ふるさと納税の繁栄が地方の衰退を招く
昨年度(2023年4月から2024年3月)、ふるさと納税により全国の自治体に寄付された額は約1兆1100億円で、初めて1兆円を超えた。これは、前年度比で約1.2倍、令和元年度比で約2.3倍もの増加となっている。
こうした文脈で、ふるさと納税の規模拡大が喜ばしく伝えられているだろう。利用者個人の視点から見れば、所得税や住民税が控除され、2000円の負担で返礼品が貰えるおいしい制度だ。
しかし、私は、ふるさと納税の繁栄が地方の衰退を招くと考えている。その原因は、地方税が民間へと流出してしまうことにある。ふるさと納税制度がなければ、各自治体の歳入になるはずだった地方税が民間企業に流れているのが実態だ。その額は約3733億円と試算することができる。(自治体の機会損失額も含む。)
まず、3733億円の根拠となる具体的な数字を図①、②から整理する。
・令和6年度の住民税控除額:約7682億円(図①)
・令和5年度、ふるさと納税の受入額に占める制度運用費の割合:48.6%(図②)
図②から、ふるさと納税受入額のうち、約半分程度がふるさと納税制度を運用するために使用されていることがわかる。つまり、住民税控除額に関しても、約7682億円のうち48.6%の、3733億円がふるさと納税制度を運用するために使用されている。したがって、ふるさと納税により、3733億円の住民税が民間企業に流れていることになる(ここには自治体の機会損失も含まれる)。
3733億円という額は、住民税歳入額約16兆2000億円(令和6年度地方財政白書)の約2.3%を占める。もちろん、ふるさと納税の受入額が増加すればするほど、民間への住民税流出額が大きくなる。
今後の予測を立てることは難しいが、ふるさと納税の規模拡大には限界があることはわかる。住民税の2割が控除限度額となり、控除限度額よりも大きな寄付は基本的には行われないからだ。現在の住民税額ベースで見れば、ふるさと納税の最大規模は約4.7兆円と試算できる(計算式は下記記載)。最大規模とは言わずとも、仮に4兆円規模ともなれば、4兆円のうちの48.6%、2兆円近くの住民税が民間に流出することになる。
4.7兆円の計算式:約3.2兆円(住民税16.2兆円×0.2)+約1.5兆円(3.2兆円÷2.2(受入額全体のうち所得税に対する住民税の比率))
ここで、住民税の民間流出の是非を考えたいが、まずはふるさと納税の意義を確認する(総務省「ふるさと納税の理念」より抜粋)。
①納税者の税金に対する意識が高まる
②地域に貢献できる
③地域の在り方を考えるきっかけとなる
ふるさと納税には上記3つの意義があるのだが、それぞれに貢献できているかは不明だ。税金に関しては、利用者からすれば、税金が控除され、2000円の負担で返礼品が貰えるおいしい制度といった程度の認識にとどまっているだろう。地域貢献などに関しても、返礼品の魅力を伝えるに終始している自治体が多い。また、ふるさと納税による寄付金を何に使用したか報告していない自治体も半数程度存在している。
こうした現状のふるさと納税制度の財源の大半が実質的に住民税で賄われていることを考えなくてはいけない。言い換えれば、地方の自主財源である住民税を市場化し、自治体同士で奪い合っている現状をどう考えるかだ。
そもそも、住民税は、自治体が提供する行政サービスの財源とし、国民は曲がりなりにもこれに賛同しながら納税している。自治体にとっても、比較的自由に使うことができる貴重な自主財源の1つとなっているのだ。
つまり、自治体の行政サービスの財源となっている住民税が、ふるさと納税の意義を達成するために使用され、その過程において、多額の住民税が民間に流出している。
ふるさと納税の意義から考えるに、私は、あまりに非効率的な制度だと思う。応援したい地域への資金を提供するのであれば、住民税が民間に流出しないよう、よりダイレクトかつ自治体の負担が少ない形で、資金が提供されるようにする必要がある。また、都市部のみならず、ふるさと納税に積極的に参加していない、参加できていない小さな自治体でも歳入が減少していることも見逃せない。
現状、自治体の歳入になる予定であった地方税が、自治体から民間に流出しているは否定できず、これ以上に住民税の流出が拡大すれば、自治体の歳入が減少し、地方が衰退する原因になってしまうだろう。