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短編小説w「あたしと仏像」

「あんたモテるんだから誰でもいいから付き合えばいいのに」

サークルの女友達のリエちゃんが、よくわからない名前の泡立ったカフェオレ?みたいな飲み物を飲みながら、あたしに言った。

「うーん、好きな子がいないんだよね」

あたしは心の底から言った。だって本当にそうなのだ。

「この間も3年生から告白されたんでしょ?」

告白というか、付き合ってといわれただけ。あ、でもそれっていうのが告白か。

「告白っていうか、ライブに誘われたから一緒に行ってきただけだよ」

「でも付き合ってって言われたんでしょ?」

「うーん、嫌いじゃないし楽しいんだけど、そんなつもりじゃなかったんだよね」

こういうことってよくあるんだよね。あたし、男も女も友達はメチャクチャ多いからあちこち一緒に遊びに行くこともよくあるんだけど、普通に仲良くしているとなんかイケると思うみたいで、よく付き合ってって言われるんだよね。なんか俺たちいい感じだよね、付き合っちゃう?みたいなね。

でもあたしはそんなつもり全くないから、笑ってごまかしたり首を傾げてみたりしてとぼけたりするから、なんか変な空気になるんだよね。

「サークル内でもあんたのこと好きな子いるみたいよ。モテるんだから付き合っちゃえばいいのに」

サークル内はありえない。

時々あるんだけど、サークル内でカップルになって実は・・ってやつ。

サークルは30人くらいだけど、いちいちみんなの前で

「私達、付き合うことになりました」

っていわなきゃいけないのが、ホント嫌。でも言わないとなにかと面倒くさいんだよね。とにかく、サークル内で付き合うのは嫌。まあ、気になる子もいないし、関係ないんだけど。

「リエちゃんは、好きな子とかいないの?」

あたしはグレープフルーツジュースを飲みながら聞いた。

「今、いないんだよね。でも元カレがなんかストーカーみたいになっててちょっと気持ち悪いんだよね」

「え、ストーカー?」

「そう、まあラインをしつこく送って来るくらいなんだけど。別れてるのになんかね、話すこともないし」

「なんて送ってくるの?」

「ええ、なんか”何してるの”とか”元気?”とか」

「ふーん、それストーカーなんだ」

「まあ、ストーカーは言いすぎかもだけど、今付き合ってないのにまるで付き合ってるみたいに普通にラインしてくるって、どうよ。ブロックしてやろうと思ってるんだけど」

ストーカーは確かにちょっと気持ち悪いけど、リエちゃんカッコいいなあ。あたしも、元カレが、なんて言ってみたいなあ。

「あ、そろそろいかないと」

あたしはグレープフルーツジュースを慌てて飲み干しながらリエちゃんに言った。

「サカタくんとお茶する約束してたんだよね」

リエちゃんは少し呆れたように「サカタくんってサークルの子じゃない」と言った。

「そう、でも友達だからお茶するだけだよ」

「あんたね、付き合うつもりがないなら、あんまり思わせぶりなことしないほうがいいよ」

「大丈夫だよ。サカタくんはお茶したいだけだって」

リエちゃんは、やれやれって感じでヨーロッパ人みたいにオーバーに肩をすくめて

「でも、お茶のハシゴってどうよ、、」

と独り言のように言った。

「でね、おじいちゃんが入れ歯をカタカタさせながら”ほらマリ、おじいちゃんの歯、おもしろいだろうって”ってやるから、あたしは大爆笑しちゃって、、」

「へえ」

サカタくんは、それまであまり話したことがなかったんだけど、この間のサークルの合宿の自由時間にみんなで観光に行った有名なお寺の仏像を見てあたしがクスクス笑っていたときに「これいいよね」って話しかけてきたんだよね。地味な子なんだけど、それからよく話すようになって。って言ってもほとんどあたしが話してるんだけどね。でもサカタくん、なんか仏像にすごく詳しくて色々教えてくれるんだよね。でも話すことは大体仏像のことで、よっぽど仏像が好きなんだね。

「ミナシロさあ、今度上野で有名な仏像が展示されるんだけどさ、、」

サカタくんがまた仏像のことを話したので、あたしは可笑しくてクスクス笑ってしまった。

「そういえば、合宿のときに見たお寺の仏像面白かったよね。あれ、あたしが通ってるスポーツジムのインストラクターにすごい似てて、今でも思い出して笑えるくらい。そのスポーツジムに少し年上の看護師のお姉さんがいるんだけど、その人看護師だから、人の目を見てその人が死んでいるかどうかわかるんだって。すごいよね」

「へ、へえ、そうなんだ、目を見て、、」

「そう、前にイギリスに学校の合宿で行ったときに、クラスメイトの一人が痙攣みたいのを起こして倒れたことがあって、みんなで大騒ぎになったんだよね。そういうときに、そのスキルがあれば目を見てその子が死んだかどうかがわかるの。あ、もちろん死なないほうがいいんだけど」

「う、うん」

「すごいよね、そのお姉さんもなんか持病みたいなのがあるみたいで、身体を鍛えるためにジムに通ってるんだって。あたしがエアロビクスで踊っていたら、そのお姉さんになんかもっと前に言ったらって言われて、インストラクターの目の前で踊るようになって、なんかすごい特等席って感じだったんだよね。自分から真ん中にいきたいわけじゃないんだけどいつの間にかそういうことになっちゃうんだよね」

「あ、あのミナシロさあ、、」

「あ、ごめんね、あたしばっかりしゃべってるね。それで仏像がどうしたんだっけ」

「あ、えーと、仏像の展示会に一緒にいかないかな、と思ってさ」

「え、あたしと? 行きたいの?」

「まあ、よかったらだけど、、」

「仏像の展示会って美術館だよね、面白いよね、フランスでルーブル美術館に行ったとき、弟のケンタが迷子になっちゃって大変だったんだよね。探しているうちにあたしも迷子になっちゃって。不思議なことにお父さんが見つけてくれたんだけど、ケンタもあたしもオッチョコチョイチョイだから」

「おっちょこちょい、ね」

「あ、そうか、アハハハ! あ、ヤバい!ジムでボクシングダンス予約してたんだ、サカタくん、ごめんね、あたし行かなきゃ!」

あたしは、慌てて立ち上がってサカタくんを見た。

サカタくんは、なんか泣きそうな顔をしながら、あ、これ払っとくからいいよって言ってくれた。

カフェを出て、駅までの道を、そういえばサカタくん仏像の展覧会って言ってたよねって思いながら、あたしは早歩きで急いだんだよね。

それから何日かしてあたしは大学でリエちゃんと会った。

「あんた、サカタくんをフッたんだって?」

「え、フってないよ。っていうか告白されてないけど、、。あ、そういえば仏像に誘われてたんだ!」

「何があったか知らないけど、なんかサカタくんがミナシロにフラレたって話になってるみたいよ」

「えー告白とかもされてないけど、、仏像には誘われた気がするけど。まあでも同じサークルだし、告白されてもナシはナシだけど」

「ふーん、サカタくん地味だけど割とカッコいいしいいと思うんだけどね」

うーん、そんな目で見てなかったなあ。でも仏像を見に行くのは面白そうだよね。

あたしはサカタくんの顔を思い出してみた。

確かにちょっとカッコいいかもね。ロボットみたいな感じもするけど、割と個性的かも。

あたしはリエちゃんの顔を見るとはなしに見ながら考えてたんだけど、リエちゃんの後ろにサカタくんが歩いてるのが見えて思わず大きな声を出した。

「あ、サカタくーん」

サカタくんは、少し驚いたような顔をしたけどあたしを見て照れたように笑った。

あたしはサカタくんに駆け寄って言った。

「サカタくん、あたしサカタくんをフッてないよね」

「え、ああ、えっと、、」

「仏像のヤツ行こうよ」

「ええ、ああ、えっと、招待券があったんだけど、母親がどうしても行きたいっていうからあげちゃったんだよね、一枚はあるけど」

「ええ!そうなんだ、じゃあ仕方ないか、、残念!」

「あ、でも行きたいなら、お金出してあげてもいいよ。ちょうどバイト代入ったところだから」

「ホント!?いいの? やったー」


「あんた、ホント酷いね。サカタくんと付き合う気ないんでしょ? サカタくん、期待しちゃうよ? お金まで出してもらうなんて」

サカタくんと別れた後、リエちゃんが呆れた顔してあたしに言った。

「そっか、確かに。でもあたしも仏像見たいし、お金は持っていって払うようにするよ。そうすれば、あたしもサカタくんも仏像が見れてウィンウィンだよね」

「あんた、いつからそんなに仏像が好きになったのよ」

「ええ、仏像おもしろいよ。ジムのインストラクターに、、」

「ハイハイ、わかったわよ。もういっそのこと仏像と付き合えば? よくわかんないけど」

リエちゃんそう言ったので、あたしは可笑しくてアハハハって笑っちゃったんだよね。それはないでしょ。


仏像デートの当日、サカタくんはやっぱりあたしのチケット代も払ってくれた。

とても楽しかったし、サカタくんも満足そうだった。

あたしはサカタくんと”またこういうのあったら行こうね”って約束して別れた。

ちなみに、仏像見た後のカフェ代はあたしが払った、一応ね。

リエちゃんは、それを聞いて”はぁ”ってため息をついてたけど、まあよかったんじゃないって言ってくれた。


おわり


※)最後まで読んでくれた方、ありがとうございます。久しぶりに短編小説を書いてみました。なんでも書けるのがnoteのいいところですが、短編小説ってどうなんですかね。楽しんでもらえたら嬉しいです。スキ/フォローありがとうございます。励みになります。








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