにかなり酔っぱらっていた。

「エリさん、けっこう飲んでますねー。顔が赤くなってていい感じっスよ」

「そりゃ飲みたいときもあるよ」いつもだけどね。

「悩みがあるなら、彼氏に話してくださいよ」

「彼氏だったっけ?」

「そうですよ、なんでも聞きますよ」

「じゃあ、なんで男はセックスするとLINEをスルーするようになるの。既読にすらならないってどういうこと?」

「オレはスルーしませんよ」

「じゃあ、なんで男は女友達にあんなに無防備なの?あわよくば狙ってるってなんでわからないの? 彼女の前で女友達が可愛いってどうして言えるの? 私を不安にさせといて束縛がキツイってどうゆうこと? ちゃんと愛されていれば束縛なんかしねえよ!」

「荒れてますねえ。オレはそんなことしませんよ」

「私はねえ、だらしないし面倒くさいんだよ! 好きな人のことは独り占めしたいし、当たり前じゃんそんなこと! でも自分が一番愛されてるっていう自信があれば束縛なんてしねえよ!」

「オレはエリさんが一番好きっスよ」

「お前、私の彼氏か?」

「そうっスよ、忘れたんスかあ?」

「こんな面倒くさい女のどこがいいんだよ」

「言ったじゃないっスかあ、エリさん、オレのタイプなんスよ」

「なんでよ? 私のこと、本当に好きなの?」

「オレはエリさんのこと世界で一番好きですよ。愛してます」

「ん、、」

泣きそうになった。こんなにストレートに言われたことは今までなかった気がする。

あ、これおつまみに、美味しいですよと彼は、コンビニで買ったらしい総菜を開けてテーブルに置いた。

「エリさんはオレのこと嫌いですか。まあ、オレそんなにカッコよくはないっスけど、、」

「、、好きだよ、、私も。、、私はだらしないけど、彼氏は大事にするんだよ!」

「知ってますよ、エリさん美人だし最高ッスよ!」

この人もいずれ私のことを嫌いになるのかな。まあいいか。でも嫌われたくないな。

目を覚ますと、まだ夜、いや早朝か、窓から感じる外はまだ暗い。隣には彼が寝ている。私はTシャツに下着だけ。少し身体が重い気がするがこれくらいなら大したことない。私は寝息を立てる彼の体に足をのせて、また眠った。

外が明るくなり、部屋全体が白く昼の雰囲気になってきたころ、私たちは目を覚まし2回セックスした。

彼が白い天井を見つめながらなぜか感慨深げに言った。

「なんかエリさんの部屋、女の子の部屋って感じっスね」

どこがだよ、と私は思ったけど、それは言わずに私は「ねえ」と彼に向き直った。

「エリさんじゃなくエリって言いなよ、彼氏でしょ」

「え、わかりました」

「あと、そのちょいちょいでる敬語っぽい感じもやめて」

「んー」

「なに? 気に入らないの?」

「え、いや、最高っス。あっ」

クスクス、どうしてだろう笑いがこみ上げてくる。

「あーオレ、エリさん、エリと会えて幸せだなー」

この男、一体どういうつもりなんだろう。私はどこか甘い怒りを感じながら彼に抱きついて小さく言った。

「、、私も」

あーあ、好きになっちゃった。でも不思議と不安な気持ちは湧いてこなかった。

しかも、よく見るとちょっとカッコいい顔してるじゃん。


おわり


※)前回のヤツよりこっちの方が恋愛小説っぽいですかね。まあ何にも起こりませんけどね。スキ/フォローありがとうございます。励みになります。



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